手紙
「殿下、イライジャ殿下、起きてください」
僕は近衛に揺り起こされた。
魔族は押し寄せてはいなかった。
入った時と同じ、ひんやりとして静かな空間がそのままの状態でそこにあった。
「魔族は?」
「殿下、近衛たちも皆、同じ状況です。スリープの後に、ジャミングを掛けられて、混乱しているのです。とりあえず城に戻って治療を受けましょう」
僕はぼーっとしてしまって、その言葉に従うしかなかった。
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パサリ。
治療を受けるために上着を脱ぐとき、一枚の紙が胸元から落ちた。
「なんだ?」
それは手帳か何かのページを引きちぎって書いた走り書きの手紙だった。
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イライジャ皇太子殿下
あなたさまのミミは、本来、わたくしの影武者ではありませんでした。
ご覧になった通り、本物のミランダミランは魔族です。
正確には聖王カルロと下級魔族の間に生まれた魔族のハーフです。
正妃キーラと聖王カルロは、睦まじい夫婦でしたが、子に恵まれませんでした。
後継者の為に迎えた側妃マリアンヌが生んだ2人の王子が不貞の産物であると知った父カルロは、正妃キーラの為に正しくスタリトレーガル王家の血を引く後継者を儲けるため、キーラ妃の侍女との間に子を儲けました。
その侍女が下級魔族と知らずに。
母は生まれてきたわたくしに姿を変える魔法をかけ続け、2年もの間、キーラ妃に魔族と知られずに済んでいました。
しかし、父と共に出陣した母が戦死した時、魔法が解け、わたくしの黒髪と赤目がキーラ妃に知られることとなりました。
そして、父が帝国に捕らえられ、敗戦調停が始まり、臣下たちが王の人質交換の為に娘を出せと迫ってきた折、キーラ妃は咄嗟に女児を攫ってきて差し出しました。
帝国にスタリトレーガル王の娘が魔族であることを知られるわけにはいかなかったのです。
結果は、ご存じのとおりです。
側妃派の爆撃で父は亡き人となり、身代わりの娘は、長く帝国に留め置かれることとなりました。
そして、わたくしは速やかにゲール家に引き取られ、そこで育てられました。
厚かましいお願いですが、キーラ妃は国の為に最善を尽くしてくださいました。病を得て、獄中生活に耐えられるお体ではありません。どうか追わないでください。
わたくしと一緒に育ったことで、わたくしに毒されてしまったカリオスの行動は、ゲール家とは無関係です。
どうか、ゲール家の処罰は過酷なものになりませぬようご容赦くださいませ。
最後に、わたくしの身代わりとなってしまった女児が殿下とバライカ小夫人の寵愛を得て、大切に育てられたと伺い、感謝の念を禁じえません。
本当にありがとうございました。
お二人のご多幸と繁栄を心よりお祈り申し上げます。
どうぞお幸せに。
敬具
ミランダミラン・スタリトレーガル
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敬具、じゃないよ、ミミはどこだよ!?
僕は途方に暮れた。
どこを探せばいいかもわからなくなってしまった。
だから、その手紙を祖父に見せて助言を求めた。
「カレナが神託について相談してきたとき、ミミが偽物だとは聞いたが、カレナも『攫われた子』ぐらいの情報しかもっていなかったと思う」
「その時は『攫われた子』だったかもしれませんが、今は家族でしょう? どこにいるか聞いていないんですか?」
「ワシは頭が悪くて、口も軽いから、なんも教えてもらえんことはそなたも知っておるじゃろう?」
そうだった。
祖父は戦いにおいては最強の戦士だが、頭が悪くて指揮官タイプではない。
軍行においては祖母の父が指揮を執っていたし、祖母の父に操られているという噂を消すのが大変だったと聞くほど頭脳タイプではない。
要はおバカなのだ。
「それでも皇帝だったのだから、何か知っているでしょう?」
「何せ昔のことだからな。ゲールの当主が訪ねてきて、本物のミランダミラン姫は魔族とのハーフだと言っていた時にはその場にいた。本物の姫を帝国に差し出す準備があると言った時、レナが人質交換に大反対していた。わしらが死んでしまうから、偽物のままがいいと」
姉が言っていた神託では、僕が天涯孤独になる原因が本物のミランダミラン姫だったのか?
「父上や母上は、ミミが偽物だと知っていたんですね?」
「ああ。知っていた。神託についてはどうかわからんが、ゲール家とのやり取りについてはワシより詳しいはずじゃ。ゲールの当主が本物を押し付けようと帝都にとどまっていたじゃろう?」
ゲールの当主というのは、ミミの乳母のことだよな?
ミミの乳母は、乳母の振りして本物の姫を押し付けようと交渉を続けていた?
その後、次男のクロイスが攫われて領地に帰ったんだよな?
それで、本物を帝室に押し付けるのをあきらめたんだな?
あー。
もう嫌だ。
そんな昔のことを考えても、ミミの居場所にたどり着くとは思えない。
「帝都に帰ります」
「うん。それがいいじゃろう。ワシじゃわからん」




