第8話 捜索途中①
姫が城から消えて、二日目。
俺は捜索隊とは別で、単独行動で姫を探しているのだが……賊に攫われたにしても、それらしい足取りはやはり見られなかった。
念のため、山間の拠点らしき場所を目指す途中で出くわしたものの。捕縛しても、銀髪の幼女のことは誰も知らなかった。つまり、さらに面倒なことが起きていることが判明しそうだった。
ひとつは、他国が使者を装って誘拐した。
これは、本来の捜索隊に捜査は任せればいいから問題はない。
もうひとつは……俺があの氷のスロープから思いついた考察。姫自身が計画を立てて、出奔した方だ。
たった五歳でも、神童と謳われた一の姫君。
勉学どころか、武の心得も備えていて、魔法にも秀でている。
俺は、つい最近まで自分が婚約者になるなんて知らされていなかったため……『面白い姫がいるもんだ』、と思っていた程度。
それがまさか、興味以上の対象になるなんて日が来るとは思わなかった。
「……どこに、いる?」
俺のように、外見と精神が不釣り合いなままであれば……逆に、懸念していること次第では一大事に成りかねない。
たった片手ほどの年齢でも、至高の宝石を司る国の姫と分かれば……賊どころか、あらゆる男どもを引き寄せるだけの美姫になっていてもおかしくないのだ。
そんなの、俺が嫌だ。
(俺の婚約者予定になるはずだったんだぞ? 今の姿も特徴以外知らんが……絶対、探し出してやる)
無関心男だと思われていた俺に、陛下が許可をくださるくらいには……俺の行動力は、今まで以上に上向いていると言っていいだろう。魔法も、武も、それなりに身に着けた以外は学に重きを置いていただけの生活。
外見が整っているから、群がる女たちには反吐が出そうになった。こっちはまだ十二歳だというのに、宝石族だからと関係ないと言わんばかりの扱い。
だから、女はうざいとか思っていた俺なのに……幼女とは言え、『女』を捜索しているのだ。神童がわざわざ逃げるくらいなら、痕跡をあれだけ残しても捜索隊にとっては中途半端。
俺でも疑う程度の、痕跡にほかに気づいた奴は今のところいないようだが。
「……池の近くに、それらしきものも無し……か」
誰かが拠点らしきところとして使った痕はあったが、石が積んであるのを見ると、炭を持っていかないようにしたのか。やけに丁寧だな、と、俺も疲れたから石を魔法で取り払った。
「……は?」
火魔法の癖に、なにかを感じ取ったような気がした。
やわらかい、金の光が頭の中に浮かんでは消えていく感じ。
この感覚には、ひとつだけ、覚えがある。かなり前だが、俺が今の精神ぐらいに育つかどうかの瀬戸際に。
「……小さな、赤子を見て。頭に浮かんだアレと、同じ??」
そうだ。姫にはたった一度だけお会いしたことがある。俺がまだ幼子でしかなかったとき、母上らに連れられて謁見の間に案内されたときだ。陛下にも利発な子だと褒めていただき、王妃殿下に抱えられていた赤子は……小さくて柔らかそうな印象を受けたので、つい、触りたくなった覚えがある。
そして、母上とともにお側に行くことを許され、軽く指を触らせてもらったのだ。
そのときと、同じくらいの光の粒が頭の中に浮かんでは消えていく。
「……ここで、拠点をつくっていた??」
やはり、俺の勘とやらは当たっていたのか。姫は、やはりただの神童なんかではない。
城の中の不自由さが嫌で逃げた。計画をある程度時間をかけ、偽装も施したことで決行したのだ。
「大胆、だな。どんな女になっていくのか、興味どころじゃないぞ……」
あの両陛下の美貌を受け継いでいるとしたら、そこいらの貴族の女どもとは引けをとらないくらいの美姫に成長したっておかしくない。むしろ、それ以上の可能性も出てくる。
利発だけでなく、行動力も高くて、相手を傷つけないようにしている。
自分のことは放っておいてほしいとか、幼いながらも思っているのなら……あの逃げ方は少々やり過ぎなところはあっても。魔力偽装を可能とするのなら、まだ捜索隊たちでは時間がかかる。
俺がここに来なければ、姫との距離はもっと離れていくだろう。そんなこと、させるものか。
「……たしかに。自由、だな。この空気は」
今は夕刻だが、日が陰って、金色のように輝いてる箇所が水面に映っている。
この景色は、たしかにあの城からでは見れないはずだ。知識だけ詰め込んだだけの、常識では知り得ない光景。
「……俺も、姫を見つけたら出奔するか?」
陛下には非常に申し訳ないが、それくらい俺も公爵家のしきたりには疲れまくっていたしな?
とりあえず、ここで一旦休んでから捜索は再開することにした。
次回はまた明日〜




