第87話 動かなかったのは自分
国葬になってしまった。
我が息子が殿下の行方を追うのに、城を飛び出したのだが……帰らぬ存在になった、との報せを受けた時は頷いたものの。
私はルティアーク家の当主としては、最悪の結果を陛下に味わせてしまったことにひどく公開している。だが、国の精鋭部隊を追い返すくらいの、Aランクの魔物がグルーミンの山で発見されたのだ。
その報告によって……賊に連れ去られたと思い込んでいた陛下の判断で、もう王女殿下の安否は我が息子同様に潰えたことになった。精鋭部隊が逃げ帰ったくらいの大物との遭遇。たしかに、それを聞くと私でも同意せざるを得ない。
うちの精鋭部隊を出動させれば、もう少し違った結果を出せたかもしれないが。仕えるべき臣下としては、必要以上に口出し出来ない。
(だからって……我が子も合わせて『国葬』にするなどと)
Aランクの魔物が『サンザス』というのは私も予想外だった。
こちらが危害を加えなければ、基本的に温厚な蟲型の魔物。それが、精鋭部隊と遭遇した途端襲い掛かりそうになったとの報告。
その報告を耳にした私は、ルティアーク家としてさっさと動いておけばよかったと……動かなかったことに後悔したものだ。
「……セルシスは、生きていないのでしょうか」
国葬が終わってから、さすがに妻や娘らは意気消沈していた。自分たちの憶測で動かずに、国からの対応で息子を失ったことにさせてしまったんだ。悲嘆にくれないわけがない。
「部隊を出せば、調べられるかもしれない。しかし、サンザスが跋扈するグルーミン山やほかの山岳地帯を探しても……覆すことは、ほぼ難しいだろう」
「愚かでしたわ。息子の興味がひとつ出来たことに浮足立って……殿下を喪ったことに繋がるような結果を出してしまって」
「御体がない状態での国葬だが……こればっかりは、撤回しようにも」
「お父様!! たしかに国葬は執り行われてしまったけれど。今からでも、あの子たちを探せないの?」
「……動いてもいいかもしれんが。同じ結果だとしたら、どうする? 余計に自分を追い込むだけだぞ?」
「……はい」
私とて、国葬が終わってから精鋭部隊を動かそうともしたさ。
だが、今国民も悲嘆に暮れているこの時期に、追い打ちをかけるようなバカな行動は意味がないだろう。
そして、本当にその通りになっていたのなら……私は、ルティアーク家当主としても、公爵としても愚かな結果を引き起こした原因となってしまう。
大事な息子と、国を背負う将来を約束していた王女殿下の死。
このふたつが確実なものになってしまったら、私とて心が折れないわけがない。
(セルシス。もし生きていたとしたら、誠心誠意……殿下をお護りしろ)
外見だけなら、成人している青年だとしても。精神との不釣り合いの関係で異様に大人っぽいが、中身はたったの十二の子ども。武などに秀でていた神童としても慕われていたあの子の思いを優先して旅立たせたが……この結果には、なってほしくなかった。
せめて、本当は違う結果であることを祈るしか出来ない。それであれば、こちらが予想していた殿下の脱走については邪魔できないと思うしかなかった。
次回はまた明日〜




