第60話 順調過ぎる生活について
興味を持って、アルマリンを追って到達した今の生活。
不便は多少あるものの、順調過ぎると言っていいのではないだろうか?
「……風呂が、こんなに気持ちがいいとは」
今日はレシアム抜きに、ひとりで風呂に入っている。
拠点を増築したことで、自室で入ったときとはまた違った解放感を感じるのだ。
アルマリンが専用の小屋を建てて、風呂は風呂でしっかりと堪能したいという願望を叶えたのだが。それはその通りだったと、俺は湯舟を堪能しながら同意した。
水浴びとも、沐浴とも違う全身を適温の湯に浸からせて疲れを取る方法。
清める以上に、心身を落ち着かせてくれるこの方法を異世界では『普通』というのだから、畏れ入る。アルマリンの前世、異世界の慣習が俺にとっても心地いいものだと、探索を陛下に申し出たときには思いもしなかったのだろう。
「……あ」
すっかり、抜け落ちていたが。
追っ手として合流したことはいいにしても、アルマリンの無事を……極秘にでも、陛下に伝えておくべきだったが。いや、それはよくないかもしれない。出奔した彼女が望まないのなら、このままでいいのか。
アルマリンの性格を考えると、短い付き合いだがこのままの方がいいのかもしれない。
「……俺にしても、うっかりし過ぎだろう」
外聞としては、冷静沈着とか色々言われてはきたものの。
結局のところ、中身はまだまだ『子ども』だというのはアルマリンとレシアムらと関わってよく理解できた。いくら、外見が精神に釣り合うものになっていても、経験してきたものは足りないことばかり。
アルマリンについては、まだこちらでは五歳のままでも、魂に刻まれた知識とかまでは豊富だ。
未知な植物を恐れもしないし、食材としてきちんと調理できるものにしてくれる。そのどれもこれもが美味ばかり。レシアムもだが、俺の胃袋も掴んで離さないほどに。
「……満たされたことで。気が緩んでいたのだろうな」
解放感のある生活、と言ってもいいだろう。
それはアルマリンも同じ。狩りもだが、調理のときも活き活きしている笑顔は、もとからの美貌をより一層愛らしくしているようだ。
幼子なのに、堂々としている様子からは『大人』なのがよくわかるくらい。城での生活を強いられていたのなら、婚約者候補同士として知り合っていたとしても……今のような打ち解けた会話もなかったはず。
しかし、親へ心配をかけてでも……得たかった生活。捨てたすべてをかけてでも、手に入れたかったもの。
それが今というのなら、俺だってほしかったものだ。鬱屈とした毎日と比較したら、今は毎日が新鮮で心地がいいのだから。
「……大変申し訳ないが。今を優先したいのは俺も同じだ」
もともと、俺も出奔するつもりだったのだから……これでいい。
俺の両親や家族らも、俺の性格を知っているから……まあ、戻らないのを理解してくれているだろう。
魔物を食しても、特に問題ない体質なくらいは知らせてもいいだろうが。そうすると、あの堅苦しい慣習がさらにややこしくなりそうだ。面倒なので、精鋭部隊に知らせても意味がないくらいはわかっている。
ひとまず、湯から上がることにして……ザクロからもらった布で作った『タオル』で身体の水滴を拭うのだった。手触りが素晴らしく良過ぎて、屋敷で使っていた高級な布が安物に思えるくらいだ。
戻らないつもりなのは、俺も同じ。
ただ、アルマリンの成長が始まったら……今でも魅力的なあの少女に、これ以上深い興味を抱いてしまわないか少し心配だ。そうすると、婚約者候補だった肩書を使うべきか悩むくらい。
ひとまず、今を維持することを優先しよう。
次回はまた明日〜




