アホウ鳥が突きつける現実
『ヒトカリ』で一通りの情報を得たオレたちは、
その後、木下やニュシェの買い物に付き合った。
木下は、また服を買うのか・・・それを注意すると、
また何かと言い返されるから、オレは何も言えないが。
シホのやつは、ファロスの服を買ってやるようだ。
ハンターたちとの戦闘で、ひとつ破棄したからか。
あーだこーだと難しい顔で男物の服を選びながら、
しかし、どこか楽しそうで・・・応援してやりたくなる。
ニュシェも木下にあれこれ選んでもらったり助言してもらって、
服を買いたそうにしていたが、
「んー、この国にいる間は、いらないかな。」
と言って、購入はしなかった。
例の連続殺人犯のせいで、
ニュシェは『獣人族』であることを隠して行動している。
獣の耳を隠せるフード付きの服装以外は着られない。
早く、この国を出て行かなければ。
ギリギリギリリリィーーー ギリギリィーーー
オレたちが宿屋『フリサリダ』へ戻ってきた頃には、
陽がオレンジ色の夕陽へと変わっていた。
昼間の暑さが、少しずつ和らいでいく。
虫の大合唱は昼間と変わらずだな。
「ふっ・・・うぅ・・・はぁ・・・はぁ・・・。」
「はぁ、はぁ・・・あっ・・・くぅ・・・うふぅ・・・。」
「!」
宿泊部屋へ戻ろうとした時、部屋の中から、妙な声が聞こえてきた。
アルファとファロスの・・・男女のうめき声が・・・。
「は、早く開けろ!」
オレが妙な妄想をして、開けるのを躊躇っていたら、
シホが慌てて部屋のドアを開けた。
「うっ・・・はぁ、はぁ・・・あ、おかえりなさい。」
「ふぅ・・・ふぅ・・・おぅ、戻ったか。」
2人は、お互い向き合いながら、汗ダラダラで、
腹筋を鍛える運動をしていた。
まぁ、この2人がナニかあるわけないとは思っていたが。
「ふ、2人とも汗だらけじゃねぇか。」
「うわ、この部屋、暑い!」
シホもオレと同じで、妙な妄想をしてしまったのだろう。
少し動揺しているように見える。
ニュシェの言う通り、この部屋は2人の熱気で外より暑く感じた。
「この部屋の暑さは、私のせいではないぞ。
私が目覚める前には、すでにこの暑さだった。
ファロスが私の目の前で、激しい運動をしていたからな。」
この言葉使いからして、目覚めた後の人格はブルームらしい。
「ファロス、まだ無理したらダメだって言ってるだろ。」
「あ、いや・・・面目ない・・・。」
シホがファロスを叱る。
ファロスは、ちょっと目を離すと身体を動かし過ぎるようだな。
しかし、ファロスの腕の骨は、ほとんど完治しているようだ。
回復薬のおかげでもあるだろうが、
やはり若いから自然治癒力も違うのだろうな。
昨日、森で受けた矢のかすり傷なんて、
回復薬で、あっという間に治ってしまっていた。
そして、ブルームの回復力も目を見張るものがある。
ブルームも、昨日の森の戦闘で、矢の攻撃を腕に受けていたが、
回復薬ですっかり治っている。
そして、体力の回復力も。
ファロスと張り合っていたからと言って、
ファロスと同等の体力があるとは思えないから、
おそらく、ファロスのペースに合わせず、自分のペースで
運動をしていたのだと思うが、それでも、
ファロスの運動量についていこうとするほど
動けるようになってきているのだ。
「はぁ・・・はぁ・・・。」
汗を拭うブルームは、かなり疲れている様子だが、満足している顔だ。
つい最近まで、ニュシェに背負ってもらわないと
自分の足で移動することも出来なかったのに。
自分自身でも納得のいく運動ができるようになってきたのだな。
2人とも汗がダラダラだし、オレたちは
外を歩いて来たから汗をかいているし、
みんなで順番にシャワーで汗を洗い流すことにした。
まずは最年長のブルームから。
「そんなことがあったでござるか。
拙者もついて行った方が良かったでござるかな。」
ブルームとファロスに、『ヒトカリ』での一件を伝えておいた。
ブルームは興味無さそうに脱衣所へと、さっさと行ってしまったが。
ファロスは、やはり『ヒトカリ』の特別訓練場に興味があるようだった。
シャワーの順番を待っている間に、シホが
あのゴシップ雑誌『月刊アルバトロス』を読んでいたが、
「おぉ!」とか「ぅわっ!」とか「へぇ~!」とか、
しきりに独り言を言いながら読んでいるから、
こちらとしては気になって仕方ない。
「シホ、すこし静かに・・・。」
「え! これは・・・! おい! おっさん、これ!」
突然、シホが読んでいた雑誌をオレに向けて来た。
また大袈裟な、ウソか本当か分からない記事に
飛びついたのだろうと思いつつも、
気になっていたから、オレもすぐに雑誌の記事を見た。
「・・・え。」
シホが広げた記事には、大きな見出しで
「ダークドラゴンナイト、急襲!
