24、捻じ曲げられた真実
カルベラ国までの旅は、馬車で数日を要する。
道中は宿に泊まりながらの移動だった。
出発した日の夜に立ち寄った宿は大きな街道沿いにあり、食事のために入った食堂は、主に貴族たちで賑わう少し格式の高い場所だった。
談笑や食器の音、香ばしい料理の匂いに包まれながら、私はエリオスと向かい合って食事をした。
彼の好む料理は私と同じで、そのことがとても嬉しかった。
外出先でこうして食事を楽しむのは、これまでほとんどなく、私にとっては新鮮な体験だ。
しかもエリオスと一緒だから、その楽しさはひときわ増した。
宿の主人はエリオスの事情を知っており、彼のために食べやすいよう工夫してくれている。
そんな気遣いもまた、心が穏やかになれた。
ところが、食事を堪能しているとき、となりのテーブルから思いがけない会話が耳に入った。
「本当だ。俺は聖絵師の絵で病がよくなったんだ。あれはすごいぞ」
「最近よく話題になっている絵のことだろ?」
その言葉に、どくんと鼓動が跳ねた。
声の主たちは相当酔っているのだろう。誰もが顔を赤らめている。
「絵で病気が治るなら医者は必要ないな」
誰かが笑いながらそう言った。
私は複雑な思いを抱く。
治すというよりも、癒やすというほうが正しい。
私たちの絵は、そういうものだ。痛みを和らげ、心を軽くし、病と向き合う力を与える。
だから、病を完全に治すことはできない。
「ほら、最近有名な聖絵師……セリスって娘だったか」
その名にどきりとした。
セリスはもうこんなに名前が知られているんだわ。
「そうそう。俺は実際に見たことあるぞ。あれこそ本物だ。前に人気だった絵師は詐欺だったらしい」
「詐欺?」
「セリスの絵を横取りしていたらしいぞ」
どくんどくんと鼓動が落ち着かない。
この話の流れだと、私のことを指しているのだろう。
「私が聞いたのはもっとひどいわ。セリスはその絵師に脅されて監禁されていたんですって。暴力もあったとか」
「なんて卑劣な奴だ。名前は?」
「レイラよ」
胸に針を刺されるような痛みが走った。
これ以上は聞きたくない。けれど、彼らの言葉は容赦なく私の耳に突き刺さる。
「うちは彼女の絵を買っていたけど、それも全部セリスの絵だったのよ」
「ひどいわ」
「そういえば、うちの主人。レイラを見かけたことがあるらしいけど、おとなしい顔して結構横暴な子なんですって」
「見た目で騙されたわ」
「セリスを応援しなきゃな。あんな可哀想な子はいない」
「ええ。レイラには天罰が下るでしょうね」
体が凍りつく。
手が震え、喉が詰まり、思考がぐしゃぐしゃにかき乱される。
涙が今にもあふれそうになるのを、必死に堪えた。
そのとき、エリオスがゆっくりと立ち上がった。
「部屋へ戻ろう」
低く落ち着いた声に導かれ、私は頷くしかなかった。




