夏。
トっトっトタトタトタ…
ぼとぼとのおむつが、歩くたびにペッタンペッタンと、皮膚を叩く。
股の間からぶら下がるほどに尿を吸い込んだおむつは、まるでボールのように膨らんでいたが、かろうじて漏れはしてない。ただ夏の気温のせいか、匂いが酷い。中は蒸れに蒸れて、その白い肌は赤く爛れている。
「まんま、まん、、、ま」
お腹が空いているのだろうか。
台所まで歩いて、床に転がっている砂糖のタッパーをとる。
カラカラとふって、中に入っているか確認すると、ぱかり、と開けて覗き込む。
じっと見て、そこの方にある数粒を人差し指に押し付けた。
くっついた甘さを、舌に置く。
たった3粒か4粒では、全く腹の足しにはならないが、それでも甘みは感じたようで、「ふえ」と声が漏れる。
「何してんねん」
不意に奥から声がして、びくりと体が震える。
「お前!それしまっとけよ〜〜!!!さっきせっかくなおしてんかるぁ!!!」
ボフン。
枕が飛んでくるが、手前で落ちる。
飛んできた方に視線をやれば、枕を投げたことで力を使い切ったのか大の字になっている女が一人。
髪がチリチリで、束になってくっついている。
最初はそれをじっと眺めていたが、やがて視界が、斜めに歪み、最後には埃だらけの床が映った。
暑くて、熱くて、喉がカラカラだ。
ピンポーン
「塩崎さん〜?ナースの寺田とヘルパーの冴島です〜」
それに応えるものは誰もいない。
しんと静まり返るリビングで、呆然と声がする方を見つめていると、痺れを切らした相手が玄関ドアを開けた。
ガチャガチャと音が聞こえて、ついで騒がしい声が聞こえる。
「うわっまたゴミ捨ててへんな」
「換気せな」
中に、入ってきたのは大柄な男性と小柄な女性の二人だ。
入るなり、顔を顰める。
部屋は悪臭が漂い、足の踏み場もない。
洗濯物が山のように築かれていて、ペットボトルやお弁当の残骸、ゴミ袋やコンビニ袋が散乱している。
その向こうの和室、煎餅布団の上には女性が寝ており、ビールや日本酒が転がっている。
「あーあー、もう散らかり放題やな」
女性は、サッと視線を走らせ、そして台所の冷蔵庫の手前で止まった。
小さな体が、冷蔵庫の前に転がっている。
視線はうつろだ。
「み、湊くん!!!」
「どうしよう!!ええええ!!」
ナースの寺田は駆け寄って、湊を起こす。
心臓に耳を当てる。
(生きてる!)
上半身裸で、おむつだけしており、肋は浮いて、頬はこけている。
「冴島さん!脱水と貧血と…とにかく救急車よんで!!」
「は、あ、救急車!ああああああのもしもし!?こちらあの蘇我マンションの!蘇我公園の横の!男の子が脱水で!はい、はい、すぐきてください!」
「湊くん!大丈夫!?ああ、いつからこうなってるんや、、、ママ!!寝てる場合ちゃうで湊くんが…」
寺田は奥で寝ている母親を見た。
のっそりと起き上がり、大きな一升瓶を仰いでいる。
寺田は眉を顰めた。
「あー、寺田さーんきてくれたん、嬉しい!」
母親は、寺田を見た。
30歳前後、大阪出身の男性で、清潔感がある。訪問看護で自分の世話をしてくれる彼を、好ましく思っているのだ。
寺田は悪寒が走った。が、すぐに切り替えて、自分のOS1を開けると、湊の口に含ませるが、口の横から流れていく。
「湊くん、頑張れ、もう少しで救急車きてくれるからな!!」
部屋の中は蒸し暑く、しゃべるだけで汗が垂れた。
湊は口の中に広がる水分を感じ取った。
「あはあ」
定まらない視線を泳がせて、意味もなく笑った。
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