防竜の国『ザミェルザーチ』の騎士団、壊滅状態!」
と書かれていた。
『ダークドラゴンナイト』は、以前、『カシズ王国』で見たゴシップ雑誌に載っていた名だ。
『イネルティア王国』の大きな武術大会に突然現れた
全身真っ黒の鎧の『竜騎士』が圧倒的な実力で優勝したという記事だった。
闘技場で、竜騎士の剣技を使い、会場の観客も巻き込んで
大きな被害を出して去った、いわば犯罪者だ。
今度は他国で暴れ回っているのか。
「一国の騎士団が壊滅って、もはや災害レベルだぜ。」
シホが身震いするような仕草で、そう言った。
たしかに、一国の騎士団を壊滅させてしまうなんて、
相当なチカラを持っているようだ。
いや・・・竜騎士の剣技を使えば、たぶんオレでも出来てしまうかもしれない。
問題は、国に仕える騎士たちを相手に、竜騎士の剣技を使うかどうかだ。
敵対せざるを得ない、何らかの理由があったのだろうか?
それにしたって、一国の騎士団を壊滅させてしまうのは、やりすぎだ。
それよりも気になった言葉が、オレの頭の中でひっかかった。
「ふむ、『ザミェルザーチ』と言えば、
拙者の国よりも、さらに西の国でござるな。」
「ファロスさん、知ってるの?」
「拙者が知っているのは、『ロンマオ』より西にある小さな国ということだけで。
かなり閉鎖的な国で貿易国も少なく、国の情報がほとんど流れてこない、
ナゾ多き国でござる。」
「へぇ~。」
ニュシェとファロスの会話を聞きながら、オレは
頭の中でひっかかった言葉で、ナニかを思い出そうとしていた。
「うーん、びっくりして読んでたけど、
よくよく考えたら、この情報は、さすがにウソかもしれないな。」
「ウソ?」
ゴシップ雑誌をよく信じるシホが、ゴシップの情報を疑うなんて珍しい。
「だって、一~二ヵ月前ぐらいに、この黒い竜騎士は、
『イネルティア王国』で大きな事件を起こしてたはずだぜ?
