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 俺の質問が予想外だったのか、目を瞬かせると

「はぁ? なに、突然アホみたいな質問してきてんの?」

 眉をひそめてすぐに、呆れ顔になった。

 それから、大きくため息をついて

「ウチは、誰かに言われたから目指してるんじゃなくて、ウチがなりたいからやってんの。

 そのために必要なことをするのは当然でしょ!

 だから大変なのも当たり前なのは百も承知のことなの!」

 目先に人差し指を突き出され、思わず仰け反る。

「分かりきったことを聞くなんて、どんだけアホなのよ」

 やれやれと言わんばかりにあゆかは突き出した指を戻すると、椅子に背を預けて腕を組んだ。

「あ、いや、そんな簡単なことじゃないってわかってるけど。

 その大変なことを続けるのってツラくねぇの?」

「・・・小鳥遊。ほんと、アホの中のアホね。ツライに決まってんじゃない」

「じゃあ、辞めたいって…」

「何度も思ったことあるわよ」

 さっきまでの勢いは姿を潜め、硬い声で一言、短く続けた。

「だけど、それ以上に、ウチはなりたいの」


 言葉を重ねるように口を開いたあゆか。

 いつも鋭いと思っていた眼差しの奥に潜む、強い意思(おもい)を感じた。


「スポーツ選手が練習もせず、勝手に成績が上がわけじゃないでしょ?

 興味のない人からしたら芸事(こういうの)って分かりにくいけど、スポーツに考えてみるとわかるでしょ」


 確かにスポーツとして考えた方がより身近に感じやすかった。

 でも、すぐ頭に浮かんだ。プロ選手になれるのはごく一部であること。


「まぁ、そう、だな……もし、だけど。そのツライ思いをしながらも叶わなかったら?」

「・・・小鳥遊、面倒」

 俺から目線を外し、あゆかは深いため息をついた。

「浮かないと思ったら、そう言うことね」


 そう言うことってなんだ。


「ウチはいいと思ったことは全部やる。

 できること全部やってそれでダメだったら悔しいけど達成感はあると思うのよね。

 それぐらいの根性がなきゃ、勝てるケンカも勝てないわよ?」

 ニヤリと笑うと、拳を握って構えた。

「私にとっては戦い。正々堂々、自分に後悔しないように全力でぶつかっていくだけ」

 まるでボクシングのファイティングポーズように対峙され、気圧される。 

「けども、たまには愚痴りたいのよ。

 小鳥遊みたいにウジウジするとか性に合わないの!

 心に溜まった疲れを吐き出して、スッキリしたいのよ!ウチは!」

 

 ウジウジってなんだ!?とツッコミどころがあるものの、なんでなんでと質問ばかりしてしまっている手前、あゆかの勢いもあって、そのことを口に出すことを踏みとどまった。


「スポーツ選手だって、キッツイ練習したあと、絶対、疲れたーって愚痴ってるはずよ!」

 拳を天井に向かって掲げた時だった。


「そうだねー。でも、あゆかの場合はー、愚痴より弱音に近いじゃないかなー」


 その場にそぐわない気の抜けた、柔らかい声が降り注ぐ。

「宇汐っ!?」

 声を上げたのはあゆか。

 俺は声を上げることもできずに、ただ、宇汐を見上げていた。


更新するまで何度も見直ししていますが、誤字脱字がちらほら。

直しはじめたら完結するまでさらに時間がかかりそうなので、気長にお待ちいただけると幸いです。

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