#女心
ズゴゴゴゴ‼︎‼︎‼︎
体が吹き飛びそうなほど、凄まじい衝撃波が近づいてくる。
なぜ、我も勇者一向とともに爆撃を食らわねばならぬのだ。
ああ、でも、そんなこと言う間もなく終わりだ。
「うわわああぁぁあ‼︎‼︎」
命の危機を感じて顔を覆いながら叫んだ。
「…………」
観念して目を閉じたが、一向に何も起こらない。
「あ、あっ、あれ……?」
恐る恐る目を開けると、我の目の前に勇者の背中があった。
勇者の盾を腕に爆撃を受け止めている。
吹き上がる砂埃が、シーンをよりドラマティックに演出していた。
「トルテ、受け取ったよ! ありがとう! そして国王! 勇者の盾、継承しました!」
アルスは勇者の盾を掲げて、高らかに宣言する。
国王は大きく頷き、トルテちゃんは喜びに満ちた表情で微笑みを返す。
テニース国の兵士たちの士気がますます上がった。
「チッ!」
リコッタは舌打ちして、太モモからダガーナイフを引き抜くと、勇者に向かって振りかざした。
攻撃に気がついた勇者は、体を引き、間一髪で攻撃をかわす。
かすった前髪がハラハラと舞った。
リコッタは間髪入れずに連続攻撃を続けるが、アルスはすべてかわしていた。
しばらくすると、勇者が盾を下ろして防御をとく。
「はっ!」
リコッタは無防備な胸元を狙って、ダガーを突き刺そうとしたが、刃は勇者の手で受け止められていた。
握った手の平から、真っ赤な血がポタポタと滴る。
「リコッタ」
アルスは真っ直ぐな瞳でリコッタを見つめ、優しく呼んだ。
リコッタは思わず目を反らす。
「これで、わかったでしょ……。すべて私の仕業よ」
「うん。でも、俺はまだ、リコッタのことを知らないから、なぜこんなことをしたのかわからない。だけど、お互いのことをちゃんと知れば、理解することができるかもしれない。さっきも言ったけど、リコッタは大事に思う気持ちに変わりはないよ。でも……、今回はこれで終わりにしないか?」
「アルス……」
リコッタはうつむき、肩を軽く震わせると、ゆっくりとダガーから手を離し、小声で呟いた。
「……るよ」
「えっ!?」
聞き取れないほどの小さな声だったため、思わず聞き返す。
「引き上げるって言ってんの‼」
逆ギレするように大声で怒鳴ると、指で印を組み、詠唱を唱える。
リコッタの体から黒い光の円が広がり、庭園や城にいるブラッディの連中を包み込んだ。
黒い光を纏ったリコッタは、最後にしっかりと勇者の目を見つめ、微笑みを浮かべる。
「またね、アルス」
そう言って指を鳴らすと、ブラッディの連中とともに闇の中へと消えた。
我ひとり残して。