『イネルティア王国』っていえば、同時期に
俺たちがいた宗教国家『レスカテ』の北の隣国だ。
そこから、たった一~二ヵ月で、ファロスの国よりさらに西の国まで
移動できるはずが無いからな。」
「そうでござるな。
拙者の出身国まで、最速でも三~四ヵ月・・・
いや、常人なら五ヵ月以上かかるかと。」
なるほど。シホにしては、いい推察だ。
距離的に、時間的に、『イネルティア王国』から、この記事に書いてある国まで
『ダークドラゴンナイト』が一~二ヵ月で移動するのは、有り得ない。
やはりゴシップ記事だな。
「火が無いところに煙は立たない」という諺があるが、
こういう雑誌は、火が無くても煙を立たせてしまう。
「でも・・・気になるよな。
国名も被害状況も、これだけ詳しく書いてあるってことは、
あながちウソってこともないのか・・・でも、なぁ?」
「そ、そうでござるな。
これだけ大きく『ザミェルザーチ』の名前を出しておいて、
虚偽の情報を流してしまったら、この雑誌を出している会社は
罰せられてもおかしくないでござる。
そうなると・・・この記事はウソではないということになるが、
果たして・・・うーん。」
いつの間にか、オレ抜きで、
シホはファロスとゴシップ記事について話し合っている。
嘘か真か・・・オレにも分からなくなった。
それよりも、オレは、
ずっと『ザミェルザーチ』という国のことが気になっていた。
記事に書いてあった・・・「防竜の国」という文章が・・・。
「はぁ、さっぱりした。次は、佐藤だろ?」
「あぁ・・・。」
ブルームがシャワーから上がり、オレの番となった。
オレは、モヤモヤしながらシャワーを使うことになった。
冷たくて心地よいシャワーを浴びていても、
頭の中はすっきりしない。どうしても思い出せない。
ふと床の水面に映る自分の顔を見ると、
いつの間にか、元の無精ヒゲの顔になっていた。
またヒゲが伸びたな。
「・・・。」
自分のヒゲを見て思い出す、『ソウガ帝国』の王女のこと。
まだ若いのに、こんなジジィを夫に選ぶとか・・・
正気の沙汰ではない。
それとも、それだけ切羽詰まった状況になったのか?
いや、男性の経験が極端に少なかったためか。
しかし、騎士団の団長になっているほどだから、
周りは男だらけの環境のはずだ。
それとも・・・意識を取り戻して間もなかっただろうから、
まだ意識が混沌混乱して、夢と現実が分からなかったのか。
あれから日数が経っているから、もう諦めてくれていればいいが。
まさか、いまだに国中を探し回っているわけじゃないよな?
何にしても、もう『ソウガ帝国』へは行けない。
国境の関所にいた騎士たちとの約束を破るわけにはいかない。
『特命』を果たした後の帰り道は、別のルートで・・・。
「・・・。」
防竜って・・・なんだったか。
オレが思い出せなかった疑問は、
シャワーからあがったら、ブルームが簡単に答えをくれた。
「おぉ、佐藤。
さっきシホに『アルバトロス』という書物を
見せてもらって、思い出したのだが、
お前は、ドラゴン討伐に行くんだよな?」
「そ、その通りだが?」
ブルームが、今さらな質問をしてくる。
それにしても、暑さを凌ぐためか、やたら薄着のブルーム。
ファロスは、なるべくブルームを見ないようにしている。
「では、討伐の仲間は、このメンバーだけで大丈夫なのか?」
「え?」
「さっき思い出したのだ。
たしか、お前の先祖である『かつのり』は、
メンバー15~20人の小隊規模の仲間を率いていたはずだ。
討伐した後は、10人程度に減っていたが・・・。
その中には、竜騎士の『かつのり』が一人、その他に
『防竜騎士』と呼ばれていた
男女たちが4人か5人いたはずだ。」
「! ぼ、防竜騎士!?」
初めて聴くご先祖様の情報だったが、
その『防竜騎士』という言葉だけは知っていた!
ブルームの言葉を聞いて、やっと思い出した!
そうだ、『防竜騎士』!
「北の魔鉱石・・・南で聖剣・・・西で従者と合流!
そ、そうだ、西の従者は『防竜騎士』!
防竜の国『ザミェルザーチ』!」
「おじ様?」
オレは早口で独り言をつぶやいた。木下には聞こえなかったようだ。
思い出した・・・いや、たしか
以前、親父の夢を見て思い出しそうになっていたのに、また忘れていた。
親父が下手な吟遊詩人のマネをして聞かせてくれていた、
オレのご先祖様の英雄譚・・・。
そうだ、オレは『ザミェルザーチ』という国の名を知っていた。
「な、なんですか? 防竜騎士って?」
「聞いたことない職業だな。
おっさんの竜騎士と何か違うのか?」
木下もシホも知らない情報か。
いや・・・そもそも、
竜騎士の存在も、あまり知られていなかったようだし、
竜騎士という職業自体が、あまり他国へ広まっていないようだ。
まぁ、竜騎士なんて、ドラゴンが絶滅したとされる
約800年前から廃れてしまった職業だしな。
『ソール王国』の外の世界で、見聞きしないのは当然だろう。
しかし、もしかすると・・・
『ソール王国』出身者の身体能力の高さが
王国の秘密だったなら、竜騎士のことも秘密にしなければならない
決まりがあったのではないだろうか?
