白装束の化け物
ちょっとグロがあるので苦手な方はあとがきに今回の話をザックリまとめたものを書いときますのでそちらをどうぞ。
巨木がそこら中に生い茂り、適度な隙間から放たれる陽光で地の雑草もまた生い茂る。
現場は大樹林。
スケとシズクからそう離れていない。
薬草の香りを豊満に飛ばす緑の風を浴びながら二人の冒険者が獣道を突き進む。
「めんどくせぇ。なんで薬草採取なんかやらなきゃいけねぇんだよ。男ならやっぱり討伐じゃねぇのかよ」
「静かにしろセキム。魔物に気付かれる」
グチグチと文句を垂れながら歩く赤髪の青年の名はセキム。
幼さの残る童顔な顔に長めの赤髪を後ろで束ねる。身体には全身を覆う革の鎧に腰に立派な長剣を携えていた。
魔物討伐に憧れ、ギルド経由で最近冒険者となった彼は引率のベテラン冒険者、マンセムに付き従いながら依頼をこなす。所謂研修期間という奴だ。
マンセムは大人し気な雰囲気を漂わせる茶髪の男。
凛々しい顔立ちに七三に分けた髪が良く似合う。胸当てや膝当てなど重要部を守る防具以外は殆ど軽装で動きやすさを重視した装備だった。
セキムはマンセムに叱られると不貞腐れたように顔を歪め、マンセムに反発した。
「そういったってマンセムさん、ここら辺全然魔物でねぇよ?大樹林には魔物がうようよいるって話じゃなかったんすか?」
「その筈だがしかし妙だな」
マンセムは困ったように首を傾げる。
本来薬草採取は魔物を警戒しながらいかに良質な薬草を探し当て採取するかを問われる依頼のはずだが、セキムの言う通り魔物は見当たらない。
これでは辺りを警戒する必要性を実感しないままセキムは研修期間を終えてしまう。
それはまずいとマンセムは考えているものの、妙に引っかかるところがあった。
魔物が全くいないことがおかしかった。
大樹林は大小なんであれ多種多様な魔物が存在する。ゴブリンの様な人型も存在するしネズミの様な小型の魔物も存在する。
しかし、その一切が二人の前に姿を現さなかった。
辺りの雑草や草木は踏みつぶされた跡があった。枝も折れている。
魔物が跋扈するこの大樹林では当たり前の話で特に気にすることもなかったが、よく見てみれば異様にその数が多かった。
いくら魔物が多くとも密集しているわけではない。足跡などの痕跡の一つ二つ残されていることはままあるだろう。
だが、マンセムの周囲の痕跡の数は一見するだけで十に達する。よく観察すればさらにあるかもしれない。
異常な光景。
それを目の当たりにしたマンセムの背筋に悪寒が走り、今すぐ引き返すべきだと考えた。
「セキム」
「何だぁ?」
「一旦この場から離れよう。嫌な予感がする」
「えぇ、ここまで来た……の……に……」
瞬間、空気が一変。
薬草漂う芳醇な香りが、枯腐った腐敗の臭いに変貌する感覚を味わった。
息が詰まる。実際には環境が変わったわけでもないのに、二人は錯覚してしまう。
空気が重い。膝を付いて倒れ伏したくなるほどに。
二人の会話はままならなかった。しかし、この場を離れるべきという単純な意見は意思疎通を図らずとも通じていた。
来た道を戻ろうと踵を返した時、二人の目の前に文字通り化け物が現れた。
皮の剝がされた筋肉質の顔に全身を覆う白装束。身長は三メートルに達し、充血した瞼なき眼球が二人を見下ろしぎょろつかせる。
白装束から覗かせるのは申し訳程度に残された皮膚と全身の大半を占める紅い筋肉の筋。
右手には鈴のついた身長程の鉄棒を携え、杖変わりにしていた。
「……え……せ。……ちを……かえ……せ。ちか……らを……かえせ」
途切れ途切れの言葉。何を言っているかはよく伝わらない。
洞穴から流れる風の様な音と共に喉から吐き出すその言葉が彼らの恐怖を引き立てる。
恐怖で身体が収縮する。身体が一回り縮んだのではないか。
頭から血液を抜かれ、顔面蒼白となる。脳に血が足らず、思考もままならない。
白装束の化け物を見れば見るほど影響は促進される。
しかし目を離せない。離せばどうなるか分かったものじゃない。
ベテランのマンセムも場慣れしていないセキムにもそんな度胸は無かった。
「な……い。ここ……に……は……ない」
そう言って白装束の化け物は二人に背を向けた。
ほんの少しだけ空気が軽くなる。
マンセムはそれを好機と見た。
白装束の化け物がこの大樹林に居座り続ける限り、彼ら冒険者に未来はない。
