#この戦いが終わったら…
「うーん……」
うなりながら周囲を探しまくる我をよそに、早々に諦めたザンギは、入口近くの壁に背をつけて仮眠していた。
リコッタは何度も場所を変えてセルフィーしている。
どうでもいいが、イチバン写りの良い照明と角度を探しているのだろう。
何の進展もないまま、時間だけがただ過ぎる。
「仕方ない。こうなったら、女神像だけでもなんとかしよう」
我の得意技、強力接着剤を台座の隙間に流し込んでやろうと、腰袋に手を入れたとき、リコッタが小さな声で話しかけてきた。
「ねぇねぇ。アルスはいつくるの?」
弾んだ声に、勇者が来る前にリコッタを魔界へ帰すことを思い出した。
「あっ、ああ〜……。なっ、なんか勇者……、こっ、来れなくなったみたいよ……?」
「はぁああ⁉︎ なんでもっと早く言わないのよ! じゃあ、こんなところに用はないんだけど! てか、もう帰る!」
リコッタは我を怒鳴ると、ホールにカツカツとピンヒールの音を響かせて、扉を勢いよく開けた。
その音にザンギが目を覚まし、リコッタを追いかける。
「リコッタ、ちょっと待てよ!」
早足で森を抜けるリコッタの背中にザンギが呼びかける。
リコッタは歩みを止めて面倒くさそうに振り返った。
月明かりが、ふたりのシルエットを泉に映し出す。
「なに? 入口のカラクリは解いたんだからもういいでしょ。私、帰りたいんだけど」
「そっか……」
リコッタの目の前で勇者を倒したかったザンギは、少し残念そうな表情を浮かべた。
「あのさ……、明日、明日の夜! ふたりで出かけないか? いま、オーガ族の村は桜が満開なんだぜ。リコッタ、前に見たいって言ったただろ?」
懸命で、でも優しい声でザンギが呼びかける。
「俺もお前に夜桜を見せたいし。明日の夜になれば、すべて片付いているからさ。だから……」
ザンギは、照れた顔を隠すように、少しうつむきながら、不器用な言葉でリコッタを誘った。
その仕草と声は普段の荒くれ者とはほど遠いものだった。
「うーん……、考えておく」
パシャリ。
魚が水面を跳ね、ふたりの影を歪ませた。
「気が向いたら連絡するね」
「わかった……。じゃあ、魔界まで送るよ」
「大丈夫。ちょっとひとりで歩きたいし。じゃ、またねー!」
そう言うと。リコッタはゆるいカールがかった髪をなびかせて、再び歩き出した。
「連絡、待っているから!」
背中に向かって投げかけた。
リコッタが軽く手を上げる。
闇に消えていく後ろ姿を見つめながら、ザンギの引き止められなかった腕が、ゆっくりと下ろされた。




