↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョン管理者の物理BAN《R》 ――迷惑系配信者をデコピンで追放したら、拾った可愛い子たちが最強に育っていた  作者: セキド烏雲


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
1/1

第1話 【物理BAN】デコピンで迷惑配信者を星にしてみた

【とあるダンジョン、第1階層:月光草の洞窟】


「――うぇーい!!聞こえてるー!?ここが未解析ゲートの内部だぜぇぇぇッ!!」


画面の中で、派手な髪色の少年が両腕を広げていた。登録者十万人のダンジョン配信者、キョウヤ。その周囲には三機のドローンカメラが浮かび、足元に広がる青白い花々を映している。


「見ろよこの景色!加工なしでこれだぜ!?」


『キョウヤきた!』

『ここ最近できたダンジョンだろ』

『東海X-9?』

『草まで光ってんの綺麗だな』


「お、なんだこの草。光ってて目障りだな。そーれっ!!」


ブチブチッ。


キョウヤは足元の花を引き抜き、カメラへ投げた。青い花びらが散り、背後にいた小柄な少年の靴先へ茎が落ちる。


『今、景色褒めてなかった?』

『いきなり自然破壊』

『後ろの子、荷物すごくね』


少年は背中のリュックを揺らしながら屈み、千切れた茎を拾った。指先についた淡い光を見つめ、洞窟の奥まで続く花畑へ目を向ける。腰には、まだ使い込まれていない短剣。鞄についた探索者証には、Fランクの文字があった。


