36ふとした
授業を受けるべく教室に集まってきた生徒はまだまばらで、あちこちで挨拶の声が聞こえてくる。
「なーに、一人で浮かない顔してんのよ」
暖かな陽射しが窓から差し込んで来るのをいつもはありがたく思っていたけれど、今日はやけに眩しく感じた。いや、眩しさを通り過ぎて、目に刺さって痛い。
「あゆか…。別に…浮かない顔をしているわけじゃない…ただ寝不足なんだけだ」
寝るには寝たが、寝た気がせず。
全身はどことなく重く、ハイテンションのあゆかに対して、ただ俺は力なく答えるのみであった。
「ふーん? それにしちゃ、暗すぎるわよ?」
いつものごとく、チェーンのついたバックを音を立てながら置くと、まじまじと俺の顔を見ながら言い放れた言葉の反面、内容は気遣うものだ。行動からはガサツに見えてしまうが、こういう変化にはよく気づくものだと感心してしまう。
「そうか?別に…そういうあゆかだって今日は珍しくないか?」
不調を誤魔化すように話題をそらす。
この不調の原因には、ユリと色々あったからとか、真夜中のアレコレはあゆかにとってはいいネタにされそうなので、なんでもない、いつも通りを装う。
「それそれ!近々ライブに向けて練習とか準備とかやっていたら、目が冴えちゃってさー。
気付いたら朝!?今日は1限から授業じゃない?寝て起きれる自信ないから、完徹よ、完徹っ」
俺の言葉なんて聞いてるようで聞いていない。
むしろ「待ってました」と言わんばかりに勢いよく語り出しす。
ため息とは言えない量の息を吐き出しつつ、頬に手を当てるしおらしい態度をしているが、言葉の端々からも滲み出るテンションの高さ・・・同じ寝不足でも人によってこうも変わるものだ。
「…次の授業あるんだっけ?」
「ない!…てか、あったら死んでるわ」
死んでる。
つまり寝てるということだろう。
確かにこの授業は必修ではないけれど、単位が取りやすくのもあり”取得しておくと後々いい”って言う授業で、履修している生徒が多い。
「だな。お疲れ」
あゆかのテンションと明るさに目がいっていたが、言われてみれば、顔色も少し悪いようにも見える。
「あー! もっと言って!! ほんと、大変なんだからっっ!」
急に力んだ声に驚くが、怒ってるとかではなく
「けどっ!自分がやりたいことやってるからねー」
楽しそうに笑っているのだ。
”大変”、”簡単じゃない”そう度々、口にしているけど”辞めたい”とは一度も口にしたことはない。
気づけば口にしてた。
ふとした疑問だった。
「なぁ。結構な割合で”疲れた”とか、”大変”とか言うけど、辞めたいとか思わねぇの?」




