デイルの過去②
眠いので早めに投稿します
魂が抜けたと形容すればいいのだろうか。私は私を見下ろしていた。命なき私を俯瞰してみていたのだ。当然、状況は先程と変わっておらず、死した私の傍には私を葬ったスケルトンがいる。
スケルトンは私が手放した剣を持っていくと何処かへ歩いて行ってしまった。その時、手に持っていた一枚の紙きれが静かに落ち、偶然にも命なき私の身体にある魔石に触れた。
すると、魂の存在であった私は元の身体に呼び戻され、しかも死したはずの私の身体は不思議な感覚に包まれていた。
まるで太陽だ影を余す事無く照らしてくるような。そんな感覚だった。
不思議だ。なんだか心地がいい。身を委ねてしまいたくなるようなそんな夢見心地を味わっている。
だがその感覚を浸れば浸るほど、このままだと私は私ではなくなるような。私という存在がなかった事にされるようなそんな気がした。
いや、いいのではないか?こんな夢見心地を味わっていられるのだ。私は消えても満足なのではないか?
そう思い至ろうとしたその時、声が聞こえた。
あらがえっ!!
本能の声ではない別の何かの声だった。何か詳しいことを言うことは無く、ただ頻りに「あらがえっ!!」と連呼している。その声を聴くたびに脳がその単語のみで満たされていく。
そして次第に抗わなければいけないと思考は変わっていった。私の意思を捻じ曲げるこのあからさまな洗脳を何故受け入れたのか今でもわからない。だが、従わなければ後に恐ろしいことが起きるような、そんな気がした。
そこから私は必死に抗った。光による浸食から耐え抜くために踏ん張った。だがそれでは永遠に終わらない。これではいつまでも平行線。そう思っていた時、また声が言った。
光を喰らえ。逆に侵食せよ。
よくわからなかった。だが、浸食のやり方は何故か分かった。
光を飲み込むようになってから、均衡は崩れ、少しずつ私の影が光を取り込んでいく。
そして、全ての光を侵食し終えると辺りは真っ黒に包まれていた。
よくできた。さぁ、新たな魔物の生を味わいたまえ。願わくば遊び神の弊害になることを。
それを最後に声が聞えることは今後一切なかった。
●●●
新たな生を受けたせいか将又急激に変化した身体に違和感を覚えていたからか私は驚くように飛び起きた。違和感の覚えるその身体に目を遣ると骨ではなくなっていた。肉が、皮膚がその肉体には携えてあった。
しかもそれだけではなく、力が漲っていた。有り余るほどにあふれ出すその力に戸惑いを覚える。
「ギャギャギャッ!!」
そんな私の前に一匹のゴブリンが現れた。だがそれなのに私は余裕を持っていた。何故かはわからない。何処からわいた自信なのだろうか。それすらわからないのに、何故だかあのゴブリンには圧倒して勝てるということが分かっていた。
経験だけで言えば一戦しか対峙していないが、私にとってゴブリンは驚異なはずだ。にもかかわらず私はゴブリンを前にして都合がいいと思っている。
「ギャァァァ!!!」
私の無意識下に存在する傲りを感じ取ったのだろうか、ゴブリンは怒り狂ったかのように此方に駆け出した。迫りくる突進。それを避けようと思考を切り換えるが、一瞬にして反撃の思考が回避を塗りつぶした。
そして私は右手を力強く握りこみ、腰の回転も加えながらゴブリンの醜いその頭に拳を吸い込ませた。
その後、当然の様にゴブリンの頭は弾け飛び、咲いた花のようにその頭を破裂させていた。
私はまるでこの肉体が自分のものではないかのように感じた。自身の思考が矯正されている様な。今だって、戦闘したことに喜びを感じている。殺すことが楽しいかのように。最初のゴブリンを倒した時にはこんな感情が湧くことなど無かったのに。
抵抗しようか。そんな気持ちは一切わかなかった。抵抗が意味のない事だとわかっていたからだ。ゴブリンに勝てることが分かっていたように頭の中に刷り込まれた様な答え。だがそれは事実なのだろう。実際に、ゴブリンには余裕で勝つことが出来た。
だから私は、この感情のままに動くことにした。抵抗など無駄なのだから。
明日の更新をお待ちください。




