02.暗殺者ロイド-4
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「来ないならこっちから行くよ」
「……っ」
行動を起こすロイドのタイミングに合わせて、キルトは膝をバネのように伸ばし飛び上がった。
空中で詰まる間合い。車両中に広がる2つの殺気。
キルトは長剣を振り上げ、 ロイドは白虎虎爪の構えを取り――そして、渾身の一撃がぶつかり合おうとする、その時だった。
予想だにしない事故が、それもキルトにとって最悪の出来事が起こってしまったのは。
「……なっ!?」
引き戸が開く。リオ=クルスク、その人が姿を現す。
勢いづいた両者の攻撃は今更止める事が出来ず、間に挟まれた彼女へと矛先は向けられていた。よりによってこんな時にと、キルトの中に焦燥と憤懣が生まれる。
リオは一般人ではない。魔術を扱う者であれば、武術を嗜んでいるはずだ。けど、今の彼女はあまりに無防備で、突然の出来事に身体は硬直し、動けなくなっていた。
(このままじゃ、確実に当たる!)
「……っ、間に合え!」
徐ろに身体をひねると、キルトは壁を蹴り、転がるように地面へと着地する。だが、ロイドの標的は元よりリオ。これを好機と捉えたか、攻撃を止めるつもりはハナからないようだった。
「あ――」
リオの円な瞳が、大きく見開かれる。
「逃げろ! リオ=クルスク!!」
「……っ!」
怒鳴り声に反応したリオの瞳が、落ち着きを取り戻したようにスウ……と細められた。しかし、ロイドと殺り合う意思を持ち、戦闘態勢を入ろうとした、その時。
「聖領域……!」
リオでもキルトでもない。第三者の、凛とした声が、車両に響き渡った。瞬間、ロイドの身体はあらぬ方向へ弾き飛ばされ、窓ガラスに叩きつけられる。大きく曲がった唇から、苦痛の声が漏れ出た。
一体何が起こったのかと。驚きの色を滲ませた金色の瞳に、リオを守るように張られた“初級防御術”が映し出される。聖属性の術者が扱う、ドーム状のバリア……オーロラ色の魔力に覆われた守りの術だった。
(これに直撃したせいで飛ばされたんだ――でも、誰が)
「殺気の事まで考えていなかったな」
「……っ! シノ」
「お前の殺気で目が覚めた。……おまけに、」
何を考えてるかわからない、仄暗い瞳が、リオを捉えた。
「なんだこれは。私が来なかったら大惨事だぞ」
呆れ眼で苦言を呈され、キルトの眉がムッと寄せられる。しかし、予測出来るわけない、と、拗ねたような言葉を口にしかけた――その時。キルトの広い視界には、ゆっくりと起き上がるロイドの姿が映し出された。
「……っ!?」
魔術を直に喰らったとはいえ、所詮は防御術。殺傷能力は低く、致命傷を与える事は出来なかったのだろう。キルトは長剣をシノは三棍棒を構え、ロイドはくつりとニヒルな笑みを浮かべた。
「……魔術師が加勢に来るとは。参ったね」
「はっ……なら、降参するか?」
「ふん、負けは認めるさ。だから――逃げさせてもらう」
言うが早いか踵を返し、ロイドは全力で車両を駆け抜けていった。流石は危険度A級の暗殺者、といったところか。物音も立てずに走る技術と、その俊敏さに、シノは呆ける事しか出来なかった。
今更追いかけて、捕まえられるとは思えない。それでも、身体は理論に逆らうかのように、重心移動を始める。
「待て! 俺が行く!」
シノの行く手を阻むように、キルトは前へと躍り出た。
足に蓄積された魔力が、紫電の雷光へと変化を遂げる。
「雷……属性――」
「見てろよ。……電光石火!」
術名を口にすると同時に、キルトは、既に廊下の門を曲がろうとしているロイドに迫った。普通なら、絶対に追いつかない距離。だが、魔術を使ったキルトの速さはそれの比にならない。
一瞬で縮まる2人の距離。ロイドの瞳が動揺で揺れる。
「貴様もっ、魔術、師……!?」
キルトは、剣術や体術を駆使し、ロイドに対し魔術を使わなかった。戦闘の形跡も残さない為。というのも嘘ではないが、手の内を最初から明かすのは得策ではないと考えたからである。
その証拠にロイドは動揺を見せ、僅かに反応を鈍らせた。常人にはわからない僅かな隙だけど、キルトはそれを見逃さない。
「俺は魔術師じゃない」
電流が流れたキルトの右手がロイドの首を捉えた。
「電流!」
「っあああああああーっ!!!」
「……今はまだ、見習いだよ。ロイド」
03時12分。捕獲完了。
♯02.暗殺者ロイド・完




