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「えっ、ほんと!?」
今日、1日の仕事をこなしただけあって、帰宅後のユリは朝、見送った状態とは違って、しっかりご飯を食べている。
「あぁ。今週末、宇汐んとこでバイトしてくる」
「そうっ…!」
しっかりしているとは言え、疲労感が否めなかったユリだが、俺の話を聞くと、パッと電気を灯したように明るい表情に変わる。それに加えて鼻歌を歌うように体をゆらゆらと揺らす。何が、そんなに楽しいんだか。
「そんなに俺がバイトすると楽しいのか?」
早々に晩御飯をすませている俺は、ユリの向かい側で頰づきながら聞いた。
「そりゃーねぇ? 良ちゃんお得意の、流れに身をまかせてってのがあるから、もし話が出ても断らないと思ってたけど」
「けど?」
言葉を区切ったユリは、食事の手を止めて、こちらを見据え、目が合うと
「さっきの良ちゃんの言葉が嬉しかったのよ」
ふふっと笑いを漏らすユリ。
そして、俺は顔をしかめた。
ユリの言うような、変わったことやいつもと違うことなどしたと言う記憶が見当たらなかった。
そうして、悩む俺の姿がおかしいのか、再び、ユリは笑いを漏らす。
「全然、わかりませんー」
授業で挙手するように、手のひらをユリの方向に伸ばす。
ユリ相手に考えて分からない時は意地とかプライドとかそんなのは大人しく横に置いて、とっとと降参するのが一番だ。
「しょうがないなぁ」
言葉と裏腹に満面の笑みである。
それから湯気がなくなった味噌汁を片手に、こくりと飲み込む。フゥと気の抜けたような息を吐いたあと、小さく「ご馳走様でした」と手を合わせた。
テーブルの上を簡単に片しながら、
「さっきさ、”人生、経験してみるのも悪くない”って言ったじゃない?」
口を開いて言われた言葉は、そんなこと?と思うぐらい、何気ない言葉であったように思う。
どうして、それが、楽しいに繋がるのだろうか?
「あぁ。言った、と思うけど…」
こんなに確信がない言い方になるのは、自分で出した言葉らしいけど、正直、”言った”と言えるほどに意識した言葉ではないからだ。”言われてみれば言ったかも?”ぐらいの無意識の言葉だ。
「そうそれっ! それが楽しいの!っていうか、嬉しい!の方が濃いかなぁ」
急に大きな声を出して、指を差されたのだが
「…そうそれ、とは?」
なんのことか、さっぱりである。
まず、興奮気味に自分を差された指もろともユリの手を強制的に下げた。少し不服そうな顔をして「良ちゃんは意地悪ねぇ」と意味のわからないことを口走ったので、とりあえずスルーして、本題を促す。
ユリのすべての言葉に付き合っていたら、時間がいくらあっても足らない。
「つまりね! 私に言ったと言いつつも、断ることができたし、流れに身を任せてバイトをするのも良ちゃんらしい。
だけど、その中に”経験してみるのも悪くない”って心があったことが嬉しいのっ」
一瞬、息が止まった。
ユリが笑うから、花が綻んだように笑うから、思わず驚いてしまったんだ。
たったそれだけのことで。
しかも自分のことじゃない、他人の俺のこと、で。
そんな風に笑うなんて
知らなかったから。
更新が追いついてしまったので、ここから、出来次第更新していきます!
完結目標は今月中を目指してます!