「あ・・・えっと、『防竜騎士』とは・・・そのぉ・・・。」
そういう決まり事は聞いたことは無かったが、
身体能力の高さが秘密だったのも知らされていなかったのだから、
オレが知らない決まり事があっても、おかしくはない。
そう考えると・・・
このまま、『防竜騎士』について、
みんなに話すべきかどうか迷ってしまう。
「んー、たしか『防竜騎士』は、補助に徹した職業だったな。
なぁ? 佐藤?」
「へぇー。」
オレが答えるかどうか迷っている内に、ブルームが答えだした。
そうか、ブルームは当時の『防竜騎士』に出会っているから、
オレよりも、よく分かっているのかもしれない。
「・・・そうだ。相手が飛竜なら、その翼を封じ、
相手が地竜なら、その足を封じ、
あらゆるドラゴンの攻撃を防ぎ、竜騎士の盾として活躍する。
・・・と聞いたことがある。」
ブルームが全て喋ってしまうなら、
オレが知っていることを話すのも同じことだと感じて
オレは『防竜騎士』について知っていることを話し始めた。
それに、こいつらには『特命』のことを話してしまっているし、
今さら隠し事なんて無意味に感じた。
「では、雑誌に書いてあった『ザミェルザーチ』という国は・・・。」
「あぁ、その『防竜騎士』の国・・・のはずだ。
オレも行ったことは無い。」
「じゃ、じゃぁ、その国が
『ダークドラゴンナイト』に襲われたってことか!」
木下もシホも、理解が早いな。
そうだ、例の黒い竜騎士に襲われたのは、ただの国ではない。
『ザミェルザーチ』は、防竜の国。
『防竜騎士』の技を伝承し続けている国のはずだ。
ゴシップ雑誌には、騎士団が壊滅状態だと書いてあったが、
それも、ただの騎士団では無く、おそらく『防竜騎士』たちの騎士団・・・。
それが壊滅状態・・・。
「それで、佐藤、この先、お前はどうするんだ?
私はドラゴンと戦ったことはないし、
お前の先祖である『かつのり』が戦っているところを見たこともないが、
『かつのり』は、『防竜騎士』を引き連れてきて、
しっかり小隊規模の人数をそろえて、ドラゴン討伐に挑んでいた。
それだけ準備していた『かつのり』たちですら、
数ヵ月かかって、ドラゴンを一匹討伐していたんだ。
お前がどんなに強くても、『防竜騎士』がいない、
この少人数のパーティーで、ドラゴンを討伐できるとは思えないんだが?」
「・・・。」
痛いところを突かれ、胸のあたりがズキっと痛んだ。言葉が無い。
ブルームが言ったことは図星だったからだ。
今の今まで『防竜騎士』のことをすっかり忘れて、ここまで来てしまった。
なんともマヌケな話だ。
親父から、あれだけ聞かされていたのに。
今さら、『ソール王国』よりも、はるか西の
『ザミェルザーチ』へ向かうなんて、そんな時間、オレには無い。
それに、この記事の事件が本当のことなら・・・
『ザミェルザーチ』へ行っても、もう『防竜騎士』は
生き残っていないかもしれない。
「ブルームさんの言うことも、もっともだと思います。
私も、ドラゴンと戦ったことがないし、
戦っている姿を見たこともないので、
その『防竜騎士』という職業の方が、どれだけ重要な役割なのかも
分かりかねるのですが、でも、ドラゴンという強大な存在を相手にするには、
私も、このままのパーティーでは戦いにならないと思います。」
「・・・。」
木下の言葉も、オレの胸に突き刺さる。
木下も、そう思っていたのか。
背中に、大量の汗が噴き出る感覚。
暑さのせいだけではない。これは後悔の念。
やってしまった・・・。
今日の今日まで、とにかく東へと・・・
ドラゴンの目撃情報があったという『未開の大地』へ行かねばと、急いで・・・。
人事の村上に言い渡された期限までに、討伐してこなければと思い、
焦りながら、なんの準備もせずに、ここまで来てしまった・・・。
背中の汗が止まらない。
せっかくシャワーを浴びたのに、意味が無かった。
そうか、意味がないのか・・・。
このまま、オレが『未開の大地』へ向かっても意味がないのか?
