02.暗殺者ロイド-3
*
「……ねれない」
規則正しい列車の稼働音。慣れない堅いベッド。
翌日に控えた試験への不安も相乗され、リオはなかなか寝付く事が出来ないでいた。
父親のコネ、という武器を最大限に使い、なんとか賞金首を捕らえる事は出来た。試験前に失格という心配もなく、明日に備えて少しでも多くの睡眠をとるべきだろう。
(わかってる。わかってるんだけど)
リオは寝返りをうちながらため息をついた。
たった今、30235頭目の羊が駆け抜けていったところだ。
(ああ、もう寝れない!! せっかくなら……なんか事件でも起きればいいのに)
こう目が冴えてると、不毛な事しか脳裏に過らない。リオはいけないいけないと頭を振り、布団の中で再びため息をもらした。そんな彼女の頭の中で、また羊が鳴き声をあげる。
「うっとおしいです、羊さん!!」
がばっと身を起こし、実在しない空想の羊に文句を言った。――その時。
「……っ?!」
急に感じた溢れ出る殺気に、リオは心臓を鷲掴みにされる感覚に陥った。
「え? えっ……」
物音はない。列車の稼働音しか聞こえない。
けど、隠し切れない2つの気配は、禍々しいオーラを放っている。
(何この殺気……)
気配を感じ取る事を苦手とする彼女だが、全身の毛穴が伸縮してしまうようなこの殺気は、気づかない方が難しいだろう。リオは椅子にかけたカーディガンを羽織ると、警戒する事もなく扉に近づいた。夜の学校に忍び込む少年のような、悪戯じみた表情を浮かべながら。