48、止まった時を動く暗殺者
おれはアナログ感覚器という能力をもっていた。世界をアナログとしてとらえる感覚器だ。だから、宇宙は連続体であり、おれは連続体と一体と関わる一個人としての自分を認識できた。
ある日、違和感が始まる。西暦2009年3月7日午後二時五十五分からだ。
「ねえ、ハヤト、どうしたの」
アリサが話しかけてくる。突然、周囲の気配を探り出したおれに首をかしげたのだ。
「何か変だ。宇宙がズレてる」
「どういうこと?」
「時間が、連続していない。時間がデジタルだ。時間が離散的に跳び跳びになっている」
「それって、危険なの?」
こくっ、とおれはうなずいた。その黙り方からアリサはおれが真剣な危機意識をもっていることを感じとった。
「一秒ごとに、誰かが時間を止めている。あれから五分がたった。時間は三百回止まったことになる」
「それって、その間に何が起きたの」
「わからない。その間にひとつの世界が創造され消えていてもおれたちは気づかない」
「わたしたちは大丈夫なの、ハヤト?」
「やばい。近づいてくる。おれのアナログ感覚器が時間を止めるたびに宇宙に干渉するのが向こうにわかるはずだ。次の一秒で、おれはやつをやる。やつの連続体の中に入る」
「がんばって、ハヤト」
「うん」
転移する。没入。宇宙連続体からズレ、止まった時間の中に入る。
広い。空気が止まっている。おれの体も止まっている。動けるのはおれの霊体だけだ。時間を止めるそれに物理的に干渉することはできない。だが、霊的に干渉する。そして、危険なら排除する。
やつを探す。地球の中にたったひとりいる誰かを探す。これは案外簡単だった。すべてが止まった中で動くものを探せばいいのだ。嫌でもやつは目立つ。そして、おれも。
止まった時間の中を動く暗殺者は物理的な体をもって動いていた。空気を動かし、呼吸し、食べ物を食べ、消化する。
まさか、やつもおれが霊的に襲ってくるとは思っていなかったようだ。やつの霊を抹殺する。何をしているのかわかったからだ。五分前から、やつは周囲にいるものを殺しまくっていた。止まった時間の中を動けるようになったやつが選んだのは大虐殺という選択肢だったのだ。愚かなことだ。人生に夢や目的を見出せないと破壊衝動に移ることがある。目的がないなら、おとなしく平穏な人生を送ってくれればいいのに、とてつもない力を得てしまったやつにはそれができなかったのだ。権力に呑みこまれて狂った。
おれはためらいもなくやつを殺す。霊的に死んだやつの意識は時間が動き出すと同時に気絶するはずだ。その後、目を覚ますことはない。
おれはもとの時空連続体に帰り、ことなきを得た。




