#国王、#ご乱心
若い女にハマったおっさんとはこうも痛いものか。
「リコッタちゃ~ん。僕ちん、今日お仕事すっごく頑張ったの~。いい子いい子してぇ~」
精悍だったテニース国王は、ただの客になり下がり、ソファでくつろぐリコッタに必死のアピールをしていた。
そんなおっさんに、嫌な素振りを微塵も見せず、微笑みながらうなずく姿は、さすが売れっ子キャバ嬢である。
リコッタはひとしきり、テニース国王の話を聞くと、
「私、勇者の盾が欲しいな~。これからお風呂に入るから、その間に用意しておいてね。じゃないと、もう口をきいてあげない」
と言い残し、部屋に設置されているバスルームへと姿を消した。
「うおおぉおおおおーーー!」
血相を変えた国王は、雄たけびをあげながら一目散に部屋から出ていった。
ミルクはテーブルに置かれていた、南国フルーツをむさぼり食っている。
「あー、気持ちよかった」
半刻経ち、シャボンの香りと薄いナイトウエアを身に纏ったリコッタが、紫色のロングヘアをタオルで抑えながらバスルームから出てきた。
同時に勢いよく扉が開き、勇者の盾を抱え、息を切らしたテニース国王と、青ざめた顔をした恰幅の良い男が入ってきた。
「リコッタちゃ~ん! 宝物庫から持ってきたよ~! 本当は、勇者に献上する予定だけど、リコッタちゃんが望むなら、なんでもあげちゃうっ!」
「なりません! 国王! 勇者の盾は国の、いえ世界の宝。代々勇者へと継承するものではありませんか。こんな見ず知らずの女に渡すなど、あるまじきことです!」
恰幅の良い男は、緊急事態を避けるため、額に大きな汗を浮かべながら必死で国王を説得する。国王はまとわりつく中年男を振り払うと、冷酷な目で一瞥し、
「うるさい! 大臣! これ以上邪魔をするなら貴様は本日限りでクビだ!」
威厳のある声で言い放った。
固まるほどのショックを受けた大臣は、わなわなと震えながら、
「国王が……、国王がご乱心だ! テニース国の一大事だああああーー!」
と絶叫しながら、頭をかきむしり、部屋から走って出ていった。
国王は、涙ながらに部屋から出ていく大臣に目もくれず、ハートの目でリコッタを見つめた。
「リコッタちゅわ~ん。邪魔が入っちゃったね~、ごめんね~。はい、プレゼントだよぉ」
勇者の盾を差し出した。
リコッタは、目の奥に怪しい光を宿し、ゆっくりと口角を上げると、それを受け取り、テニース国王の頭を軽くなでた。
国王は子供のような笑顔で喜んでいる。
大臣がほんの少し気の毒に感じだ。




