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スケルトンはガチャスキルで強くなる  作者: 一時二滴
第二章 壊れたる者
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ルームナイトメア

「あぁ、なんとか」


 激痛の迸る頭に手を置きながらなんとか返答した。

 膝をついて楽になりたい気持ちが押し寄せるがそうも言っていられないと何とか持ちこたえた。


「!?失礼します!」


 不意にシズクが俺の腕を掴み、無理やり肩を組ませた。そして飛び上がる。

 真下では鞭のようにしなった白装束の化け物の左腕が通り過ぎる。

 シズクに弾かれてすぐ横に振ったようだ。


 今の状態の俺だったら避けられなかった。また命を救われたな。


「結構軽いんですね」

「そ、そうだろ?」


 シズクの言葉に思わず動揺してしまった。

 骨以外、肉も水分も何もない俺の体重は殆どない。それは大層軽く感じられただろう。シズクが疑問に思うのも無理はない。

 しかし危なかった。もし腰を抱えられるように持たれたらバレていたところだ。

 俺は何度命の危機を感じれば気が済むんだろう。


 そんな事を考えながらシズクと共に地面に着地した。

 少しの時間だったが頭痛はだいぶ和らいだ。

 そこで畳みかけるように白装束の化け物が手に持つ杖を上下に二度振った。


 チリンッ、チリンッ……。


 鈴の音が鳴った。

 音は然程大きくない。しかし、広範囲に響き渡るものだった。

 瞬間、再び頭痛が訪れる。最初は軽微なものだったが、凄まじい速さで痛みが加速していく。

 繋がる思考の時と感覚が似ていた。

 膨大な、それも不要な思考情報が濁流のように押し寄せ、情報過多が起きている。

 頭が割れるようだ。


「がぁぁ!!け、剣牢結界!!」


 痛みが酷くなり思考がままならなくなる前に剣牢結界を行使した。

 白装束の化け物の周りには渦巻き状の剣が地面に突き刺さり、散乱している。

 さっきの攻防で剣牢結界の条件はすでに達成していたのだ。


 スキル行使と同時に剣同士が線で結ばれ、線からは半透明な膜が放出される。

 光の壁のように白装束の化け物を囲い、時間が止まったように動きを止めた。


「な……んで……こな……い?なぜ……?」


 本来起こるべき現象が起きなかったことに対して疑問を浮かべているように見えた。対して剣牢結界の方は全く気にする様子が無かった。


「スケさん!?《術式解除スキルキャンセル》!!」


 何事も無いのかシズクが驚いた表情でスキルを唱えた。

 すると、さっきまでの痛みが嘘のように吹き飛んだ。


「な、なにをしたんだ?」

「他人からによるスキルの効果を打ち消すスキルをスケさんに使いました。私には常時かけているのでなんともなかったですが」


 なるほど、これのお陰で気分が楽になったのか。デイルの転移もこれのお陰で何事もなかったのかもしれない。

 しかし、状況はあまりよろしくない。

 この場で俺が役に立てるのは重圧迫のみで、ダメージを与える術がない。

 ダメージに関して言えばシズクも同じと言える。

 シズクの流星の如き一撃は白装束の化け物の手を弾く事には成功したが傷は極小。かすり傷にも値しないほどだ。


 ならばシズクの攻撃手段は千撃に絞られるが、あれは黄金のゴーレムが骨の盾による重圧迫で行動がある程度制限されたため成功したのであって今は難しい。

 この場は開けた平地で、重圧迫で圧迫する壁が見当たらない。骨で疑似的な壁を作ろうにも押し寄せる巨大な質量を受け止めきれるとは思えない。

 さっきも言った通り、状況はかなりきついと言えた。


「シズク、アレにダメージを加える術を千撃以外に持っていたりするか?」

「いいえ。ありません。私の三つ目のスキルは攻撃系ではないので」

「……じゃあ、俺が囮になってアレを引き付ける。だから、ギルドとかに応援を頼めるか?」

「!?それは、大丈夫なんですか!?」

「まぁ、なんとかなるさ」


 正直、大丈夫ではない。

 叡智を多少頼るが、叡智が発し俺が理解するまでのラグを考えると完璧に避けるのはほぼ不可能。運が悪ければ余裕で死ねる行為だ。

 しかし、これ以外の方法は俺には思いつかない。

 最悪俺は死んでもかまわない。記憶はあまりないが一度は無くした命だしな。惜しくない。


 いいや、嘘だ。かなり惜しい。未練もトッポのチョコくらいたっぷりある。

 しかし、シズクはまだ幼い。若くして地球で生涯を終えてしまった未熟な少女だ。

 地球での経験は浅いだろう。未知の世界も沢山あっただろう。

 知る権利はあった。しかし、知る前にその道は閉ざされてしまった。

 そんな少女に、せめてこの異世界では満足に生涯を終えてほしいと俺は思った。


 シズクは年を取った俺の命よりも遥かに価値があり、未来がある。そんな命を俺の命を賭して生かせたと思えたのなら、俺の未練なんて現世に留まるには小さ過ぎる。

 だから俺は喜んで囮になるさ。


「早く行ってくれ。今はアレを剣牢結界が抑えているが長くは持たない」


 剣同士を繋ぐ線や光の膜が徐々に罅割れている。あまり時間はない。


「……わ、わかりました。でも、ちゃんと生きててくださいね!!絶対戻ってきますから!!」


 そう言って閃光の速さでシズクが駆けだした。それと同時に線を繋ぐ剣四本が全て砕け散り、剣牢結界は崩壊した。

 白装束の化け物が自由を取り戻す。

 俺は骨の剣をその手に作り出し、囮としての役目を果たそうとしたとき―――白装束の化け物がニタリとおどろおどろしく笑った。


「こん……どはわたし……が……うばう。《内なる悲鳴(ルーム……ナイト……メア)》」


 すると、シズクの方向に身体を向け、手に持った鈴のついた鉄棒を大きく振った。

 チリンッと今までより遥かに大きな音が響き渡った。


「きゃぁぁぁぁあ!!」

「なっ!?」


 近くで悲鳴が聞こえた。幼い声だ。

 聞き覚えがあった。最近聞いた声だ。

 声の主を知っていた。近くにいるあの人だ。

 名前だって知っていた。

 あれは……シズクだ。


「シズク!!」


 俺はすかさず膝から倒れ落ちたシズクの下へと駆け出した。

 シズクを抱き起こすと悲痛そうな顔を浮かべていた。

 その瞳に生気は無かった。

スキル説明のコーナー


術式解除(スキルキャンセル):対象に他者からのスキル効果を排除する透明な層を形成する。今現在掛かっているスキル、また以降に掛かるスキルを解除すると層は消える。自動的に層が貼られることはなく、消えたら自らの意思で貼り直さなければならない。またこのスキルは対象に降り掛かるスキルの影響だけを消すものでスキルの効果そのものを消すものではない。


つまり、スキルキャンセルが発動してもシズクへの影響が消えただけでスキルは継続したままだから転移動術は継続したままだった。

上の層を纏う云々は次の話で書きます。

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