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スケルトンはガチャスキルで強くなる  作者: 一時二滴
第二章 壊れたる者
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シズクの過去④

 それでも男は私の下へと訪れ、ポケットに入っていたカプセルの中身を私に手渡した。


「こんにちは。今日こそ名前を……」

「こないでっていってるでしょ!!」


 本当はもう来ないかと思っていた。また来てくれたことが心躍るほどに嬉しかった。

 でも身体は変わらずいうことを効かない。手渡された物を地面に叩き付けて、地団駄を踏んで踏みつぶした。

 物は原型を留めていないくらい粉々に砕け散っていた。


 これではまた男を悲しませてしまう。

 仏の顔も三度まで。三度も同じ過ちを繰り返した私をこの男も医師や両親と同じように見限るだろうことは想像に難くない。

 それでも、私は男に見限らないでほしいと切に願っていた。

 なぜなら、男を逃せば今後私に救いはない。男のように挨拶回りをする患者なんて滅多にいないため、男が居なくなれば私に干渉してくる存在は今後一切現れることは無くなってしまう。


 嫌だ、イヤだ、いやだっ!!!


 ここで一言謝れればどれだけ楽だっただろう。

 それなのに黒い感情はそれを許さない。私の想いを妨げて、私に寄り添おうとした人を突き跳ねる。

 だから私の周りには誰もいない。もう誰も寄り添おうとしない。


 あの時世界を憎んだばっかりに身体を支配する黒い感情が生まれてしまった。今でも世界に対して憎悪はある。

 でも、でも!こんなことになるなら恨んだりしなかった!友達や両親を失うくらいなら、こんなこと想わなかった!

 しかし、後悔してもすでに遅い。黒い感情は既に生まれてしまったし、私を侵食している。友達や両親だって既に突き放している。全ては事後で、後戻りはできない。

 今寄り添おうとしてくれている男の人だって、これ以降私に関わろうとしない。

 どうしようもない、もう誰も救いの手を差し伸べてはくれない。

 それでも、思わずにはいられなかった。


 誰か……助けて……。


 手遅れなその想いに応える者はもういない。口に出せぬその言葉を聞き届けるものなどいはしない。

 そう、思っていた。


「あ、また壊れちゃった。でも大丈夫!こんなこともあろうかともう一つ持ってきたんだ!はいこれ」


 男はあっけらかんと言った表情で、大きく膨らんだポケットの奥から同じようなカプセルを取り出し、その中身を再び私に手渡した。


「な……んで?」


 掠れながらも零れ出た本音。黒い感情が気付かないほど、自然と流れ出た疑問の言葉。

 周りと同じように男も私を見限るものだと思っていた。なのにどうして、男は私を見捨てたりはせず、また壊されてしまうかもしれないカプセルの中身を渡したのか。

 わからない。私には何もわからなかった。


「あぁ、前も壊されちゃったからね。今回は何個か用意したんだよ。これがあれば君と会話ができると思ってね」

「そうじゃない!!なんで……なんで私に構うの!!私は、私は……あなたにひどい事をしたのに!!」


 私の身体は再び黒い感情に支配権を握られ、手渡された物を地面に叩き付ける。

 カツンと金属音を上げて地面に接触し、飛び跳ね低空を舞う。

 土産を乱雑に扱われたその光景を男は横目で一瞥すると、さも何事もなかったような顔つきで私に向きやった。


「一人でいる君を見た時、壊れそうな程悲しげで、寂しげで、苦しげで、そして儚げな表情をしていたんだ。それはまだ幼い未来ある少女が浮かべて良い表情ではない。だから俺は君に声をかけた。支えようとした。寄り添おうとした」

「でも……私は……」

「君が壊した物は所詮は物だ。替えは効くし、新しくもできる。だけど、君の心に替えなんてないし、新しくすることなんて以ての他だ。だから、君が何度俺を突っ跳ねようと、俺は君に構い続けるよ。君がそんな顔をし続ける限り」


 ふと目に映った鏡が私の顔をそのまま映していた。

 瞳から大粒の涙がポロポロと流れていた。頬を伝って地面に流れるそれは、滝のようにとめどがなく、目元を赤く腫らす。

 私は、男の言葉が救いの手に見えた。絶壁に垂らされた強固で頑丈な鎖と同じような気がした。

 だからだろうか、安心からか黒い感情が涙に乗って流れていくのを感じた。身体を縛っていたそれが取っ払われ、自分が今、自由だと実感した。普通に生きていればこれほどまでに自由を感じることが出来ないと思えるほど、心が清々しかった。


「ごべん……なさい……ごべんなさい……!!」


 気付けば私は謝っていた。

 黒が抜け、真っ白となった白紙の心に後悔や自責の念といったインクが押し寄せ、隅々まで塗りつくした。

 口元が震えてうまく言葉を発せられない。だけど、伝えたいことは言えている。私の意思に反していない。私の意思を遮ってくるものももうなかった。


 一心不乱に涙を流して謝罪を続ける私の頭を男はそっと撫でた。


「大丈夫。大丈夫だよ」


 とても優しい声色で、赤子を宥めるように男はそう言った。

 心地よかった。心が安らいだ。津波のように押し寄せた激情がなだらかになっていった。

 だけどまだ足りないと、私は男にすがるように手を伸ばした。この手を掴んでほしくて。救いの手をちゃんと形にしてほしくて。


「あなたが支えてくれれば……私は……」


 しかし、男はその手を無視して私の肩を掴み、優しく押し返した。


「……え?」


 予想外な男の行動に私は声を漏らした。

 まさか拒絶されるなんて、思ってもみなかったのだから。

次の話でシズクの過去編終わります。

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