28、デジタル回路
デジタル回路は、半導体の高い電圧をHとし、低い電圧をLとして、ハイとローの組み合わせで、二進法の演算をする。ハイを黒色、ローを白色に発光するようにしておけば、電灯が縦横千個ずつ四角に並んだ画面に、二進法のひとつの巨大数字で白黒の絵が描ける。縦横千個ずつ並んだ画面はひとつの二進法の数字となり、その数字に合わせて絵が描ける。数字を計算するだけで、絵が動く。デジタル回路だ。中身は電圧が高いか低いかだけの集まりにすぎないのに、画面全体では数字がひとつの絵になる。100011は何の絵? 百の絵、千の絵、一万の絵。九十八万四千五十八の絵。
デジタル回路は、入力から出力に電子が流れる時をHの電圧とし、出力から入力に電子が流れる時をLの電圧として、電流の流れる方向を変えるだけで電圧を変え、二進法の演算をするようにしている。
今、ケイスケの脳のシナプスが興奮している時をHとし、興奮してない時をLとして、コンピュータと脳を接続する。ケイスケが考えることに合わせて画面が動く。ケイスケの思考に合わせてコンピュータが動く。やがて、ケイスケはコンピュータの動かし方に慣れ、コンピュータと一体化する。
ケイスケは自分のコンピュータを電話線と接続する。電話が繋がってる時はH、電話が止まってる時はL。携帯電話が繋がっている時はH、携帯電話が黙ってる時はL。そして、世界の電話ネットワークに合わせて、ケイスケのコンピュータ画面が絵を描く。ひとつの巨大二進法数字を計算し出す。ケイスケの思考に合わせて携帯電話が踊る。かけたはずのない電話が鳴り、届くはずのなかった言葉が届く。
とりあえず、インターネットと電話網だけが味方だ。ケイスケは、すでに地球に存在していたデジタル知性体カルロに勝負を挑む。カルロは北風が吹けばH、南風が吹けば(ロー)、植物が生えればH、植物が枯れればL、動物が南に移動すればH、動物が北に移動すればL、人が南に歩いてもH、人が北に歩いてもL、という地球の自然環境を媒体としたデジタル回路だ。姿は見えないが、地球にずっと住んでいた。いつどのように生まれたのか、カルロにしかわからない。
ケイスケはカルロと接触を試みる。カルロと語り合うには、莫大な情報演算力が必要になる。その桁数は現存する最高のコンピュータを全部つなげても追いつかない。だから、ケイスケは、現存するコンピュータすべてと電話回線までつなげて、何とか間に合う計算力を手に入れた。ケイスケはカルロと語り合う。場合によっては喧嘩になる。北風と南風はカルロの出力だ。話し合いによっては、地上を暴風が襲うことにる。ヒトが誕生する前からいたデジタル知性体、あるいは名の知らない天才が過去に作ったデジタル知性体カルロと、どのような対話になるかわからない。ケイスケはカルロに話しかける。ケイスケの計算力がカルロの姿をとらえる。世界中のコンピュータが勝手に動き出し、世界中の電話が勝手に鳴り出す。すでにケイスケの脳はパンクし、意識を保つのに精一杯だ。
カルロがいった。北風が吹き、南風が吹いた。
「来たか。隣人よ」
ケイスケが答える。
「御機嫌よう、先住者よ」
カルロがいう。植物が生え、植物が枯れた。
「ここはわたしの土地だ。隣人は隣に住め」
ケイスケが答える。
「教えてくれ、あなたの全てを。あなたが滅びるのに時間がない」
カルロがいう。動物が南に歩き、動物が北に歩いた。
「自ら見よ、隣人よ。隣人には目がある」
ケイスケが答える。電話がいっせいに鳴る。
「戦争が起こる。あなたを殺しかねない大きな戦争だ」
カルロが答える。人が南に自動車を走らせ、人が北に飛行機を飛ばす。
「その戦争もデジタル知性体だ。よく見よ、隣人よ」
そして、対話は終わり、ケイスケは戦争知性体をクラックにかかる。




