06 静寂の惑星
06 静寂の惑星
四日目の朝、地球から人の声が消えた。
戦闘はなかった。都市を焼き尽くす爆撃もなかった。
世界を覆う炎もなかった。
ただ、人類という種だけが消えていた。
まるで最初から存在しなかったかのように。
王都も、大都市も、小さな村も等しく静寂に包まれていた。
停止した列車が線路の上に残されている。
発電所のタービンは止まり、工場の機械も沈黙した。
オフィスの机には飲みかけのコーヒー。
学校の教室には開いたままのノート。
黒板には今日の日付が残されていた。
誰もいない教室の窓から風が吹き込み、一枚の画用紙が床へ落ちる。
そこにはおさない文字が書かれていた。
――うちゅうのともだち。
クレヨンで描かれた宇宙人とこどもが手を繋いでいる。
◆◇◆◇◆
昨日と変わらず、海は青かった。
波は砂浜を洗い、風は森を揺らしている。
人間だけがいない。
街角では一匹の犬が歩いていた。
立ち止まり、空気を嗅ぐ。
主人の匂いを探しているのだろう。
だが、どこにもいない。
犬はしばらくその場に座り込むと、再び歩き出した。
駅舎の屋根では鳥たちが巣作りを始めていた。
人類が築いた巨大な構造物は、少しずつ別の生命たちの住処へ変わっていく。
◆◇◆◇◆
地球上空。
黒い艦隊の内部では、最終報告が共有されていた。
彼らに議論は必要ない。
全個体が同じ情報を持ち、同じ結論へ到達する。
『病巣の浄化、完了』
『惑星環境、健全』
『生態系への損害、皆無』
『移住適性、極めて高』
わずか一瞬。
全個体が結論を共有する。
『任務完了』
それだけだった。
達成感もない。
後悔もない。
彼らにとっては当然の処置だった。
病を見つけて、診断した。
除去した。それだけである。
やがて艦隊は動き出した。
巨大な黒い影が静かに上昇していく。
大気圏を抜けて、重力圏を離れて、星々の海へと向かう。
最後まで整然と、最後まで礼儀正しく、最後まで誠実に。
彼らは去っていった。
そして最後まで理解しなかった。
争いながら助け合うことを。
憎みながら愛することを。
裏切りながら許すことを。
壊しながら守ろうとすることを。
矛盾だらけで、非合理で、不完全。
それでも前へ進もうとする、人間という群れを。
◆◇◆◇◆
彼らが去って数時間後、静まり返った研究施設の一室で、小さな異変が起きていた。
床に落ちたままの血液サンプル。
誰もいない実験室。
その試験管の中で。
赤黒い液体が、微かに脈打った。
誰もそれを見ていない。
誰も気づいていない。
人類はまだ終わっていなかった。
地球は静かだった。
あまりにも静かだった。
風が吹いている。
海が歌っている。
そして誰もいない世界が、ただそこにあった。
◆◇◆◇◆
ある個体が、ふと自分だけの意識を認識した。
ある個体が戸惑った。なぜ私は群れと違うことを思った?
ある個体が考える。なぜ反論してはいけない?
いつも読んでいただきありがとうございます!
誤字、脱字を教えていただくのもありがとうございます。
とても助かっております。
楽しんでいただけましたら、ブックマーク・★★★★★をよろしくお願いします。
それからもう一つ、ページの下部にあります、「ポイントを入れて作者を応援しよう」より、ポイントを入れていただけると嬉しいです。
よろしくおねがいします。