「お、なんかいたぞ!レアじゃね!?」


キョウヤが岩陰へ網を振り下ろした。捕らえられたのは、桜色をしたスライムの幼体。網の中で、小さな身体を懸命に縮めている。


「へへっ、ゲットォ!おい、アスカ!サムネ用に写真撮れ!」

「あ……うん」


呼ばれた少年が花を脇へ置き、スマホを取り出した。キョウヤはスライムを乱暴につまみ上げ、空いた手でポケットから油性マジックを抜く。


「ほら、俺のサイン入れてやるよ」


桜色の身体に『キョウヤ参上』という文字が走った。その下に、下品な落書きが増えていく。スライムが身をよじるたび、キョウヤの指が真ん中へ食い込んだ。


「うわ、描き心地キッモ!ちゃんと撮れてる?」

「あの……それ、もういいんじゃ」

「は?まだこれからだろ」


キョウヤはマジックをしまい、粗い塩の入った小袋を取り出した。


「お次は耐久テストでーす!スライムに塩って効くと思う?今日は俺が検証してやるよ!」


白い粒が落ちた。触れたところから桜色の身体が白く濁り、びくりと跳ねる。キョウヤはそれを押さえつけ、さらに袋を傾けた。


「おおっ!効いてる効いてる!みんな、スクショタイムだぞ!」


『うわ……』

『まだ子供じゃね?』

『流石にやりすぎ』

『魔物だろ?別によくね』


アスカのスマホが下がった。キョウヤはレンズを見たまま、スライムを突き出す。


「おい。次、こいつ押さえてろ。両手でかけるから」


アスカはスマホをしまい、両手で受け取った。掌の中で小さな身体が震えている。塩の袋が近づく直前、少年は背を向けた。


「あ?」


スライムを胸に抱き、袖で白い粒を払う。出口へ踏み出そうとしたところで、背中を掴まれた。


「お前、さっきから何なん?」

「……もう、やめようよ。苦しんでるだろ」


キョウヤの顔から笑みが消えた。胸倉を掴み、拳を振るう。アスカがよろめいても、両腕は閉じたままだった。


「パシリの分際で、いい子ぶってんじゃねぇよ!」


蹴りを受け、少年が機材ごと地面へ倒れた。緩んだ腕からスライムが奪い取られる。アスカが手を伸ばした先で、桜色の塊が土へ叩きつけられた。


「ダンジョンで魔物を狩って、何が悪いんだよ。放置したら地上で暴れるかもしれねえだろ?」


キョウヤがカメラへ笑いかけ、ブーツを持ち上げた。


「だから、俺が駆除してやりまーす」


その下へアスカが手を伸ばした瞬間、黒い影が揺らめいた。


◆◆


「……何してるの」


私は足元のスライムを見下ろした。身体中に汚い落書き。塩のついた表面は白く濁り、小さな身体がかすかに震えていた。


単に狩るだけなら手は出さない。人間が『無位の深穴』と呼ぶこのダンジョンでは、狩られた子の魂を私が迎え、また迷宮へ還している。それが、この場所の循環だ。

けれど、逃げられない相手を押さえつけて痛めつけ、笑いものにする。魂を汚すことまでは、許さない。

秩序を乱すものを見つけて、取り除く。それが、管理者である私の仕事だ。


「……排除対象」


口にした声は、自分でも驚くほど低かった。


「誰だ、ねーちゃん。……って、すっげえ美人!」


男が足を下ろした。その視線が、肩へ流れる銀髪を追い、黒いドレスへと下りていく。私が身じろぎすると深く切れた裾へ目をやり、それから顔を上げた。


「コスプレ?角まで付けてんの?」


頭の片側から伸びる黒い角を、男が覗き込んだ。私は少し身を引いた。背中に畳んでいた片翼が岩を擦ると、男はそちらまで見つけ、ますます顔を輝かせた。


「翼もあんじゃん!おいドローン寄れ!サムネにするぞ!」


三匹の機械の羽虫が私を囲んだ。目の前で止まり、横へ回り、肩越しに覗き込んでくる。ぶうん、ぶうんと、どこを向いても羽音がした。


不快。それに、うるさい。

ここは、静けさを何より好むあの方の迷宮なのに。


私は男から視線を外し、スライムの前へ屈んだ。掌を近づけると小さな身体が縮こまる。その手前で止め、こちらへ寄ってくるのを待った。


「大丈夫。もう痛くしないから」


わずかに伸びた身体を、両手ですくい上げる。冷たい。指の間から垂れそうになる身体を包み込み、胸元へ寄せた。

柔らかくて、小さくて、こっちを見上げる目がまん丸。ひどい目に遭ったばかりなのに、私の指をきゅっと掴んでくる。


だめだ。これは、だめなやつだ。


「なんだ、ねーちゃんもそれ欲しいの?俺が捕まえたんだけど」


頭の上から声がした。


「連絡先くれるなら譲ってもいいぜ?ついでにコラボしようよ。俺、登録者十万いるんだけど」


私はスライムを片腕に抱えて立ち上がった。男はすぐ目の前で薄ら笑っている。この子を、「それ」呼ばわり。


「自分が吐いた息、自分で吸い直してくれない?」

「……は?」


薄汚い笑みが消えた。


「意味わかんねえこと言ってんじゃ――」

「できないなら、あっちで練習してこい」


音もなく踏み込み、男が瞬きをするより先に、その額へ指を近づけた。こんなクズ、殴るまでもない。触るにしても、表面積は最低限に。


――『排斥(エクソリア)』


バン。


次の瞬間、男はいなかった。


「ひぶッ!?――ぶぎゃぁぁぁぁぁぁッ!!」


地面を水切りの石のように跳ね、壁にぶつかって向きを変える。悲鳴を残し、出口へ続く通路を猛烈な勢いで遠ざかっていった。


キラーン。


最後に、星の輝きを見せた気がした。


「はぁ……爪が汚れた」


人差し指に息を吹きかけ、埃を払う。今頃は向こう側の世界で、情けない姿を晒しているだろう。二度と入れないようにしておいた。これで少し静かになる。

腕の中でスライムが動いた。私は顔を寄せ、白く濁った身体をそっと撫でる。


「……痛かったね。ごめんね」


私の迷宮で、こんな目に遭わせた。管理者として、ちょっと情けない。


「……おやつ、食べる?」


懐から蜂蜜飴を一粒取り出した。キラービーの濃蜂蜜を煮詰めた、琥珀色の粒。元気がない子には、とりあえずこれ。

この子の口……は、どこだろう。身体の真ん中へそっと押し当てると、ちゅるん、と飴が沈んだ。


桜色の奥で琥珀色がゆっくりほどけ、白く濁っていたところへ色が戻っていく。表面がふるりと波打つたびに、黒い落書きが薄い膜ごとぺりりと剥がれ落ちた。

縮こまっていた身体が、むくむくと膨らむ。元の丸みに戻ったスライムが、私の頬へ擦り寄った。


「ぷるんっ!」

「ん。よしよし。おいしかったね」


やっぱり、蜂蜜飴は偉大だ。

さっきまであんなに怯えていたのに、今度は髪を引っ張って肩へ登ろうとしている。頬に当たる、ひんやりした感触。指先で突くと、ぷるりと揺れて押し返してきた。


……決めた。この子、うちの子にする。

深層の甘えん坊たちと並べたら、きっと可愛い。想像しただけで口元が緩みそうになる。

緩まないけど。顔に出ないのが、私の取り柄だから。


ふと、足元の人間と目が合った。大きな荷物を背負ったまま、地面に座り込んでいる。頬が腫れ、服の袖には白い塩がついていた。


「アイツの、仲間?」


相手の口が開いたけれど、声は出なかった。私が手を伸ばした途端、両手で額を覆う。


(ガードのつもり?)


