124、軽犯罪法違反
わたしは精神を病んでいるのだそうだ。医者がわたしに精神異常の病名をつけ、障害者として扱っている。そういえば、わたしの小学生の頃の夢は、狂人になることだったので、夢叶うというやつかもしれない。ただ、いわせてもらえば、狂人になっても面白いことなんて何もない。狂人の考え出すことが独創的だということもない。独創的な発案は、まだわたしの精神が正常だった頃に思いついたものであり、精神を患ってからのわたしは頭の働きは悪くなっている。もう、平凡なことしか思いつかない。心が死んでいく。
この小説サイトへの小説の投稿も最近は質が下がったと思っている。昔は、もっと独創的なアイデアがなければ投稿などしなかった。それなのに、今は、わたしはこのサイトで最も大量の投稿をする作家になっている。自制心が壊れたのだろうか。
隔週で、精神科に通院しなければならないから、自動車を走らせて、わたしは精神病院に行った。待合室で本を読みながら長々と順番を待ち、半日つぶして、診察の順番を待つ。文庫の舞城王太郎の『世界は密室でできている。』を読んで、順番を待っていると、果たして、永劫に来るとは思えなかった順番がやってくる。
そして、わたしは精神科医と会う。
「はいはい、お変わりはありませんか」
医者はいつも通りの決まりきった文句をいう。
「特に変わったことはないです」
「はいはい。いつも通り、お薬を出しておきますからね。注射がありますからね」
わたしが何もいわなければ、これで診察は終わる。しかし、わたしは気になって、医者に聞いてみた。早まっている。おかしなことを聞いて、医者に不安を抱かせては強制入院させられてしまう。だが、精神を病んだわたしの口は止まらず、思わずことばが漏れる。
「最近、銃声や爆発音が聞こえるんですが」
わたしがたずねると、医者はいつも通りに平然として、
「ああ、はいはい、今、日本は内戦をしていますからね」
と答えた。内戦! わたしはテレビでも新聞でもネットでも、日本が内戦しているなどという話は聞いたことがない。
「いつから内戦が始まっているんですか」
わたしの質問に答えずに、医者は釘をさす。
「あなた当然、知っているでしょ。はい、今日はこれでいいですよ。お大事にしてくださいね」
診察は三分で終わった。
会計と薬の準備ができるまで、時間があるので、わたしは病院を出て、外を見渡してみた。銃声と爆発音は聞こえるが、戦っている兵士は見えない。内戦など、起きて、わたしはいつ殺されるかもしれない。
「戦争が起きているんですか?」
わたしは待合室の患者に聞いてみたが、
「そうらしいね」
とだけしか答えない。興味がないそぶりだ。
「なぜ、報道されないんです」
「そんなもの、情報統制に決まっているでしょ」
戦争になれば、情報統制されるのが当たり前かといわんばかりの解答。
わたしは、日本が内戦を起こしているなら、少しでも、善悪の判断に参加しなければならないのではないだろうかと思った。正しいものが勝たなければならない。経済とは、お互いが得をする物々交換だ。正しいものが勝てば、敵も味方も幸せになるだろう。わたしはその役に立たなければならない。
わたしは病院の会計をすませると、薬を受けとり、自宅に帰った。内戦しているという事実を確かめなければならない。ネットに、今日本は内戦している旨を書き込んだら、
「おまえ、消されるぞ」
と返答があった。わたしの書き込みは、数十秒で削除されてしまった。
二時間後、わたしのところに見知らぬ制服の男がやってきた。
「あなたが殺されても、内戦のどさくさにまぎれて犯人はわからないでしょうね」
わたしは答えた。
「誰と誰が戦っているんだ」
「権力者と暴徒ですよ。お金の利権にまみれた官僚と、努力しなかった者が努力しない者に利益を流すように日本を変えようと暴動を起こして戦っているんですよ」
「あなたはどっちの味方なんだ」
「それは喋るわけにはいかないでしょう。戦いが終わった最後に決めることです。わたしは勝った方の味方ですよ」
「腐っている。日本はこのままでは、滅びるぞ」
「どちらも、あなたのようなまともな方はいらないのですよ。給料制の階級社会に従い、奴隷のように働くことですね」
「そんなことでは、日本は滅ぶといっているんだ。アメリカと中国が日本からすべてを奪っていくだろう」
「だから、そういうまともな意見をいう人はいらないのですよ。国が滅びるまで、美味しい汁を吸うつもりです」
そして、男は消えた。わたしに興味をなくしたかのように。
それから、町を歩いていて、夜のコンビニの前に人が血を流して死んでいるのを見た。時々、人の死体を見るようになった。
わたしは警察署に行って、たずねてみた。
「町で人が死んでいるんですが」
「そりゃ、内戦をしているからね」
「何十人と死んでいるんですよ!」
「はははは、何十人くらいで驚いてはいかんよ。今、日本の内戦で死んでいる者が何人いると思う。数百万人だよ」
わたしは気が遠くなるような気がして、自分の無力感を感じ、家に帰った。家族は無事だ。わたしは戦う。武器を探し、木の棒を見つけて、それで満足し、木の棒で敵の武器を奪い勝とうとした。わたしはまだ見ぬ兵隊を待ちかまえ、焦っていた。テレビでも新聞でもラジオでも、ネットでも、日本が内戦しているという情報は入らない。家族も協力してくれない。わたしは一人、孤独に、まだ見ぬ兵隊を待ちかまえていた。現代の戦争において、一般人は軍隊にまったく対抗することができない。軍隊はそれくらいに強い。マシンガンを持った索敵装置を装備した敵に勝てるわけがない。いつか、この町は虐殺されるのだろうか。内戦をしている両軍とも、わたしのことを真面目に働く奴隷だと思っているようだ。もはや、勝ち目のないことを悟ったわたしは、『世界平和』とビルにペンキで大きく落書きした。わたしは、軽犯罪法違反で捕まった。地獄だ。




