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「なしーーたーー小鳥遊っ」


 いきなり目の前に現れた宇汐の顔面に、思わず仰け反る。


「きゅ、急に、なんだよっ!?」

 宇汐はそんな俺の行動に首を傾げる

「急にって、何度も読んだんだよー?」

「そ、それは(わり)ぃ」

「んーん。やっぱりバイト慣れてないし、それにイベントスタッフって地味に体力使うからねー。

 大丈夫? 疲れた??」


 俺がボーッとして反応しなかったのは、疲れているとか不調なんじゃないか?と気遣ってくれてくれている宇汐にありがたくも、別のことを考えていた、なんて、少しバツが悪く

「別に。たまたまだし」

 そっけなく答えてしまった。

 俺は、なんて感じの悪いやつなんだろう。

 自分で吐いた言葉のくせに、その言葉に、対応に、自分が自分でイヤな気持ちになった。

「そっか。それなら良かったよー」

 そんな俺の態度に気を悪くすることなく、どこか忙しなくざわつく場内と反対に緩やかな空気を(まと)う宇汐。その空気に少し気持ちが軽くなった。


ーーー子供の頃、大学生は大人だと思っていた。落ち着いて、賢くて、そんな大人になるんだと思っていた。でも変わったのは見た目だけで、中身は何にも大人じゃなかった。


 俺は、その優しさを享受している。


「じゃあ、一応、開場する前に、もう一回、確認しよっかー」

 宇汐が斜めがけにしたシザーバッグから取り出したのは、この会場で顔合わせをした時に配られたイベントのスケジュールが書かれた紙。

「えっと、スケジュールの確認、で合ってるか?」

 俺も宇汐から借りたショルダーバッグから折りたたんでいた紙を出した。

「そう、これはタイムスケジュールって言って、誰が何分からステージとか、どれくらい調整の時間があるとかがわかる紙って説明したでしょ?

 この流れを頭に入っていると、どれくらいの時間経過してる、とか、トラブルがあった時とか対応しやすいし、小鳥遊の仕事と照らし合わせてみるとわかりやすいと思うんだよねー」

「へーそう言うんもんなのか」

「そう、小さい会場だったり、パフォーマンスだけ、とかだとないことが多いんだけど、今回は会場もそこそこ大きいし、合間合間で休憩がてらのトークとかあるから、こう言うのが頭に入ってないと裏方は結構大変なんだよー」

「そうなのか…」

 顔合わせの時に配られて、サラッと読み上げされたスケジュールがそれなりに重要なことであったことに驚いたし、何より、身内感の強いベンントだと気軽な気持ちだったけど、しっかりしてると言うか…仕事であった。忘れていたわけじゃないし、バイトで来てたけど、バイトも仕事なんだと当たり前のことを突きつけられて尻込みしてしまった自分がいた。


「ーーーまぁ。大丈夫だよ。

 会場の大きさに関係なく、しっかりやりたいって人が企画してるからさ、仰々しいけど、よほどのヘマしなきゃ、対応できるスタッフばかりだから」

 もしかしたら俺の顔は強張っていたのかもしれない。

 宇汐は俺の肩を軽く叩くと、タイムスケジュールと合わせながら、今回の仕事を確認していった。

 宇汐の説明は丁寧だったし、噛み砕いて説明してくれたから、なんとなく流れと自分の仕事が繋げることができた。


「…さっきよりは理解できたと思う」

「それなら、良かったー。まぁ、なんか対応に困ったらすぐ連絡して」

「了解」


 イベントスタッフがはじめての俺に割り振られた仕事は受付と会場警備と分かりやすいものだった。受付はチケットをもぎるだけだし、会場警備は関係者などが出入りする場所の近くなので、お客対応がほぼないような配置らしい。宇汐も基本は同じような流れらしいけど、状況によって、アテンドと言う出演者などの声かけや案内などをするらしい。


「イベントスタッフって大変なんだな…」

「あはは。色々気遣わなきゃいけないことがあるし、立ちっぱなしだし、長時間拘束だからキツイ人はキツイ仕事だよねー」  

 宇汐は苦笑を漏らした。

イベントスタッフのお仕事は、イベントによって内容は多種様々です。

やったことがある人も、ない人も、こんな仕事”も”あるんだなぁーって思ってもらえたら幸いです。

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