第11話 捜索途中②
迂闊だった。
思った以上に、魔力を使っていたせいで……回復に時間がかかってしまい、翌朝まで眠りこけてしまっていた。
一応休む前に、魔物避けの結界を四方に張っていたので防御は鉄壁だった。
その証拠に、魔物が『突き刺さって』いる。宝石族の血をベースにした結界は、司る宝石の特性が出てくるので……俺の場合、『ルチルクォーツ』は金と銀の針金が石の中に存在するのだ。
まだ子どもなので、銀の色が完全に金にはなっていないものの。魔除けの象徴の一つとして、宝石族にも害悪でしかない魔物が結界を越えようとして死していた。
食えば毒……と、国の慣習ではそう言い伝えられているが。聖なるモノの交配をいじって家畜にするのも良くないと俺は思っているのだがな? むしろ、野生の食料に見えそうになっている。
「……とはいえ。さすがに解体は出来んからな? ここは燃やすか」
浄化魔法の『炎』を使い、蒼い炎を生じさせて消滅させる。
起き抜けに腹は減っていても、これで腹下し以上のことになったら姫を追うどころじゃないからな? 完全に炭と化して、ぐずぐずになったら結界を解く。地面にどさっと落ちたが、魔毒などの気配はなさそうだから……本当は焼いて食べてもよかったのでは?と思ったが。
まあ、そこまで空腹ではなかったので、水魔法の水だけで腹を満たし……ここから、アルマリン姫の痕跡を辿るのに、意識を集中することにした。
「……魔力を流せば、多少は追えると思うが」
痕跡は、昨日のままにしてある。というか、それ以上手は加えていない。下手にいじると、魔力の残滓を無駄にすることになるから……たとえるなら、子どもの砂遊びくらいに脆くて危うい。
疲れていたこともあったが、それくらいの対処が出来ないほど馬鹿な子どもでもない。外見は大人だし、精神もそれなりに整っているつもりだが……根っこの部分は、まだなにかに興味を持とうとする子どもでしかないと、ここに来てわかった。
肉体と精神が釣り合わないことで、変化する一族でも……ヒトの血を受け継いでいるのだから、薄くとも個性とやらが精霊様よりはっきりしているのかもな? 今日まで、それに気づけないでいたが。
とりあえず、指を強めに噛んで血を滴らせ……姫の魔力に俺の魔力を重ねてみる。
ラピスラズリにある金の鉱石と類似するわけではないが、高位の宝石同士の引き合いは出来るかもしれない。
残滓に血を被せ、一瞬だけ俺特有の黄金の魔法陣が出現したが……すぐに、姫の痕跡を辿るような糸のように細い道が森の中に向かって伸びていく。
「……地道な作業でしかないが。追うか」
ここは、このままにしないと伸びた道が切れてしまう。神童扱いなんて、俺もされたことはあるが……わずか、五歳以下でここまでの痕跡をうやむやにした芸当は俺にも無理だった。
成長したのも、三年前だが……まだまだ未熟者だった俺よりも幼い姫が、『自活』出来ることなんて、普通はあり得ない。
しかし、彼女は神童。
蝶よ花よと育て上げられていても、それを厭うくらいに自分を磨き続けていたんだ。実際は、この脱出みたいな家出騒動のためだけの仕業だとしても。
道がまっすぐになる箇所は、身体強化のブーストを使って走り。くねるところは無理せずゆっくり歩くのを繰り返していけば。
途中、また新たな痕跡が見つかった。
見たことのない、変な果実のところで眩しいくらいに彼女の魔力を感知出来たからだ。
「……肉? 果物?? なんだ、これ??」
木に生えている、変な果実。しかし、匂いは生の肉のそれに近い。
文献は色々読み漁ってきた俺でも、知り得ない食料。しかも、ここに大量の魔力の残滓を感じたんだ。つまり、姫はこれを……魔法で収穫したということだ。
「……火で焼けば、食えるのか??」
ひとつ採ってみたが、ずっしりと重く……新鮮そうな肉の匂いはした。
だが、ここで火を扱っては森に被害が及ぶことが目に見えている。少し腹は減ったが、道は残したまま川を探してみる。そこに、姫の痕跡はなかったものの……ひとまず、焚火をおこして葉っぱごと火で焼いてみたのだが。
じゅーじゅー、焼ける音と同時に香ばしい匂いに……何とも言えん、食欲が湧いてきた。
「……いい匂い、だな?」
王家の血筋を一応引く家だったため、食事は温かいものなんてほとんど出ない。味見役が確認したあとの、冷めたものばかり。スープだって、めちゃくちゃ温いものばかりだ。
茶とかの飲みもの以外、温かみを感じるものなんて口にしたことがない。
だから、もしかして姫もそんな生活が嫌で逃げ出したのか。贅を尽くした生活ではあっても、そこに不満を感じて……自由な食事をしたい生活を望んで。
はじめての調理だが、だいたい火が通ったと思ったところで火を消し。手に少し氷の靄をまとって持ってみた。やけどをすることはなく、葉をするっと剥けば……焼きたての、香ばしい匂いが鼻を直撃してきた。
もう我慢できず、食器を使わずに貪るようにして食べてみたのだ。
「……美味い!?」
調味料もなにもつけていないのに、肉本来の旨味に加えて適度な塩と胡椒の味がする。
俺の素人な焼き方でも、これはまるで宮廷料理長が手掛けたとでも言わんばかりの出来。
ひと口では空き足りず、葉の内側の肉っぽい果実の部分をすべて食べ終えるまで……俺は、食事をやめれなかった。
こんな……こんな、幸福な食べ物を姫も食べているとわかったら。
俺こそが、無知過ぎたと自分自身で反省するしかない。
それと、曖昧にしていた考えを、はっきりさせることにした。
「婚約者じゃなくても、いい。いっしょに、旅がしたい」
俺の外見と年齢で酷く驚かせるだろうが……同行者としてなら、役に立つくらいには手助けできるだろう。
まずは、合流できるように、再び痕跡の道筋を使って追うことにした。
次回はまた明日〜




