【番外編】クロイス・ゲールの見た帝都
「いや、酷いのはあっちだろう? 姉上の趣味が悪すぎて、ひく」
「君の姉上は今、どこに?」
姉の彼氏は、頭が悪い上に、厚かましい。
姉は「ちょっとおバカなところがかわいいの」と言っていたが、おバカ具合がちょっとじゃない。
「姉上なら領地で留守番ですよ。婚約を拒否されているうちは出ていかない方がいいだろうって」
「ここにはいない?」
大丈夫か?
頭だけじゃなくて、耳も悪いのか?
「今、そう言ったでしょう? どんだけバカなんですか? 知ってますか? ゲール領。姉はそこにいます」
「クロイス、やめなって」
「ありがとう、感謝する」
幼馴染のジェームズが間に入ろうとした甲斐もなく、礼を述べて走ってどこかへ行ってしまった。
「あいつ、あんなに急いでどこ行くんだ?」
「そりゃぁ、ゲール領でしょう?」
ジェームズがニヤニヤしながらありえないことを言った。
「いや、もう数時間であいつの戦勝祝賀会が始まるんだぞ?」
「それをほっぽり出して、姉君に会いに行くからおバカって言われるんでしょ?」
「いや、いくらなんでも、それは…… ありえるのか」
「だから言ったじゃん。聖女との報道はガセだって」
姉はバカではないが、お人よしだ。
魔女の代わりに帝国の捕虜として育った。
それなのに、会ったこともない魔女の為に自分の彼氏を騙して一計を案じた。
それは、魔女に心酔して、ゲール家の当主としては使い物にならなくなった兄のためだった。
俺は魔女が魔族だから嫌いなんじゃない。
兄の将来をダメにしたから、ゲール家から離反させたから、そして最終的には魔界に連れ去ったから嫌いだ。
ゲール家が連座で処刑される可能性まであった。
それでも、兄は魔女について行ったし、姉は二人を支援した。
姉と彼氏がどのように育ったのか知らないが、姉は幼い頃から一緒に育った兄と魔女を自分に重ねて、応援したくなったと言った。
両親は、姉に従った。
母は姉が攫われた時、姉を父に任せて俺を生むために領地にいた。そして、俺が攫われた時、姉を諦めて領地に戻ったことに責任を感じている。
父は姉が攫われた時、スタリトレーガル王都で姉と暮らしていた。姉を守れなかったことに責任を感じている。
15年経ってようやく戻ってきた姉は、既に政略結婚が決まっている。
兄を支援したいというのは、姉のマーガレット・ゲールとしての最初で最後のワガママだろう。
両親は、兄のためではなく、姉のために兄と魔女の支援に回ったのだと思う。
「それにしても、姉上の彼氏がバカすぎて、帝国の将来が心配だよ」
「ばあさんが西のジリルカン、かあさんが南のマルテ、そして嫁が東のゲールだろ? 王がバカでも周りが強すぎて安泰に決まってるよ」
そういうところも、もやっとする。
あいつは俺たちの中で最も「のほほん」と育って、想い人と結婚するのだ。
なんか癪に障る。
「きゃーーーーっ。ジェームズ・カルーリア!? そして、こっちはクロイス・ゲール!??」
耳をつんざくような悲鳴が聞こえて、顔を上げると女性神官が全速力で走ってきた。
今日は走ってくる人間が多いな、おい。
「うわぁーーー、本物だ。かっこいーーーー。やば、鼻血がでちゃった」
女性神官はそこまで言うと、パタリと昏倒した。
今日は一体、どんな厄日だ?
「豪華な法衣だね。聖女コレリアかな?」
「まさか。この衣装だけやたら豪華なバカっぽい女が?」
俺もジェームズもガチコイ教徒ではないから断定はできないが、聖女の可能性もなくはない。
だが、聖女のような高位の神官が単独で行動するか?
しかも、全速力で走ってきて、鼻血出して倒れるか?
「んー。カレナ様を呼んでくるから、クロイスはこの人を看てて」
「ああ」
俺は倒れた女性神官を見ていた。
一指も触れず、ただ黙って見ていた。
駆け付けたカレナ様に一切の介助もしなかったことを呆れられたが、俺はこれ以上おかしなことには関わりたくないんだ。