肩をすくめ、目をぎゅっとつぶっている。……小動物みたい。

その頭へ、スライムが跳んだ。ぽよんと乗って髪へ擦り寄り、それから私のほうへ身体を伸ばして、何度も揺れる。


「ぷるっ、ぷるぷる!」


あー。……なるほど、わからん。

でも、塩のついた袖と、擦り剥けた指を見れば、なんとなく想像はつく。


「助けてくれたんだ」


こくこくと頷いた拍子に、スライムが頭から滑り落ちかけた。額を守っていた手が、慌ててそちらへ回る。

受け止められた桜色の身体が、両手の中で安心したように丸くなった。自分だって殴られたばかりなのに、落とさないように指をそっと閉じている。


「ありがと」


その手からスライムを受け取り、代わりに蜂蜜飴を一粒、掌へ乗せた。人間は何を喜ぶのか知らない。でも、この子の分も、あったほうがいい気がした。

彼は掌の琥珀色をじっと見ていた。口へ運ぶかと思ったら、指を閉じ、大事そうにポケットへしまった。


……食べないんだ。まあ、いいけど。


ちょっとだけ、可愛いかも。人間なのに。

その目の前へ、羽虫が一匹割り込んだ。


ぶうん。


「……なにこれ」


スライムを肩へ乗せ、目障りな一匹を掴む。生き物ではない。魔道具のようだけれど、流れている力は魔力とも少し違う。

丸い目の奥を覗くと、向こう側から何かがこちらを見ていた。


「……視られてる?」


◆◆


【動画配信プラットフォーム、キョウヤチャンネル】


銀髪がレンズの端を滑り、少女の顔が画面いっぱいに映った。白い肌に、長い睫毛。その下の瞳では、黄色と緑色が入り交じり、宝石のように輝いていた。


『近い近い』

『目、綺麗』

『キョウヤそこ代われ』

『カメラだろ代わるなら』


少女が、わずかに首を傾げた。こちらを確かめるように動いていた瞳が、すっと細くなる。


『待って。これ怒ってる顔』

『俺らは何もしてない』

『ごめんなさい』


パン!


映像が途切れた。

だが、コメント欄はさらに盛り上がった。


『キョウヤざまぁwww』

『BAN(物理)』

『↑物理BANは草』

『デコピン一発であの飛距離』

『笑えねえけど、正直スッとした』


◆◆

切り抜き動画が、次々と投稿された。キョウヤが吹き飛ぶ瞬間。飴を取り込んだスライムが、落書きごと元に戻る場面。そして、少女がドローンを握り潰すまで。


『ほぼ無表情なのに、スライム撫でてると嬉しそうなのは分かる』

『さっきまでの目つきとの落差よ』

『飴で治るのなんなん』

『回復アイテム?ダンジョン産の?』

『最後に俺らまで処理された』


しばらくすると、ゲートの外で撮られた動画まで見つかった。茶髪の少年が転がり出てきて、地面へ突っ伏す。起き上がって怒鳴りながら入口へ向かい、今度は何もない場所で顔をぶつけてひっくり返った。

その隣を、別の探索者が普通に通っていく。


『生きてた』

『入れなくなってね?』

『本当にBANじゃねえかwww』

『外から撮られてるの芸術点高い』


考察掲示板では、少女の正体を巡る議論が始まっていた。


『あの強さ、ダンジョンマスターだよな!?』

『1階層に出るダンジョンマスターとは』

『無位の深穴だから、ムイマスかな』

『↑ムイマス、ダセェ!』

『本人に言ったらBANされそう』


そして、少女から飴を渡された少年にも目が向けられた。


『アスカって呼ばれてた?』

『あの子、殴られてもスライム離さなかったもんな』

『自分も飛ばされると思って額ガードしてたw』

『あんなの見た直後なら俺でも守る』

『飴もらってたのに食べてなかったな』

『もったいなくて食えないやつだろ、分かる』


少女を一目見ようと、翌日から探索者たちが集まり始めることを、この時のリザレはまだ知らなかった。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【現在のダンジョン状況】


■人類到達領域

第1階層:月光草の洞窟(上層)


■可愛いコレクション

・スライム(E級クリーチャー、ピュア・スライム)Lv.28↑


■BAN対象

・小林キョウヤ(F級ヒューマン、Dランク探索者)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


拙文をお読みいただきありがとうございます。

コメントはお気軽に。

評価して応援いただけると、執筆の励みになります。

ブックマーク(フォロー)と応援もぜひよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。