そんな方法
「離れる……」
「ええ。離れる方法は、様々ですが」
たとえば、書類からも離れたいなら離婚もそうだし、物理的に離れたいなら別居もそうよね。
自分の心の中で言葉にして、はっとする。
——離婚。
そういえば、そんな方法もあったのだと。
「そうね、検討してみるわ。ありがとう」
「いえ」
アキルは美しく微笑むと、私を見つめた。
「ところで、王妃殿下。今日の質問を一つ、よろしいですか?」
「ええ、構わないわ」
アキルの探し物の手伝いになるかもしれない質問ってどんな内容かしら?
若干ドキドキしつつ、アキルを見つめ返す。
「そうですね——王妃殿下のお好きな色は?」
「……え?」
私の好きな色? それがどう探し物に繋がるの?
頭の中が?マークでいっぱいだ。
でも薬のお礼なので、答えないといけないわよね。
「……私の好きな色は」
以前なら迷わず緑と答えただろう。でも、今はそんな緑も好きかどうか微妙なところ。
それ以外に好きな色といえば……。
ふと、アキルの燃え盛る炎のような髪色が目に入った。
そういえば、緑の反対色といえば、赤よね。
「……赤、が好きだわ」
たった今気づいたけれど。
うん、赤も割と好きかもしれない。
「そうなのですね、お答えいただきありがとうございます」
アキルは目を細めて、薄く笑うと、恭しく礼をした。
「では、王妃殿下。これにて、失礼致します」
◇◇◇
……さて。
その後は、今日も数少ない公務をして。
せっかくの休憩時間だけれど、出かける気になれず、ベッドにごろりと転がる。
「離婚、かぁ……」
薬を飲む前にアイリに王妃をしてもらって私はお暇するのもいいかもしれない、とか考えていたのよね。
でも、恋心が消えて、特にアイリのことについて悩む必要がなくなったから、その方法をすっかり忘れてしまっていたわ。
もし、離婚するとなれば私の実家——ロイグ公爵家に戻る、という選択肢もあるけれど……。
随分前に一言二言社交的な挨拶を現公爵であるお父様と話した以外、家族との交流はない。
私がエドワード陛下の婚約者になったのが、もう10年ほど前だから、それ以来ずっと公爵家には帰ってないわけで。
あの家に帰ったところで、私に居場所があるとは思えない。
そもそも家族の交流すらないのに、一度婚姻を結んだ私——しかも子供も産んでいない——には、貴族の娘としての利用価値もないから。
となると、離婚するとしても、私は私の居場所を探さなければならない。
加えて今私に仕えてくれているマーサや、メイカをどうするかも考えなければいけないわ。
うーん、どうしようかしら。
それに、離婚したら、イーディスの料理は食べられないのね……。
それは辛いわ。
かといって、好きでもない人とずっと結婚生活を続けるのもそれはそれで辛いし。
また、恋心が復活しても面倒だし。
「うーん、困ったわ」
考えても、いい案はなかなか浮かばなかった。
「まぁ、いっか! また今度考えましょう」
とりあえず、いい案が浮かばなかったので考え事はやめて、お昼寝をしようとすると……。
「リュゼリア様、今お時間よろしいでしょうか?」
「ええ、構わないわ。どうしたの?」
むくりと起き上がってマーサを見る。
マーサは真剣な表情で私を見つめていた。
「私共は、リュゼリア様に生涯お仕えしたく存じます」
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