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すべてを失って捨てられましたが、聖絵師として輝きます!~どうぞ私のことは忘れてくださいね~  作者: 水川サキ


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39、このままでは済ませない(セリス)

 なぜ、レイラが戻ってきたの?

 しかも、ノルディーン公爵と一緒にいるなんてどういうこと?


 頭が混乱して今でも信じられない。

 けれど、一つだけはっきりしている。

 レイラは私を見下していたわ。


 あの目と、あの口ぶりは、まるで私より上に立ったとでも言いたげだった。

 公爵に守られて、すっかり強気になっているのよ。



 それにしても、どうやって彼に近づいたのかしら?

 社交界にもほとんど顔を出さない、謎多き人物なのよ。

 目が見えないというけれど、その整った顔立ちは誰もが息を呑むほどで、莫大な財と権力を持ち、ひそかに狙っている令嬢も多くいる。



 どうしてレイラなのよ?

 私のほうが、ずっと魅力的なのに!



「次のパーティのドレスを新調するわ。衣装屋を呼んでちょうだい。アベリオ、あなたも一緒に見立ててくれるでしょ?」


 部屋で使用人たちに命じていたら、そばにいたアベリオは意外なほど冷めた返答をしてきた。


「君は少し羽目を外しすぎだ。結婚前だという自覚を持つべきだよ」

「何を言ってるの? 私はパーティの準備をしているだけよ」

「昨日もその前も、食事会だお茶会だと出歩いてばかりじゃないか」

「それは仕事よ! 絵を売るために人脈を広げているの!」

「その絵を君はいつ描いているんだ? もうひと月以上、何もしていないだろう」



 なぜアベリオにそんなことを言われなければならないの?

 何もしていないくせに偉そうだわ。



「あなたにそんなこと言われたくないわ。なんて酷いことを言うの?」

「いや、別に描かなくてもいい。君は僕の妻になるんだから。侯爵夫人としての務めを果たせばいい。ただ、こうも遊び歩かれるとね」

「遊んでないって言ってるでしょ!」

「ああ、そうだね」


 その言い方が気に障って、胸の奥がむかむかした。

 最近のアベリオったら、ほんと鬱陶しい。

 私の行動をいちいち制限してくるなんて、まるで監視されてるみたいじゃないの。



「ところで、君のクローゼットでこんなものを見つけたんだけど」


 アベリオが私に見せたのは、レイラの髪色に似せて作ったウィッグだった。

 それは闇商人と会うとき、あるいは男たちと遊ぶときにつけていたもの。

 レイラが男遊びをしている、という噂を流すための小道具でもある。


「まあ、アベリオ。私のクローゼットを勝手に開けたの?」

「君が宝石を見て選んでほしいと言っただろう。箱を開けたら、これが出てきたんだ」


 処分すべきだったかしら。

 だけど高かったし、捨てるのは惜しかったのよ。

 これからも何かあれば使う予定だったしね。



「それはね、おしゃれの一環よ。レイラとたまにお互いの髪色を変えて遊んでいたの。あの子も私に似せたウィッグを持ってるのよ」


 苦しい言い訳だとわかっている。

 どうにかこの話を終わらせたい。そう思ったのに。


「なるほど。じゃあ、僕が見たレイラは、君だった可能性もあるわけだね?」


 どきりと、心臓が跳ねた。

 まさか、気づいたの――?


「子どもの頃の話よ。今はそんなこと、していないわ」


 アベリオは眉を寄せ、低い声で言った。


「次からは、社交の場には僕も同行する。君は僕の婚約者なんだから」

「わ、わかったわよ」



 最近のアベリオは息が詰まるほど窮屈なのよね。

 こんな人だったなんて、幻滅したわ。


 ああ、もっと私を理解して、好きなことをさせてくれる寛大な殿方はいないのかしら?



 そうだわ。ノルディーン公爵よ。

 あのお方なら、私の理想にぴったりだわ。

 目が見えないのだから、私が何をしていようと口を出すことはできないはず。

 それにアベリオよりずっと美しいお顔をしているし、財力も桁違い。


 ああ、レイラにはもったいない方だわ。

 あの子はもう絵なんて描けないんだから。

 私が代わりに描いてあげればいいのよ。


 公爵のために、誰も見たことのないような美しい絵を。



 そうと決めたら、すぐに手紙を書かなくちゃ。


『あなたのために絵を描かせてください』


 丁寧に、愛を込めて記しておいた。


 アベリオ? もういいわ。

 あんな退屈で口うるさい男、もう私には必要ないもの。



 それからしばらくして、公爵から返事が届いた。

 胸が高鳴り、急いで開封したら、意外にも一枚の紙切れが入っていただけだった。

 それでも、もしかしたら次の王宮の舞踏会で私をパートナーに選ぶ、なんて書かれてあると期待した。



 アベリオとの婚約は、少し保留にしておこう。

 公爵と上手くいけば、あんな男とはきっぱり別れればいい。


 最初は素敵に見えたアベリオも、今ではただの堅物。

 よく見れば顔だって冴えない。

 その点、公爵のとなりに立つ私はきっと誰よりも輝いて見えるはずよ。


 そう思いながら、記された手紙に目を落とす。


「え……?」


 そこにあったのは、たった一文。


『丁重にお断りいたします』



 なに、これ?

 私を、断る?


 この私を――?

 私はこの国一番の聖絵師よ。

 もう筆も握れないレイラなんか、公爵の役には立たないはずなのにどうしてなの?



 ああ、そうか。

 きっとレイラね。あの子が公爵に手紙を書かせたのよ。

 公爵は彼女に騙されているんだわ。


 でも大丈夫。

 次の王宮のパーティで、すべてを覆してみせる。

 公爵はきっと、私に目を奪われる。

 そして、あのお方は私のものになるのよ。


 そうね。レイラに思いきり恥をかかせて今度こそ二度と社交界に顔を出せないようにしてやるわ。



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