表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第六章 【竜甲の人狼】
491/502

対ハンター討伐戦





「それにしても、おい、お前たち!

俺たちをナメ過ぎてるよなぁ? おい!」


「? なんのことだ?」


骨型の兜を被っている男が、少し怒気をこめて話しかけてくる。

しかし、言っている意味が、いまいち分からない。

何のことだ?


「見張りの犬から聞いたんだよ。

ほかのやつらとは目が合わなかったけど、

そこのおチビちゃんとは、何度も目が合ったって。」


「え。」


ナイフの女の話が本当ならば・・・たぶん、それはニュシェのことだ。

そうか、しまったな。

見張られていることや尾行されていることを

みんなと話し合っていたが、相手を見ないようにすることを

ニュシェに教えていなかったから・・・

ニュシェは、何度か見張り役の傭兵たちを見てしまっていたのか。

今は、後方にいるニュシェの方を見れないが、

たぶん、しょんぼりと落ち込んでいるかもしれない。


「つまり、見張られていることに気づいてて、

ここまで、わざわざ歩いて来たってことなんだろ? おいおい!

ナメ過ぎなんだよ、おい!」


「私たちは『高ランク狩り』に参加してるハンターだからね。

高ランクの傭兵を相手にするっていう覚悟があるんだよ。

お前たちとは、覚悟が違うんだよ!」


無法者のくせに言いたい放題だな。

と感じたが、正直、やつらの言っていることは正しかった。


オレは、見張られて、尾行してきて、

人気のない場所で集団で襲撃してくるという相手の情報だけで、

やつらを実力の低い無法者だと決めつけてしまっていた。

ファロスも、やつらのことを卑怯者ひきょうものだとののしっていた。

その通りではあるが、覚悟がない、ヘラヘラしながら襲ってくるような、

そんな腑抜ふぬけたやつらではなかったのだ。

オレたちを見張っていたのも、敵の情報を知るためであり、

集団で襲撃してくるのも、敵が自分たちより格上の実力者だと

認めているゆえの、卑怯な戦法だったわけだ。


結果、ブルームやファロスは怪我を負った。

ブルームの無詠唱の魔法が無ければ、

今頃は、もっと仲間のみんなに被害が出ていたかもしれない。


己の慢心まんしんを、敵に突かれるとは・・・。

「慢心こそが最大の敵」だと、昔、先輩にも言われていたな。


「くっ・・・チカラが!」


「ファロス!?」


「ファロス!」


剣を構えていたファロスが、突然、ガクガクと震えて、

その場で片膝かたひざをついてしまった!

後ろからシホの心配そうな声がした。


「私たちをナメ過ぎたから、そういう目に合うんだよ!」


「相手は食肉用の獣じゃないからな!

矢に毒を仕込むのは当たり前だろ、おいおい!」


「ど、毒だと!?」


用心しながらファロスを見たが、

片膝をついたまま、自分の震える左手を見つめている。

剣を握っている手が震えていて、

そのまま倒れ込みそうになっているのを、

剣を地面に突き刺して、なんとか踏みとどまっているような感じだ。


「っ・・・なるほど。」


「ブルームさん!」


「!」


後ろからブルームの声が聞こえたと思ったら、

今度はブルームがしゃがみ込む!

矢の攻撃を受けてしまった2人が!


「・・・おのれ!」


「おい! 待て待て!」


「これ、な~んだ?」


オレがやつらへ向かって駆けて行こうとしたが、

すぐに骨型の兜の男が、大声で制止を求め、

ナイフの女が、小さな小瓶をふりふりと振って見せている。

なんだ? 緑色の液体が入っているようだが?


「それは!?」


「おいおい、このタイミングで見せてるんだぜ?

解毒剤に決まってるだろ。」


「なんだと!?」


「解毒剤は、これ一本しかないんだよ。

私たちを攻撃すれば、この唯一の解毒剤を地面に叩きつけるんだよ。」


解毒剤!

アレがあれば、ファロスとブルームを救えるのか。

しかし、これでは・・・動けない!


「ふ・・・あのまま弓矢と魔法で攻撃を続けていれば、

私たちを追い込めたのに、わざわざ姿を現したのは、こういうことか。

それで? 貴様らの目的はなんだ?

何か交渉するために、のこのこと近づいて来たんだろ?」


ブルームが体を震わせながら、そんなことを言う。

毒のせいか、声も震えている。

相手を挑発しているようにしか聞こえない。


「そうだよ、交渉だよ。

さすが、無詠唱で魔法を使えるほど頭がいいやつはさっしがいいね。

お前たちにチャンスをやるんだよ。

仲間の命を助けたいなら、『ヒトカリ』の『ランクの紋章』を

私たちに差し出して、お前たちは、私たちの犬になるんだよ!」


「なっ!?」


あのナイフの女は、何を言い出すんだ!?

犬だと!? つまり、自分たちの仲間になれと言うことか?

いや、仲間というより、犬扱いか。


ことわ・・・!」


「おいおい、断ったら、俺たちは一斉に魔法攻撃を仕掛けるぞ!

