油断
「遊んでいる場合じゃない、楓雅が攻めてきたりしたら本当に大変だからな」
戻って来たのを見て咲希は、再び真面目な顔になった。これからの話は自分が聞く物じゃない。そう考えた修太郎は、さっさと部屋を後にした。しかし三人ともそれには全く気付かない。
「えっ? 楓雅って人、そんなにヤバいの?」
本気で悩んでいる様子の咲希を見て、和輝も真剣そうな顔になって聞いた。いい加減、ふざけてばかりじゃいけないと感じたのだ。何も出来なくても、何かが出来る筈。そう願い、話を聞くだけでもしようと思った。
「凄い強いんだ! 深雪も全く抵抗できなかったよ」
和輝の質問には、服の汚れを払いながら深雪が答える。負けたばかりの深雪が言った方が、強さを伝えやすいと考えたからだ。
「姫様! 楓雅殿の軍隊がこちらへ向かっているとのこと!」
沈黙となり掛けたとき、一葉が部屋に飛び込んできた。その表情は恐怖に怯えていたが、咲希の為に頑張ろうとする気持ちは見て取れた。
「マジかあ、大丈夫なん?」
散々楓雅が強いと聞かされた和輝だが、実際会ったことはないのでそこまで実感はしていなかった。元々平和を生きていたので、戦争自体に本当の恐怖を感じていないのだ。
「変態の言葉はまたよく分からないが、でも大丈夫ではないと思う」
考えていた咲希の顔に、ニヤリとした表情が浮かんだ。そしてその表情の変化を、深雪は見逃さなかった。
「おっ咲希、何か思いついたんだな!」
嬉しそうに、ワクワクした気持ちを抑えられずに深雪は問い掛ける。なぜなら深雪は、咲希の策を聞くのが大好きだったからだ。咲希は意外な方法をあげることが多いので、深雪にはそれが楽しくて仕方がない。
だって咲希以外では、深雪を驚かすことなんて出来ない。賢い深雪を喜ばせることなんて出来なかったから。
「ん? いや、特に作戦はないが……? それよりもさ、普通に戦って倒せばいいと思うんだ」
真面目にそう言う咲希に、深雪は笑顔で返した。また予想外のことを言われ、それが嬉しいのだ。
「どうゆうこと? 普通に戦おうとしたって、深雪みたいに嵌められちゃうよ。それに数で言ったって、あっちの方が多いじゃん!」
しかし咲希の言葉の意味が分からないので、とりあえず普通にツッコんだ。どうゆうことなのか、説明を求めた。
「そうですよ姫様、今までのように上手くいかないと思いますよ。あまり舐めてかかれば、簡単に滅んで行くでしょう。油断させて奇襲と言うのは、姫様の得意じゃないですか」
驚いた一葉は、敗北を知らない咲希が調子に乗っているんだと思った。だから一葉は真剣な顔をして、咲希に考え直させようとする。しかし、咲希は自分の力くらい分かっていた。少なくとも、一葉よりは。
「大丈夫だよ! だってさ、楓雅が来なければいいだけの話だろ? 偽伝令も私の得意だ、問題ない」




