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リリーはただ震えていた。
モリーのことが心配で仕方がなかった。
幼い頃から仲が良かった親友のモリー。
彼女にもしものことがあったらと思うと、怖くて怖くてどうしようもなかった。
ぐったりと倒れているモリーに、過去が重なってくる。
初恋の夫、産まれてくるはずだった名も無きお腹の子、愛してくれた両親。
モリーも同じように喪うのだろうか。
それは、まるで呪いのようにリリーの頭から離れてくれない。
悪い方向にばかり考えが及んでしまうのだ。
「……報いなのかしら」
知らず、リリーは呟いていた。
七年前の自分の汚い感情が招いた結果なのだとしたら、まさに罰そのものだった。
リリーにではなく、周囲の大切な人たちが犠牲になるという点で、それは最も効果的だった。
「ああ」と声にならないため息が漏れる。
リリーは思わず、顔を覆った。
絶望が襲う。
漆黒の闇がリリーを飲み込もうと、大きく口を開けた。
「リリー」
ビクリと肩を揺らす。
反射的に、覆っていた顔をそっと上げた。
思いの外、サイラスの顔が近くにあった。
ドキリとする。
胸の高鳴りではなく、驚きのために。
ーーサイラス、あなたはどうしてそんな顔をしているの?
リリーには、サイラスが泣いているように見えた。
最初は、見間違いかと思ったけれど。
でも、違った。
顔を歪めて苦し気にリリーを見つめている彼の表情は、胸を掻き毟るほど切ないものをリリーに感じさせた。
君のせいじゃない。
何となく、サイラスにそう言われているような気がして。
何だか無性に泣きたくなった。
「リリー」
もう一度、名を呼ばれ、リリーは頷く。
「もう大丈夫よ」と笑って答えられれば、良かったのだけれど。
今のリリーには、これで精一杯だった。
サイラスはそれでもいいんだと言うように、首を振った。
泣き笑いのように眉が下がりながらも微笑みかけてくれるサイラスは、きっとリリーの気持ちを少しでも軽くしようとしてくれているのだろうと思う。
それに応えたかった。
ーーそうよ、わたしは変わりたいと思ったんじゃなかったの。
そう自身に問いかける。
ずっと過去を引きずっているのは楽だった。
ただ嘆いていれば良かったから。
でも、それではいけないと考えるようになった。
もう悔やんだりはしない。
そう思った。
モリーのことは今もなお心配だけれど。
何か周囲で不幸があった時、全て自分のせいかもしれないと考えるのは間違っているし、建設的ではない。
それよりも、これからどうしたらいいのかを考えたかった。
モリーの容態については、リリーにはどうすることもできないけれど、快復を祈ったり見舞いに行ったりすることはできるはずだ。
良い医者がいれば紹介すればいいし、良い薬があれば渡せばいい。
そうだ、それでいいんだとリリーは思った。
今はただ、モリーのためにできることを全力ですればいい。
悲しむのは、その後でもできるから。
だから、もう。
ーーもう、自分を責めたりしない。
そんな自分になりたいと、リリーは思った。




