光を蝕む圧倒的な闇
――祭りの翌日。
〈残光〉は昨日の笑い声や歓声の余韻に包まれ、
穏やかな朝を迎えていた。
畑では人々が作業を始め、
子どもたちは元気に駆け回っている。
だが館の中だけは、空気が違った。
長は机に肘をつき、額に手を当てて眉をひそめ、
額の汗を拭うと、机を強く叩いた。
「駄目だ……昨日の祭りで安定したはずのバリアが…
また揺らいでいる!!」
声には怒りと焦燥が混じっていた。
「戦士たちを集めろ!」
長はすぐに命じる。
「全員、訓練場に集合だ!
異変が確認され次第、即座に防衛体制に入る!」
館の外では、いつも通りの朝の光が
畑や小道を照らしていた。
「なんだ…?」
レイは足を止め、眉をひそめる。
視線を巡らせると、大慌てで訓練場へ駆ける
戦士たちの姿が目に入った。
顔にはいつもの余裕はなく、手にした剣や弓を
ぎゅっと握りしめている。
風がざわつき、遠くの旗が激しく揺れた。
空気が、いつもより重い。
「何があった…?」
レイは小さく呟き、思わず足を速めた。
駆ける戦士たちに近づくほど、
胸に不安が重くのしかかる。
「すみません、何があったんですか?」
――レイが戦士に声をかけた瞬間。
空気が、軋んだ。
耳鳴りにも似た低い振動が、拠点全体を包み込む。
地面がわずかに揺れ、畑の土がさらりと崩れ落ちた。
「……っ?」
レイは思わず空を見上げる。
〈残光〉を覆っていたはずの透明な壁。
そこに――亀裂が走っていた。
ガラスに入ったヒビのような、不自然な線。
一本、また一本と増えていく。
「嘘だろ……」
訓練場に向かっていた戦士たちの声が震えた。
次の瞬間、
バキン――
鈍く、決定的な音が響いた。
光の膜が砕け散り、無数の欠片となって空へ溶ける。
守られていたはずの境界は、あっけなく消え去った。
風が変わる。冷たく、重く、嫌な気配を孕んだ風だ。
訓練場の戦士の一人が、青ざめた顔で叫ぶ。
「バリアが…崩れ落ちた…!!?」
その言葉が、〈残光〉全体に広がった瞬間、
昨日までの笑顔も、祭りの余韻も、
すべてが一気に色を失った。
レイは、拳を握りしめた。
ずっと、この日常は続くと思っていた。
――だが、その幻想は、音もなく崩れ去った。
光を蝕む、圧倒的な闇が。
いま、確かに〈残光〉へと足を踏み入れたのだった。




