第四話 少年期の終り
「お兄ちゃん、最近学校はどうなの?友達できた?」
学校から帰って、隣に座る僕の妹の優希と一緒にゲームをしていたら、優希がそう尋ねてきた。鬱陶しい。
「今は集中してるんだ。余計な話をして僕の集中を乱さないでくれ」
僕と優希は現在、某ブラザーズの格闘ゲームで対戦をしていた。実力は間違いなく、絶対に僕の方が上だが、こうした面倒な話でよく僕の集中を乱してくるのだ。卑怯なことに。
「そうやってずっとはぐらかしてると一生ぼっちのまま結婚もできずに孤独死するよ?いいの?」
僕の集中を乱すのが目的なので大げさに誇張してくる。不愉快極まりない。
「いいんだよ、僕は。こうして一人で好きなことして生きられれば。結婚とかしたら自由に自分の時間を使うこともできないだろ」
「ふーん」
優希は僕にうまくかわされた事が不満なのか、口を尖らせた。いい気味だ。
「でもさ、友達を作る努力はしようよ。恋人はともかく、間違いなく友達は居たほうが人生楽しいよ?」
「僕には到底理解しかねることだな。それに、僕はああいう薄っぺらな人間関係が大嫌いなんだよ。軽蔑している。みんな上っ面だけで、リーダー格のヤツの機嫌を損ねないように脳死で共感する。そんな無意義なことに時間を使いたいとは思わないね」
そうだ、僕はあんな奴らとは違う。時間を有効活用できる人間なんだ。だから僕は……
「あ、待って」
「待ったなしだよ」
いつの間にか優希の口車に乗せられて話の方へ集中したせいでボタンを押し間違えた。
「やった。やっぱお兄ちゃんはチョロいね〜」
「ぐぬぬ」
こうして今日もまた変わりなく時が過ぎていった。
◇
「う、ううん…」
視界が暗い。どうやら部室でうたた寝してしまったようだ。いつもはあの二人の言い争いで騒がしいはずの部室だが、今は本のページをめくる音しか聞こえない。それも一人だけの。
重い頭と痛む首筋をなんとか動かして顔をあげる。今日は体育の時間にシャトルランをしたから疲れていたのだろう。今もあの不快なドレミファソラシドの音が頭の中に響いてくる。
辺りを見回すと、反対側の席に葉月楓が座って静かに本を読んでいた。他に人は居ないようだ。普段は騒がしく真島先輩と衝動しているが一人のときはひどく静かだ。本の持ち方、佇まい、どれを取っても様になっていて、不覚にも一瞬見惚れてしまった。
そもそも彼女はひどい毒舌という点を除けば才色兼備の美少女なんだ。見惚れてしまっても仕方ないだろう。まあその毒舌があまりに大きいデメリットなのだけれど。
「あら、起きたのね。ひどい顔をしているけど、あなた大丈夫?」
まずい、長く見つめすぎたか。葉月楓が僕の視線に気づいたのかこちらに顔を向けてきた。
「あ…えっと、ほかの皆は?」
あまりにも見当違いな返答だが良い返し方が思いつかなかったので単純に今気になっていることを尋ねた。だってしょうがないじゃないか、会話なんて最近は増えてきたけど、ちょっと前までは1日に数回するかしないかだったんだから。
「日村先輩は部集会。2人はもう帰ったわ……何よ、その呆けた顔」
「あ、ごめん。その、葉月さんって男の人嫌ってるぽかったから、てっきり僕も真島先輩みたいに無視されるのかと…」
「別に、誰に対してもあんな態度は取らないわよ。あの人は特別不快なだけ。それに、あなたあまり男って感じがしないのよ。背が低くて、顔も童顔だし」
うぐ。それ、結構僕が気にしてることだぞ。少しは男の気持ちというのを考えてほしい。
そうは思っても言葉に出す度胸はないのが僕である。そりゃあの葉月楓に文句を言ったらどんな罵倒で返されるか……想像するだけでも頭痛がしてきた。
取り敢えず、何か本を読もう。真島先輩ほどの敵意を僕に向けてないと言っても、彼女と2人きりなんて何かに集中してないと到底耐えきれない。
そう思い本棚へ向かう途中で、何か黄色い物が足元に落ちていた。
「なんだ?これ」
よく見ると栞だ。手作り感があって、ずいぶんくたびれている。部員の誰かが落としたのだろうか。
そう思ってそれを拾おうとした瞬間――――
「触らないで!」
後ろから突然怒鳴り声が聞こえた。すぐに葉月楓の声だと気づいたが、真島先輩と喧嘩しているときも落ち着いた声の彼女からは、到底想像出来ない声だった。
その声に僕は雷に打たれたように固まって、その横を葉月楓がスタスタと横切って栞の方へ向かう。そして栞を回収すると鞄を持って言った。
「私、帰るわ。それじゃ」
そうして彼女は部室を出ていく。僕はその姿をただ唖然としてドアの方を見つめることしかできなかった。
(なんだったんだ……今の)
ホント心臓に悪いからやめてほしい。
栞が彼女にとってなんなのかちょっと気になったけど、面倒くさそうだから考えるのはやめとこう。