恐怖の体現者が大樹林にいる限り、冒険者は依頼をおちおちこなせない。
ならば、白装束の化け物が油断し背を見せている隙に討伐すれば、それは街の平和にも冒険者の安全にもつながる。
ベテランのマンセムは冒険者として上位の実力であると自負していた。
隙さえつければどんな魔物でも討伐しうる力を持っていると。
マンセムは隠し持っていたナイフを四本、取り出した。
人掠りすればドラゴンでさえ瀕死にしうる毒がナイフには塗りこまれていた。
「な、なにしてんだよ」
「しっ」
セキムはマンセムの武器の効能を全く知らない。
セキムから見ればマンセムはちゃちなナイフであの白装束の化け物にちょっかいをかけようとしている愚者。
しかしマンセムはセキムの声を静止させ、ナイフを放り投げる。
あまりに自然な挙動。一挙手一投足を見ていたセキムでさえ放り投げた動作に気付かなかった。違和感を持てなかった。
風を切る音は聞こえない。まるで風にナイフを乗せ、運んでいるかのように自然な投擲だった。
セキムはマンセムのベテランたる所以を目の当たりにした。
ナイフは真っ直ぐ白装束の化け物に突き進んでいく。
間近まで到達し、マンセムの放った必殺の一撃が決まるかに思えた――その時。
グキャッ。
白装束の化け物の四肢の関節、そして胴が本来曲がらぬ方向に歪み捻じ折れた。
骨が砕け、擦れる嫌な音が聞こえてくる。
投擲された四本のナイフは歪み切ったその身体の隙間を静かに通過する。
「なっ!?」
マンセムは驚愕した。まさか避けられるとは思っていなかった。
念には念を押して手持ちにある全ての毒ナイフを投擲した。白装束の化け物が直前で気づこうとも避けきれない間隔で配置した。
だが、白装束の化け物は身体を捻じり、折り、歪ませそれらを回避した。異常な行動だった。
マンセムは目の前の化け物が世に生きる物とは思えなかった。
「ケ、けひゃひゃはははひゃはひゃきゃははは!!!」
首を180度回転させ、顔だけをマンセムに向け笑い出す。
気色の悪い笑い声だった。狂い、壊れているようなそんな声。
皮膚なき奇妙な口元を三日月に歪める。
壊れた様に笑い続けながら白装束の化け物は奇怪に曲がった右腕を上下に振る。
チリンッ。
辺りに響く鈴の音が一度鳴った。
すると、マンセムは頭を抱えて倒れ伏した。
「あぁぁぁぁ!!!!痛い痛い!!や、やめてくれ!!やめ……」
悲痛な叫び声をあげ、顔は絶望に染まっている。
セキムは何が起きているかわからなかった。見ていることしかできなかった。
マンセムの蒼白な顔に色が戻っていく。
赤みを帯び、正常になったかに思える顔色は段々赤みが増し、運動した直後の様な赤面に変わる。
更に色は濃く変わり、明らかに異常な紅い色合いに変化した。
マンセムの耳や目から異常に集まった血を放出するために血が流れだす。
しかし、足りないのかマンセムの顔色はバラと同じ深紅の色に変貌。
そして彼の頭は――爆発した。
セキムは盛大にマンセムの血を被った。
生暖かい血がドッペリと彼の顔に張り付く。
幸い、血を被る直前に瞳を閉じたために視界は無事だった。
セキムが再び目を開くと白装束の化け物は存在しない。
あるのは頭部を花のように咲かせて倒れ伏すマンセムの死体だけだった。
「あ、あ、あ……」
言葉にならなかった。
白装束の化け物が消えてなお、セキムの恐怖心は消えていない。
しかし、ここにいれば再び白装束の化け物と遭遇してしまうかもしれない。それは避けなければならなかった。
ギルドにも大樹林の現状を知らせなければならない。セキムはマンセムの死体をどうにかこうにか運びながらギルドへと足を運ぶ。
そして彼はギルドに情報と証拠となるマンセムの死体をギルドに明け渡した。
その後、彼は憧れだった冒険者を辞めた。
とある冒険者二人が皮膚のない白装束の化け物と出会う。(右手には鈴の付いた鉄棒を持っている。あと、顔以外なら申し訳程度の皮膚がある。他は筋肉)
冒険者で実力は上位と自負している一人がその化け物に攻撃を加えると化け物はそれを避けてケタケタ笑って右手にもった鉄棒の鈴をならす。(前回主人公が耳にした鈴の音はこれ)
すると冒険者の頭部爆発。
もう一人の冒険者が目を離した隙に化け物は姿を消す。
残った一人の冒険者は死亡した冒険者の死体を持ってギルドに化け物の事を報告しにいった。
残った冒険者はその後冒険者をやめましたとさ。
以上です。




