第7話:極上の美肌と溺愛。最高の結末(最終話)
極上の温泉から上がり、一歩外へ出た瞬間。
待ち構えていたレオンハルト様が、ふかふかの特大バスタオルで私をふわりと包み込んだ。
「あ、ありがとうございます。でも、自分で拭けますわよ?」
「駄目だ。お前が以前言っていただろう、『タオルの摩擦は肌のバリア機能を破壊する最大の敵』だと。俺が完璧な力加減で、水分だけを吸い取ってやる」
そう言って、レオンハルト様はポンポンと優しく、決して肌をこすらないようにタオルを押し当てていく。
屈強な竜騎士が、小鳥を扱うかのような繊細さで私の湯上がりケアをしてくれるのだ。これほど贅沢で、物理的な負担のないお風呂上がりがあるだろうか。
「さあ、次は『魔の3分間』の保湿だ」
彼は手早くタオルを外すと、私が作った特製プルプル草クリームを自分の手のひらで温め始めた。クリームの浸透を良くするための完璧な手順だ。
そのまま、彼の大きくて温かい手が私の頬を包み込み、優しくハンドプレスしていく。
「ん……いい香り……」
「ああ。今日はお前がリラックスできるように、ラベンダー系のハーブを少しだけ混ぜておいた」
至れり尽くせりである。
クリームを塗るレオンハルト様の顔が至近距離に近づくが、彼の肌もまた、私のスパルタスキンケア指導(強制)により、毛穴一つない見事な『うるツヤ肌』をキープしている。
美しいものを間近で見ると、幸せホルモンが分泌されてさらに肌の調子が良くなる。まさに美肌の好循環だ。
保湿が終わると、今度は魔法を使ったドライヤーだ。
「温風は髪のタンパク質を痛めるんだったな。魔力で最適な低温の風を送る。そのまま目を閉じて休んでいろ」
私の背後に回った彼が、心地よい微風で濡れた髪をふわりと乾かしていく。
私はされるがままに目を閉じ、ふぅっと幸せなため息をついた。
王宮にいた頃は、お風呂に入る時間すら惜しんで書類の山と格闘していたというのに。あの頃の私に教えてあげたい。逃げるは恥どころか、美肌と圧倒的幸福への最短ルートだったと。
「……エレオノーラ」
髪が完全に乾き、美しい艶を取り戻したのを確認すると、レオンハルト様が静かに私の前に歩み出た。
そして、流れるような美しい所作で片膝をつき、私の手をそっと握った。
「お前がこの辺境に来てくれてから、俺の世界は変わった」
真剣な、深い夜空のような瞳が私を見上げる。
「肌の苦痛から救われただけじゃない。どんな権力にも媚びず、ただひたすらに自分の『美』と『平穏』を追求するお前の強さに、俺は心底惹かれているんだ」
「レオンハルト様……」
「俺はお前に、永遠の愛と……そして『究極のストレスフリーな環境』を誓う」
それは、世界中のどの恋愛小説にもない、けれど私にとってはこれ以上なく響く、最高のプロポーズの言葉だった。
「お前の肌を脅かす紫外線、乾燥した風、面倒な人間関係、そして一切の労働。そのすべてからお前を守る、最強の物理的防壁に俺はなる。お前はただ、俺の隣で一生、美しく笑ってくつろいでいてくれ。……俺の妻になってくれるか?」
私は彼の手を握り返し、一切の迷いなく、極上の笑みを浮かべた。
「ええ、喜んで。……私の美肌と平穏、一生あなたに守らせてあげますわ」
私がそう答えると、レオンハルト様は顔をパァッと輝かせ、私をふわりと抱き上げた。
そのまま甘く、けれど決してメイクやスキンケアが崩れない絶妙な角度で、そっと誓いのキスを落とす。
「愛している、エレオノーラ。俺の女神」
「私もよ、私の最強のナイト様」
◇
こうして、私の『追放令嬢』としての物語は、あっという間に幕を閉じた。
王宮では相変わらず、私の抜けた穴を埋められずに過労で倒れる者が続出し、元婚約者たちは実年齢の倍は老け込んでしまったという噂を風の便りに聞いた。だが、そんなことはもう私には一切関係のないことだ。
私は今、辺境の特注リゾート山荘で、国最強の竜騎士に甘やかされながら、毎日お風呂に入って寝るだけの最高の生活を送っている。
無駄な努力はしない。ストレスは徹底排除。
がんばらないことこそが、最高のアンチエイジング。
鏡に映るツヤツヤの自分の肌を見るたび、私は心の底からこう思うのだ。
「ああ、美容の敵から追放されて、本当に良かったわ!」
(完)




