本
少女の名前をカタカナに変更しました。
まさか彼女も転生者だったとは。これは驚きだ。世界が狭いのか、将又転生者の母数が多いのか。
『この世界に在住している転生者の数は把握する限りあなたを含めて三人です。』
最近。叡智が聞いてもいないことを喋り出すことが多くなってきた。気にすることでもないし、少し気になってたから既知になってうれしい事ではあるんだけど、自我でも持ち始めたのだろうか?……な訳ないか。
そしてまたも衝撃の事実。転生者が俺と彼女以外にもう一人いるらしい。まだこの世界に訪れて一か月も経ってないのに一人と出会いを果たしているから、もう一人の転生者と邂逅を果たすのもそう遠くないのかもしれない。
「あなたも転生者だったんですか!?」
「あ、うん。地球って星から」
「私も地球からです!偶然ですね!!」
「そうだね」
同僚に出会えた喜びからか彼女との会話は大いに盛り上がった。
彼女の持ち出す話題は見た目通りの若々しいものばかりで政治などといった小難しい話題は出されなかった。まあ、出されても俺あまり政治や経済に興味が無いから広げられないけど。所謂サイレントマジョリティってやつだ。あまり良くないことなんだけどね。
前世の詳細な記憶もないし、なんとなく大人だったなという認識しかなかったため会話は弾まないんじゃないかと思ったがそんなことは無かった。彼女が話題を出すたびに芸能人のネタなどの一般教養外の知識が要所要所で思い出された。もしかしたら指摘してくれれば記憶は戻るのかもしれない。これはありがたい発見だ。
話を戻して、十代後半の彼女と数々の話題を交わせたところを見ると、俺も結構若かったのかもしれない。
「あれ?そういえば、何か忘れているような?」
「そうですか?……あ!!本の事です!!」
「あぁ、それだ」
「そうですそうです!すっかり忘れてました。あの、因みに本は今どこに?」
「えっと……燃えた」
「え?」
「読んだら……燃えた」
「……えぇぇぇぇぇぇええ!???」
少女の驚愕の表情と共にけたたましい叫び声を上げた。
少女の驚き様からとてもまずい事をしてしまったのではないかと冷や汗が流れる。もし背中に皮膚があったら汗でびしょ濡れだったかもしれない。肩までしか皮膚が無くてよかったぜ。そんな事思ってる場合じゃないけど。
「あの私、神様にその本を手に入れて読むことを使命にされていたからここまで来たんですけど……どうしましょう。使命が果たせません」
「そ、それは……ごめん」
チキショウ!!ユービシンの奴、そういう使命を与えた転生者がいるんってなら事前に行っておけよ!!
勝手に降ってき本を読んだ俺が悪いかもしれんが、なんも聞かされずに本が降ってきたら十中八九読まない?中身が気になるじゃん!
自分のじゃないから置いておこう。何か起こるかもしれないから読まないでおこう。ってなる?地球ならいざ知らずここは異世界よ?ダンジョンの隠し特典かもしれないって思っちゃうじゃん。
まあこれはユービシンへの八つ当たりでもあるが、俺はあの神に対してならば自分を正当化するぞ?十俺が悪いわけじゃないからな。
「あ、でも、中身は一応覚えているよ」
「本当ですか!?」
さっきまでガックリと肩を落としていた少女は首を上げ、パーッと目を輝かせた。
「う、うん。《書物記憶》ってスキルで読んだ内容は理解できなかったけど、どんな文字列だったかくらいは覚えてるよ」
「あ、私もそのスキルを神様に渡されました!!それで文字を記憶したら神様が知る中で一番優秀な翻訳家に依頼すれば解読してくれるって話だったので」
俺の勘よ。素晴らしい。栄誉を与えたいくらい俺は君を褒め称えるよ。
普通の俺だったらユービシンからもらうスキルの中でこんな使い勝手の悪いスキルを選んだりはしない。全ては君のお陰で俺は彼女の使命の妨げにならない様にすることが出来た。ありがとう!!
「それはよかった。もしかしたらやらかしたんじゃないかって冷や汗掻いたよ」
「私も安心しました」
彼女は安堵し、胸をなでおろすと双頭のアンデットドラゴン討伐した時に現れた宝箱に向かっていき、中身を手に入れると肩に下げたカバンの中に入れてしまった。何が入ってたんだろうか。
「あれ?宝箱に入ってないのに。これも報酬なのかな?」
彼女は宝箱の近くに無造作に置かれた白いひし形の結晶と液体の入った瓶に視線を向けながらボソッと呟いた。
ん?あれは……あれは!!!??
「まってまって!!それ俺の持ち物だ!!」
あれは俺の空庫に仕舞われていたはずのデイルの結晶だ。空庫というスキルが消失したことが原因でダンジョンの中に放り出されてしまったんだろう。もう一つはMP回復ポーション。そういえば一個余ってたっけ。
ってそうじゃない。デイルの結晶はデイルを呼び出す結晶。彼女に持ってかれて不意に召喚されてしまえば大惨事だ。そう都合よく召喚が成功するとも思えないがもしもの事を考えて危険性を知っている俺が保管しておいた方が良いだろう。
「あ、そうだったんですか。はいどうぞ」
「ありがとう」
彼女から手渡された二つのアイテムをコートについているポケットの中に仕舞い込む。
「それではこのダンジョンから出ましょう」
「うん、先導お願いします」
そうしてダンジョンの外へと俺と彼女は歩いていくのだった。因みに向かってる途中で名前を知ったのだがシズクというらしい。
シズクは想像以上に強く、デイルに強化されていた敵もバッタバッタとなぎ倒し、特に問題なくダンジョン入り口まで到達するのだった。




