#カラクリ、#ムズイ
「おっせーよ! 何してたんだよ!」
開口一番、ザンギに怒鳴られる。
我だって急いでいたが、想定外の出来事が連発したのだ。
「ごっ、ごめん。色々あって……。大賢者は?」
「大賢者も勇者も現れねーよ。おかげで、くっそヒマだったわ!」
ザンギの怒りを鎮めるために、リコッタを呼んでいた旨を伝える。
「あ……そう。なら仕方ねえな。てか、リコッタ来るのかよ……」
ソワソワし始めたザンギは、目の前の彫刻に向かって、シャドーボクシングを始めた。
「ごめーん! 髪が上手くキマらなくて~」
約束の時間から二時間遅れで、リコッタがやって来た。
先ほどのヘアメイクと、なにが変わったのさっぱりわからないが、来てくれたのでよしとしよう。
「よ、よお……!」
ザンギは平静を装いつつも、嬉しそうなオーラを醸し出していた。
ぶっちゃけ人の恋愛沙汰なんぞどうでも良いので、早々にカラクリ解除をお願いする。
「これ、パズルじゃん」
リコッタは、扉の模様をスライドさせて斧の絵を完成させた。
すると、あっという間に取っ手ができて扉になる。
リコッタ曰く、このカラクリは昔、鍵としても使われていたそうだ。
「てか、こんな簡単なカラクリが解けなかったの? アンタたち、マジでバカじゃないの?」
何も言い返せない我とザンギは、罰の悪い顔で下を向いた。
「おらぁ! 大賢者ぁ! 出てこい!」
ザンギが屋敷の扉を乱暴に開ける。
バカを挽回しようと張り切っているようだ。
屋敷内は広めのホールになっていて、左右に扉があった。中央には巨大な女神像が置かれており、壁には様々な像や彫刻が美術館のように陳列してある。
「静かだな……。誰もいないみたいだ」
ザンギが周囲を見渡しながら呟く。
「もしかして隠れているのかも。手分けして、他の部屋や怪しげなところを探してみようよ」
言い出しっぺの我は、ホールの左右の扉を開けた。
部屋の中はドワーフが残した、作りかけの彫刻や道具ほか、大賢者のものと思われる、地図や書物が積まれていた。
しかし、これといっておかしな物も人の気配もない。
「ゾーラ、ちょっとこっち来て。多分、ここに隠し部屋がある」
部屋を出た我に、女神像の正面の壁に耳を当てているリコッタが手招きする。
「なんでわかった?」
「ノックすると、ここだけ音が軽いの。空洞になっているみたい。それに、この壁だけ材質が他のものとは違う。新しく作られたんじゃないかな」
さすが、我らの中で一番賢い女である。
「で、どうやって開けるの?」
「そんなのわからないわよ。扉と違ってどこにもカラクリを解くヒントなんてないし。攻撃魔法も無効になる術がかけられてるみたいだし」
リコッタが解けないものが我に解けるはずがない。
腕を組んで唸っていると、ザンギが中央にある女神像を両手で押していた。
「どうしたの?」
「なんか、この像が動きそうなんだよ」
ザンギに促されて、我も一緒に押してみる。
確かにほんの少しだが台座がグラついた。
「おらあ!」
強硬手段に出たザンギが、助走をつけてドロップキックする。
しかし、像は少し揺れただけで元に戻った。
「力任せは通用しねーみたいだ。なんか、仕掛けを解かないとダメっぽいな。俺にはわかんね」
「解除方法を知っているか、よほど知識がないと無理ね。私たちには解けそうもないわ」
ザンギが肩をすくめてお手上げのポーズをすると、リコッタもマネをしてお手上げした。
大賢者は侵入者に気付いて、隠し部屋に避難したのだろうか。
我はまだ、手を上げるわけにはいかない。




