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暁斗・とかくこの世は住みにくい

「今日はどうもありがとうございました。七月号が出来たら、すぐにお送りします」

 

 インタビューをしていた女性記者が立ち上がった。既に写真を撮り終えていたカメラマンは、もういなくなっていた。

 

 地元誌に載せるパワースポットとして、うちの神社が選ばれ、なぜかオレが写真に撮られることになったのだ。正宗のオバさんは、超はりきってオレに正宗のいちばんいい着物と袴を着せ(いいのか?)悦に入っていた。

 

 オバさんは、オレが女性参拝者にすごい人気だの、剣道の腕前は全国レベルだの(優勝した正宗の立場って……)オレの自慢を早口でしゃべりまくり、女性記者もいっしょになって舞い上がり、神社の歴史よりも、熱心にオレの趣味などを質問した。あいだ、私服にまで着替えさせられ、もう何がなんだか分からない世界になっていた。

 

 うーーん、いいのだろうか? けど、自分の欲望に素直な女性たちのパワーはすごくて、妙に関心してしまった。

 

 

「こんにちわ。おお、オトコマエじゃん。着物なんか着て何かあったの?」

 

 かつての担任だった湯川久美先生が、記者たちと入れ替わりでやってきた。湯川先生は、オレが留年していまだに登校できないのを気にしているようで時々、家まで来てくれのだ。

 

「まあ、センセ、こんにちわ。センセ聞いてください。今度、暁斗くん、雑誌にのるんですよぉ」

 

 ああー、オバさん! それ先生に言っていいのか! 登校も出来ない人間が雑誌にヘラヘラのったらマズいとか考えないのか?

 

「うっそ、ほんと? どんな雑誌、いつ出るんですか?」

「えっとですねー」

 

 オレの心配など杞憂のようで、オバさんとユンクミは楽しそうにしゃべりながら、家に入っていった。あ、ユンクミというのは、湯川先生のアダナね。〝くみ〟とつく女性教師は、『ごくせん』がブレークして以来、○ンクミと言われる宿命にあった。ユンクミは『ごくせん』のヤンクミとはほど遠いけど、ちょっと似ているトコもある。さっぱりした性格と、面倒見がいいトコと、明るいとこだ。

 

 

「ほんと、物理と数学は強くなったね。何か心境の変化あった?」

 

 物理の先生であるユンクミはオレの課題をチェックしながら嬉しそうに大声で話す。いつも悪がきどもを相手にしているから、自然に声は大きくなるようだ。

 

 物理と数学の力がついたのは、正宗に言われた課題をやっているからだ。正宗は自分のうずまき研究は、まだ頭の中だけなんで今まで話した内容をまとめろ、と言う。その下地になった資料には物理に関することが多くて、自然、勉強するはめになったのだ。

 

 

「学校は、そろそろ中間テストなんだけど、テストだけ受けに出てこれるかな? 保健室で受けれるんだけどね」

 

「う……ん」

 

 居間のテーブルを囲んで座ったオレと先生とオバさん。何かヘンな取り合わせ。でも、この面談も数回やると慣れてくるんだな。

 

「最近、ようやく少し出歩けるようになったんです。ね、暁斗くん」

「はい」

「病院のほうは何て?」

「えっと、血液検査のほうはだいぶ良くなってて…… でも、まだ治ったわけじゃないんで、しんどかったら休んで、元気だったら無理しない程度に動けって言われました」

 

 オバさんが代弁してくれる。どーもオバさんの中ではオレは『薄幸の美少年』というカテゴリーに入れられているらしく(正宗言)過保護である。病院にも着いてきてくれて助かるんだけど、慣れてないんでちょっと恥ずかしい。

 

「そうですか。うーーん、どうしましょう?」

 そうだよな…… こういう曖昧な状態って、どうしたらいいか分からないよな。

 

 ま、テストはそれで受けるとしても、オレにはもっと気になることがあった。そう、出席日数だ。

 

「先生、テストは受けたとして、その後、どれくらい休むと、もうアウト?」

 

 ユンクミはサッと顔色を変えた。職員室で何か言われたことあるんだな。きっとホストのバイトしてたのが、いまだに響いているんだ。

 

「三ぶんの一休むと危ないのは分かっているね? 年120回の授業、41回休むともう三ぶんの一。 ですが、病気で休んでいる場合は、大目に見てもらえるぶんはあります。規定の単位をレポートで出したりしてね。今は四月だから、えーと……」

 

 ユンクミはスマートフォンを出して計算し始めた。そんなに細かく教えてもらわなくていいんだけど。

 

 あー、学校って面倒くさい。

 

「先生、もういいよ」

 

 オレの言葉に、ユンクミは顔を上げた。

 

「高認(高校卒業程度認定試験)受けることにするよ」

「こうにん?」

 

 オバさんが声を上げた。オバさんは高認が分からないみたいだ。昔は大検って言ったからね。一方のユンクミは深刻な顔をしていた。

 

「学校辞めるってこと?」

「うん」

 しばらく女性ふたりの沈黙が続いた。

 

「だって高校行く意味ねえんだもん。留年してっから友達もいないしさ。部活だって中途半端だし」

「中途半端?」

「本来三年生だったら、もう引退なんだよ。でも、オレはまだ二年だから、あと1回、全国大会目指せる。でも、それって何か卑怯じゃない? 留年したから、また高校の大会出られました、なんて」

「別に卑怯なんかじゃないと思うよ」

「そうかな。ま、でも、もう全国大会なんて、夢のまた夢だけどね」

 

 忘れていた事実を口に出すと少し悲しくなった。ああ、輝ける高校生活は終わりを告げようとしている。……なんてね。もう既に、学校生活なんて遠くになっちゃってるんだ。母が死んでから、あまりにも人生が変わりすぎて、自分も変わりすぎて、同級生たちとも話が合わないだろう。

 

 だから、これでいいんだ。

 

 オバさんと、ユンクミは、もうしばらく考えるように言ったけど、考えを変えるつもりはない。

 

 区切りをつけると、すごくスッキリした。これで、高認と大学受験の勉強だけに絞ればいいんだから。


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