具申(ロイズ視点)
「陛下」
俺は情けなくなりながら、敬愛すべき親友であり、この国の主を見つめる。
「『私』の具申を聞き入れてくださったのではなかったのですか?」
「……ロイズ」
うめくように名前を呼ばれたが、俺の方が、うめきたかった。
俺は何度も何度も言ったはずだ。王妃殿下には事情を話すべきだと。
そして、それをエドワードも聞き入れたはずだった。
だから、安心して送り出したのに。
「どうして、離婚届など……」
「それは……そうすれば、リュゼリアの気が引けると思って……」
……気が引ける、ね。
「陛下、私は申しました。重鎮たちを抑えるのも限度があると」
「!」
「その中には、もちろん、王妃殿下のご実家——ロイグ公爵家も含まれているのは、ご承知だとは思いますが」
ロイグ公爵家。王妃殿下の実家であり、国内有数の貴族家だ。
「万一、今回のことがロイグ公爵閣下に知られるようなことがあれば……」
俺としては、エドワードを応援したい。エドワードがどれだけ王妃殿下のことを好きで、治療のために努力したかを聞かされてたから。
でも、エドワードの親友であると同時に俺は、陛下の側近である。つまり、国の行末を握る責任がある。
「陛下が、王妃殿下を愛してらっしゃるのも、アイリ嬢を治療目的のためだけにそばにおいてらっしゃるのも存じ上げていますが」
エドワードは黙って俺の話を聞いている。
「今一度、ご自身の役割と、王妃殿下のお立場をお考えいただけませんか?」
ただの夫婦ならいい。どれだけすれ違おうと、それは夫婦内の話で片がつく。だが、エドワードは一国の主。
国王夫妻のすれ違いは、ただのすれ違いで済む話ではない。その上、王妃殿下のご実家は有力貴族ときた。
エドワードがアイリ嬢を囲っているというのは、この城に勤める者なら周知の事実。
後ろ盾のはずのロイグ公爵家をこけにし、王妃殿下を蔑ろにする行為を、公爵閣下が放っておくはずもなく。
今まで幾度となく、王妃殿下を、手元に戻す……つまり、エドワードと離縁させようとしてきた。
恩着せがましくするつもりはないけれど、それでも今なお、離縁が成立していないのは、俺の頑張りの成果だ。
「もう、ダルク殿下の亡霊に囚われずとも、よろしいのでは。王妃殿下は、あなたを愛しておいででしょう」
「……リュゼリアは、私をもう愛していないらしい」
「……は?」
そういえば、今朝無理やりキスを迫って引っ叩かれてたな。
「もう、リュゼリアから熱を感じない。離婚届も、素直にサインをするところだった」
それは……。ついに、王妃殿下も愛想を尽かしたということか。
俺は、ため息をつきたくなるのを抑えて、エドワードを見つめた。
「陛下、退位される気はおありですか?」