オレは・・・無駄な時間を・・・。
そして、無駄なことに、こいつらを巻き込んでしまったのか?
「でも、今日までに、これだけ仲間が増えました。」
「・・・!」
「最初は、私とおじ様だけの二人旅から始まったのです。
そのうち、シホさんやニュシェちゃんが仲間になってくれて、
次に、ファロスさんが仲間になってくれて・・・
そうして、クラリヌスさんが仲間になってくれました。」
「ユンム・・・。」
「この先も、きっと仲間になってくれる人が現れると思います。」
木下の言葉は、さきほどとは別の意味で胸に刺さった。
背中の冷や汗が止まり、目の前が急に明るくなった気がした。
「『ヒトカリ』では、もうこれ以上の仲間は要らないとか、
断って来たんじゃなかったか?」
「はい。でも、それは、私たちに必要な人が、
あの『ヒトカリ』には居なかったからです。」
「・・・。」
ブルームの皮肉っぽい反論も、木下には効かないようだ。
「そ、それに・・・竜騎士って、
俺は、今まで資格だけの職業とか、ウワサ程度しか聞いたこと無くて、
本当におっさんみたいな竜騎士は見たことも聞いたことも無かったけど、
でも、ほかの国にも竜騎士って資格があるわけだし、
もしかしたら、その中には、おっさんみたいな技を使う
竜騎士がいるかもしれないじゃないか?」
「私も、そう思います。世界は広いんです。
おじ様のような竜騎士が、きっと他国にもいると思います。」
「シホ・・・ユンム・・・。」
シホと木下がオレをかばってくれている。
たしかに、竜騎士という資格は少なからず他国にも存在しているようだし、
木下の言う通り、世界は広い。もしかしたら、と思える。
「どうかな。少なくとも私は、竜騎士といえば、
『かつのり』か、そこの佐藤しか見たことが無い。」
ブルームは、オレを見下すような表情で、そう言った。
この顔は・・・心底、オレに呆れている顔だ。
「でも、それはブルームさんが会ったことがないだけで、さ。
もしかしたら、世界のどこかにいるかもしれないし。
この雑誌の黒い竜騎士が、まさにそういうことだろ?
おっさんとは別の竜騎士だろ?」
「別の竜騎士というと語弊がある。
その『ダークドラゴンナイト』と佐藤が別人なのは分かっている。
私が言っているのは、『ソール王国』出身以外の竜騎士のことだ。
その『ダークドラゴンナイト』が他国の出身者かどうかは分からないだろう?」
「それは・・・うぅ。」
シホが、ここまでオレをかばってくれるとは意外だった。
しかし、シホの言い分は、ブルームの正論には通じない。
そうだ、例の黒い竜騎士が、どこの出身者なのかが重要で・・・
今は、それが分からないわけだ。
ゴシップ記事を見る限り、オレと同じような
竜騎士の剣技を使って、大量の人間を虐殺してしまっているらしいし、
身体能力が高い『ソール王国』出身者の可能性が高くなってしまっている。
ブルームの正論どおりな気がしてしまう。
「し、しかし、それはブルームさんの意見も同じです。
『ダークドラゴンナイト』が、おじ様と同じ出身者かもしれないし、違う国かもしれない。
どちらも確証がないので、現時点では分からないから、
どちらの可能性もあるというです。
なので、今は、『防竜騎士』が仲間にいなくても、
ほかの国にいる竜騎士を仲間に出来たら、
なんとかなる可能性もあるのではないでしょうか?」
木下が、オレをかばうために、
ブルームを説得しようとしてくれている。
「はぁ、楽観主義にもほどがあるというか・・・。
可能性の話ばかりだな。
ん、まぁ、そう上手くいくとは思えないが、
今すぐドラゴンと対峙するわけでもないしな。
今は、そういうことにしておこう。
根本的な問題も残っているが・・・
今、ここで言っても解決するわけでもない。」
「それは・・・。」
「・・・?」
ブルームは、納得していない様子だったが、
これ以上、話し合っても無駄だと判断したのか、
