第21話 やれる、やる
今回は不定期に訪れる頑張リーヴ回です
セラが放熱塔の重そうな扉に手をかけて、それを開く。
「ありがとう、セラ。じゃあいってくる、ね」
「うん…本当に、無理だけはしないでね?リーヴが居なくなったら、あたし…」
セラは目を伏せ、本当に心の底から不安そうな声を出している。
「だいじょうぶ、だよ。わたしの名前の由来…『命』、なんでしょ?」
「え?うん…」
「だいじにするよ、わたしの命。…ふふ、へんな感じ。セラと出会ってなかったら、きっと…わたしはこんな事いってない、ね」
客観的に見れば、戦闘手段を持たないリーヴが、魔物が居るかもしれない塔の中へ、それも1人で行くなど無謀も良いところだと思うだろう。しかし、今リーヴと向き合っているセラは、そのぎこちなさの残る微笑みにとてつもない安心感を抱いていたのだった。無論、その安心感に根拠は皆無だが。
「リーヴ……うん、もう止めないよ。絶対無事に帰って来てね!」
「うん、まってて」
リーヴは放熱塔の内部へと進んでいった。
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中に入ると、そこは熱気が籠る分外よりも暑かった。じっとりとした暑さが、リーヴの体力を奪ってい
く。
「うぇ…服…汗まみれだ」
リーヴは不快感で顔を歪めながら、冷却塔と同じように階段を登っていく。
「…!!!」
3階まで登った時、部屋の奥から2匹の狼のような姿の魔物が現れた。
「…逃げなきゃ」
いつも魔物に遭遇する度に物陰に隠れる為、リーヴは逃げ足には自信があった…のだが。
「あれ…うまく…いや、まっすぐはしれない…」
そう。リーヴにあるのはあくまでも『逃げ足』だけで、他のステータスは最低値に近いのだ。攻撃力なんかもそうだが、他には耐久性…具体的には『暑さ』への耐性などだ。
「熱中症ってやつ…かな」
リーヴは朦朧とする意識の中、自身の圧縮袋の中を漁って何か使える物がないか確かめる。
「これ…研究所の」
リーヴの手には、研究所で手に入れた拳銃が握られていた。既に弾は装填されているが、問題はリーヴの筋力では硬い引き金を引いたりは出来ないという事だ。
(わたしはこれを撃てない…でもこの銃……わたしの力が無い事を差し引いても、かなり重い…そうだ)
リーヴは一気に階段へと走っていき、その後を2匹の魔物が追う。リーヴは階段の真ん中辺りで停止すると、魔物達の方を向いた。魔物は、幅の狭い階段を縦に並んで登って来ている。
「よかった。ちゃんと、来てくれた」
リーヴは微笑みながら精一杯の力を振り絞って、その重たい拳銃を先頭の魔物の顔面に投げつけた。リーヴの方が高所に居たという事もあり、一直線上に並んでいた2匹は綺麗に後方に転げ落ちていった。
「ふぅ……うっ」
再び、リーヴを目眩が襲う。
「はやく…いかなきゃ」
リーヴがフラフラと階段を登ろうとしたその時…
「!!!!!!!!」
さっきまでリーヴが居た階から、無数の遠吠えが聞こえて来た。
「…そっか。2匹だけなわけ、ないよね……あれ…?それつまり」
下の階から、獣のような息遣いと大きな足音が聞こえて来る。
「まっっずい」
リーヴは熱中症の事も忘れるくらいの命の危機を感じ、底力を振り絞って塔を駆け上がっていった。
「はぁ…はぁ……はぁ…うぁっ…!」
何階か登った時、遂にリーヴは疲労で転んでしまった。幸い、階段を登りきった後だったので怪我は膝を擦りむいた程度だが、すぐ後ろからは依然として魔物達の足音が聞こえる。
「はやく…立たなきゃ」
その時、リーヴの背後で何かが爆発した。その衝撃で、リーヴが登ってきた階段が崩れる。
「はぁ…はぁ……らっきー、だね」
そこで、リーヴは階段の崩落の原因が気になって後ろを振り返る。
「あ…ここが動力源なんだ」
そこには、煌々とした橙色の光を放つ大きな球体が浮かんでいた。
「ここに…これをぶつければいいんだよね。セラがまってる、はやく終わらせよう」
リーヴは圧縮袋から青色の球を取り出して、それを動力源に投げる。腕力が足りないかと思われたが、そ
れは杞憂だったようだ。球が動力源に届くまでの間、何故か時間がスローに感じられるその間、リーヴは考え事をしていた。
(大変だったけど、なんとかできた。ふふん。わたし、おてがら)
そして球と動力源がぶつかる2秒ほど前、リーヴはある事を思い出す。
(あれ…そういえば、前の星で球をぶつけた時…なんかやばい事が起こった気が…)
その思考に至ると同時にリーヴが振り返ると…リーヴの想像通りの事、つまり水蒸気爆発のようなものが起こったのだ。それを地上で見ていたセラは…
「っ…!リーヴ!」
心配のあまり、リーヴの名前を叫ぶ。一方、爆発に巻き込まれたリーヴは…
「う…わ、あぁぁぁぁぁぁ」
奇跡的に直撃はしなかったものの、爆風で天高くまで吹き飛ばされていた。宙を舞いながら、ふと下を見
たリーヴは思う。
(あ…ごめん、セラ…これ…死)
死を覚悟したリーヴだったが、その心の中の呟きが終わるより先に、光を纏ったセラが空を駆け上がって来てリーヴをキャッチした。
「セラ…!」
「口閉じててね…!」
リーヴを抱き抱えたまま、セラは地面に降り立つ。それと同時に、放熱塔が完全に崩落する。
「セラ…結局、お世話になっちゃった、ね」
「いいよそんなの…!」
セラは少し泣きそうな声で言いながら、リーヴを強く抱きしめる。
「ふわっ…どうしたの?」
「よかった…!生きて帰って来てくれて…!」
セラは、リーヴの背骨が折れるかと思うほど強くリーヴを抱きしめている。正直なところ痛かったがそれ以上に、セラのリーヴを想う気持ちが、リーヴは嬉しかった。
「…うん、ただいま」
「ふぅ…それで、行く前に言ってた『考え』っていうのは何だったの?」
「中は、暑かった。セラでも多分…具合悪くなっちゃうかもしれないくらい。セラに何かあっても…わたしじゃ助けられない。けど…」
「けど?」
「…もしわたしに何かあっても、セラが助けてくれる、でしょ?」
リーヴの無謀としか言えない行動は、彼女なりに仲間を、否、友達を思いやった結果の行動だった。
「…でも心臓に悪かったよ…もうあんまり、ああいう事はしないでね?」
「うん…わかった」
「じゃ、帰ろ…」
セラが言いかけた時、リーヴが前向きに倒れ込んだ。
「リーヴ!?」
「ふらふらする…ごめん…村に帰るのだめそうかも」
「…ならもう、いっそこのまま次の星行っちゃう?行けるならだけど…」
「村長に報告しなくて…大丈夫かな…」
「あれだけ大きい爆発なら聞こえてるだろうし、そもそも放熱塔は無くなったんだから、この先の気温とかで分かる…と思う」
「そっか…なら…あんまり気は進まないけど…もうこのまま次の星行こう」
「能力は使えるの?」
「うん。この星にきた時に使ったのは、いき先を指定する方だから、ね」
こうして2人は、やむを得ず村長への報告無しで次の星へと向かった。




