人の上に立つもの
「私もそう思う。私も日良は、信じていないと思う。私のことも、誰のことも。自分自身のことさえ……」
野乃花につられたかのように、咲希も同じ表情を浮かべた。悲しそうで寂しそうな、優しい微笑みをである。
「でもそれって、人の上に立つものとして……失格だと私は思ってる。だから私は信じる、誰の事も信じる。誰も疑わない、誰も怪しんだりしない……。絶対に」
強い意志の籠もった咲希の言葉に、野乃花は感心していた。こんな時代にもそうゆう人はいるんだな、そう思い少し憧れていた。
咲希の純粋さに、素直さに。そして咲希と和輝が持つ、優しさに。憧れはしたが、欲しいとは思わなかった。むしろ、相手が咲希でなければバカにするような言葉であろう。
だって野乃花は苦しみを生き抜いて来たから。平和を生きてきた和輝や、姫として可愛がられていた咲希とは違う。その二人のような優しさを手にすることは出来ない。それは、野乃花自身が最もよく理解していた。
だから優しい性格に憧れて、同時に憐れんだのである。自分もそんな優しさを手に入れたい。自分は騙され易い単純な人ではなく、疑い深い人になる。野乃花の心には、矛盾しているようで矛盾していないような。複雑な思いが生まれた。
「日良ちゃんは、誰のことも信じてない? そうなんだ、俺は気付かなかったや。てっきり、野乃花ちゃんのこと信じてるんだと思ってたけど……。でも本当に誰も信じてないんだったら、それは直して欲しいね。いいや、俺がなんとかして見せる」