あっさり引き下がったように感じた。
根本的な問題とは何を指すのか・・・ものすごく気になるが。
まだこれ以上の問題があるのか。
「・・・ありがとう、みんな。」
なんとなく、みんなが黙ってしまい、
その沈黙の原因がオレであると感じた。
かばってくれた二人だけに礼を言うのではなく、
みんなに謝罪の念を込めて、礼を述べた。
「ん・・・。」
「・・・。」
オレの言葉に、みんなも反応しづらかったようで、
結局、静かな空気が流れ始めたが、
「さて、シャワー、浴びさせてもらおっと。」
シホが空気を切り替えるかのように明るい声で、
そう言いながら、脱衣所へと向かった。
「・・・。」
そうして、また沈黙の空気が再び・・・。
みんなも思い知ったのかもしれない。
オレの頭の悪さ、浅はかさが。
そして、オレに課せられた『特命』のいい加減さが。
ブルームの指摘は正論で、みんなの反応は当然のことだった。
本気でドラゴン討伐を目的に旅をしているなら、
パーティーのリーダーとして、もっと入念に準備をするべきだった。
知識も、準備も、予定も。
すべて完璧ではない。行き当たりばったりの旅。
・・・でも、こんな言い訳は仲間に通じないが、
オレには、準備をする時間が本当に無かったのだ。
いきなり『リストラ』の対象にされて・・・
自主退職か、ドラゴン討伐の『特命』を受けるか、選択を迫られて・・・
その返事をした翌日には旅立たされて・・・。
東の『未開の大地』まで到達するだけでも一年くらいかかるというのに、
討伐も含めて、約一年で成し遂げてこいと言われている・・・。
しかし、これはオレの都合か。
無茶だと分かっていながら『特命』を引き受けたのはオレだ。
引き受けた時点で、もう誰のせいにもできない。
「人生自己責任」・・・これも格言好きな先輩の言葉だった。
夕方になり、みんなで、宿屋の食堂で夕食を食べたが、
正直、何を食べたのか憶えていない。
あまり美味しくない味だったのは、かすかに憶えている。
「おじさん・・・。」
ニュシェには、ブルームが指摘したことが、
いかに重要なことか、分かっていないかもしれない。
ただただ、元気がないオレのことを心配するかのような表情で、
時折、オレの顔を覗き込んでいた。
心配させて申し訳ないと感じると、
ますます自己嫌悪に陥りそうになった。
そして、オレは腹痛に見舞われ、下痢。
『昆虫食』を食べていないというのに。
つくづく、この国の料理はオレの体に合わないようだ。
その夜。
宿泊部屋は大きな部屋ではあるが、
やはり6人も集まれば、寝苦しい。
最近は、夜になっても外の気温が、あまり下がっていないように感じる。
しばらく、みんなも起きていたようだったが、
やがて静かに寝息をたて始めた。
みんなが寝静まった後、オレは床に寝転がりながら、
頭の中では、ずっとブルームの言葉が響いていた。
「この先、どうする?」
ご先祖様がドラゴン討伐を成し遂げたように、
オレもそれを見習うとすれば、
北で魔鉱石を探し、南で聖剣を造ってから、
西で従者を仲間にしなければならなかった。
しかし、もうすでに時遅し。
西の従者・・・防竜の国は黒い竜騎士によって壊滅状態。
今から西へ戻る時間もないし、戻っても『防竜騎士』が見つからない可能性が高い。
だいたい、聖剣の元となる魔鉱石も、よく分からない。
親父は、なんて言っていただろうか?
「・・・。」
はっきり思い出せない。
たしか『ソール王国』より、遥か北の国・・・
『ペルマネンシア王国』?だったか?
そこに魔鉱石があって・・・あー、魔鉱石の名前が思い出せない。
遥か南の国は・・・あー、こっちは国名が思い出せない。
南の国で聖剣を造ってもらわねばならない・・・はずだ。
実家に帰れば、何か書物が残っているだろうか?
そういえば・・・。
オレは、何か思い出せそうな気がして、
無い頭を振り絞って、思い出そうとしていたが、
やがて、眠気に意識を奪われていった。




