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暁斗・外は天使

「で、学校辞めちゃったわけ?」

 正宗が笑った。夕食の席で、困ったオバさんは、皆に助言を求めようとしている。


「まだ退学届けは出してないけどね」

「そっか」

 面白そうに正宗は受け、アジフライを口に運んだ。


「高認ていうのは難しいのかい?」

 うっ、伯父さんの反応が一番怖かったんだけど、案外、理解ありそうだな。


「ううん、簡単らしいよ。だって、高校中退者が皆、優秀ってわけじゃないから。マークシートだし。暁斗なら一発で合格じゃない?」

「正宗、また勝手なこと言って」


「だって、高校いかなきゃって思うほうがストレスだよ。体の調子も分からないのに、登校しなきゃ、とかテストはどう、とか、友達との関係は、とか、あんま、プラスになると思えないね」


 理路整然と話す正宗に、オバさんは完全に旗色が悪くなった。


「学校には学校でしか学べないことがあるでしょう。学園祭とか修学旅行とか、そういった中で友情を深め合ったりするんです。アンタは、いつも冷めていて、なんでも即物的に考えて。もう少し人間らしくなりなさい」


「こんなに熱い男を掴まえて即物的なんて言う? あのね、今は学校がつらくて自殺する生徒が出るような時代なの。それだけ、子どもたちもおかしくなってるわけ。あんなトコに、ちゃんと通うってのは、相当のエネルギーがないと無理なんだよ。それを病気の暁斗にしろ、て言うの?」


 あああ、だめだよ、正宗。言いすぎ。オバさん、相当気分害したよ。


「そ、そんな事言ってないでしょ! 簡単に学校を辞めていいのか、って言ってるの。ああ、もう、お父さん、何とか言ってやって」

「正宗、おかあさんは間違ってないぞ」

「うん」


 しれ、っと正宗は返事をして、ご飯を食べ続ける。この家族って……


「僕……もうちょっと考えてみますから」

 オレって小心者。家族間の緊張感に耐えられず、表面を取り繕うとしている。

「うん、そうしなさい」

 オバさんは勝ち誇ったように極上スマイルで返してくれた。


 そのあとは、もうドッと疲れてしまって、倒れこむようにベッドに横になった。考えたら今日は、雑誌の取材と、高校辞める宣言、という大イベントが重なってしまったんだ。


 ああ、まだ、本調子には遠いなぁ…… 体調不良にひきずられるように気持ちも沈む。


『これではいかん! 不幸うずまきが拡大する』

 オレは電話を取り上げると、正宗にコールした。


「いま、忙しい?」

「ううん」

「頼みがあるんだけど」

「なに?」

「レイキしてもらえる?」

「……いいよ。今いく」


 はぁぁ、言ったぞ。言った。今までだったらこんな事、他人に頼めなかったけど、言えた。自分の成長が嬉しくて、ちょっと気持ちが上がる。


 正宗がやってきて、十二ポジションに手を当ててくれる。

          *十二ポジションは、手をあてる基本部位


 やっぱり、幸子さんとは違う。なんて言うんだろ、広がり方が違うっていうかな。正宗の場合は、真っ白で暖かなものが、一瞬でどこまでも広がる。幸子さんの場合は、温かいエネルギーが川のように流れていく。瞬間瞬間で見える色が違う。どっちがいいって比べようがないんだけど、違いがあるから面白い。


「ありがと、ラクになったよ」

「よかった」

 正宗は、血色のよくなった頬をして笑った。そうか、レイキは、やっているほうもエネルギーが通るんだった。色白の正宗は上気すると可愛くって、内面とのギャップに笑いそうになった。


「なんか、楽しそうだけど」

「うん」

「そりゃ、よかった。……なんか……ぼぅっとする」


 正宗はそういうとオレの隣に、ボンッって横になった。


「ちょっとだけ、休ませて」

「うん?」


 もう意識を保っていられない、ってカンジで倒れた。驚いたけど、スースー寝息を立てているから大丈夫みたいだ。……けど


 困ったのは抱きしめられたオレの右腕。


 えーと。

 これって、離すのって、ダメだろうね?


 しばらくじっと正宗の顔を見ていた。


 ちょっとどうしたんですか?

 いつもシニカルで毒舌でエラソーなサド人間が、そんな子どもみたいに無防備に眠っていいんですか?


 指で正宗の頬を押してみたけど、起きない。


 オレはゆっくりと正宗のメガネをはずした。レンズを覗いてみたけど、ちょっとだけ度が入っている普通のレンズで何の変哲もない。これで霊が見えたり見えなかったりする? 何も変わらないけど。しばらくメガネを確かめた後、壊さないようにベッドわきの棚に置いた。


 再び、正宗を見る。わっ、メガネをとった顔って初めて見た。


伏せられた茶色い睫は長くて綺麗にそろっている。鼻のあたりにうっすらとあるソバカス、少年みたいだな。持ち前の茶色い髪が、乱暴に乱れて、白い肌のあちこちにかかって、半開きになった唇は桜色……


うっ、ちょっと……ヤバ、可愛いんですけど。


 ああ、萌えてどうするー 


 このまま不思議の世界に突入していくのは嫌だ(もう十分、不思議な世界は不思議な世界なんだけど)


「ふぅ」


 オレは深呼吸をした。


 こいつは外見は天使でも、中味は悪魔のような正宗です。そうです。


 そう必死で自分に言い続けていると、ふっと笑いがこみあげてきた。


―もういいよ―


 正宗の顔のすぐ隣に、自分の顔をつけると、そのまま目を閉じた。胸の中心から、温かいものが溢れて外に出ていったような感じがした。そのまま拡がる……拡がる……


 ときどき胸に痛みを感じた。それは、感情のブロックだったのかもしれない。そのブロックが無くなっても、胸の奥からあふれ出るのは治まらなかった。



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