正確な効果
乾いた音を響かせて、思いっきり平手打ちをおみまいした後、私は走って食事の間を逃げ出した。
「……っはぁ、はぁっ……っは」
自室に入り、荒い息を吐く。
「リュゼリア様?」
マーサが驚いた顔で私を見ている。それはそうよね。仮にも王妃が走って部屋に帰ってきたのだもの。
「……っマーサ!」
「は、はい!」
「理由は後よ。とにかく消毒薬を早く持ってきてちょうだい!!」
「……お待たせいたしました!」
マーサが持ってきてくれた消毒薬をありがたく受け取り、ガーゼに染み込ませ、唇を消毒する。
「りゅ、リュゼリア様?」
「大丈夫、死守したわ。ただぎりぎりだったから……一応」
「一体何があったのですか?」
消毒も無事に終わったし、マーサに理由を話す。
「……というわけなのよ」
「無理矢理だなんて、酷いです!」
自分のことのように怒ってくれたマーサにありがとう、と微笑んで、ふと思い出した。
「ねぇ、マーサ。お願いがあるのだけれど……」
◇◇◇
マーサが手配してくれた、その人物と再会する。
「王妃殿下、昨日ぶりですね」
そう言って恭しく礼をして、微笑んだのは異国の薬師——アキルだった。
「ええ、アキル殿」
昨日城下町で偶然会ったアキルに、聞き忘れていたことがあるのことを思い出したのだ。
「あなたを呼び出したのは、あの薬の正式な効果と名前について聞きたかったから」
「正式な効果と名前……にございますか」
アキルは、顎に手を当てた。
その一つの仕草さえ、様になる。
「正式な名前はそのまま『恋心を消す薬』です」
……やっぱりそうよね。ここまでは想定の範囲内だわ。
「では、効果は?」
「恋心を、条件付きで消します」
条件付き、ということは……。
「一年以内に誰か別の人物に恋をすれば、完璧に前の恋心は消え去ります。しかし、それができなければ、一年後、その恋心は復活します」
「!!」
一年後に、またあの苦しい思いをしなければならない……?
そんなのごめんよ。
「元から完璧に恋心を消し去る薬はないの?」
「ある……といえば、あるのでしょうが。私が作れるのは、『心』そのものを消す薬になってしまいます」
やっぱり、そうよね。そんなに上手い話はないか。
「わかったわ。ありがとう。それから、もう一点、あなたに尋ねたいことがあるの」
「何なりと」
「あなたのおかげで、今、私、とても楽しいの。そのお礼として、何か欲しいものはある?」
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