毒で動けない仲間を抱えてるお前たちは、まず逃げられないだろ?」


骨型の兜の男が、そう言うと、

犬と呼ばれている、周りの傭兵たちの魔力が徐々に高まり出した!


「おのれ・・・卑怯な!」


ファロスが震えた声で、そう言う。

震えていても、怒気を感じさせる声だ。


「こんなのは交渉でも何でもない。ただのおどしだ!」


オレも腹が立っている。

しかし、この状況を打破できる策が思いつかない。


「私たちを見下してた犬どもと、まともな交渉をするわけないんだよ!

あんまり調子乗ってると、この小瓶、今すぐ落としちゃうんだよ?」


そう言って、ナイフの女が、

左手に持っている小瓶を、ふりふりと振って見せてくる。

完全に、してやられた・・・。

あの小さな瓶、たった一本で、

ファロスとブルーム、2人の命を握られているようなものだ。


「なるほど・・・。

こうやって脅して、仲間を増やしているわけか。」


震えた声のブルームだが、その声は、やたらと落ち着いている。

この状況で、よく落ち着いていられるな。


「おいおい、頭がいいやつは、本当に察しがいいな。

そうだ。強い犬を補充して、より強い『高ランク』の傭兵を狩るんだ。」


「お前は頭が良さそうだから、私の直属の犬にしてやってもいいんだよ?」


ブルームの予想通り、やつらは

この卑怯な戦法で、仲間を増やして・・・いや、補充していたようだ。

犬と呼ばれている傭兵たちは、そこまで強く感じなかったが、

長年、傭兵を続けている熟練の傭兵が多いかもしれない。

戦い方や連携がうまい。


いや、感心している場合じゃない!

どうする!?


オレは、ちらりとファロスとブルームの方を見た。

2人とも、毒で震えている。ファロスは苦しそうな、いや悔しそうな表情だ。

こうしている間にも、毒が2人の体をむしばんでいる。

下手に動けば、あの解毒剤の小瓶が割られてしまう。

やつらを倒せても、ファロスとブルームが救えない。

交渉を断れば、ここでオレたち全員が殺されてしまう。

しかし、交渉を受け容れたら・・・。


「おいおい、悩む必要あるか?

俺たちハンターにとっては、紋章さえ取れりゃそれでいいんだ。

お前たちを殺した後に奪ってもいいんだぜ!? おい!」


「どうするんだよ!? 紋章を差し出して、犬になるか!?

それとも、ここで全員、犬死にしたいか? どっちだよ!?」


ハンター2人が、オレたちの答えを迫ってくる。


「まずは、そこの女2人! その風の魔法を止めろ、おい!

早くしないと、仲間が毒で死んでしまうぞ!? おい!」


ハンターたちに囲まれている状況で、

シホと木下は、ずっと魔法の風の盾を発動し続けている。

女性陣の守りのかなめだ。

自分たちの真下の地面から攻撃される魔法は防げないが、

剣や弓矢などの攻撃は防げる、風の盾。

風の盾を解除してしまえば、一気に不利になる。

いや、すでに不利な状況だが。


「・・・。」


シホも木下も、すぐに魔法を止めない。

2人とも迷っているようだ。

風の盾を解除した途端に、相手がどんな行動に出るか、分からない。


「くっ!」


木下のほうを見たが、

眉間みけんにシワを思い切り寄せている。

木下でも、この状況を打開する良案が思い浮かばないなら、

オレでは無理だ・・・。


ここは、大人しく交渉を受け容れて・・・

とりあえず、毒を受けた2人を救って・・・

全員で生き延びて・・・反撃の隙を・・・。


「!」


いきなり! ブルームの魔力が一瞬にして高まった!


「おい! 動くなって・・・いや、動いてはいないか。

でも、魔法もダメだぞ、おい!」


「ちょっと! 犬のくせに動くんじゃないよ!

解毒剤が地面の土に消えてもいいのかい!?」


ハンター2人の制止を無視して、

座り込んでいるブルームの地面に、白い魔法陣が浮かび上がった!?


「ディスコリア・アペレフセロスィ。」


キィン・・・


「ふぅ・・・これで喋りやすくなった。」


ブルームが魔法を実行したらしい。

一瞬、ブルームの体が光ったようだが、

すぐに魔法陣ごと光は消えた!


「な、なにをしたんだよ!?」


ナイフの女の問いに答えず、ブルームが、スっと立ち上がった!?


「「えぇ!?」」


「は!?」


ハンターたちだけでなく、オレたちも驚く!

本当に、何をしたんだ!? 毒は!?

再度、ブルームの魔力が高まる!

ブルームが、ファロスのほうに右手をかざすと、

ファロスのいる地面に白い魔法陣が!


「おいおい! ま、マズイだろ!

おい! 魔法だ! 犬ども! 皆殺みなごろしにしろ!」


「こ、ここに解毒剤があるって言ってるんだよ!

なにを勝手に・・・!」


あせり始めたハンターたち。

犬と呼ばれた男たちが、一斉に魔法の詠唱を始めた!


「ディスコリア・アペレフセロスィ。」


キィン・・・


「あ・・・え?」


ファロスの体が一瞬、光ったように見えた!?

まさか、魔法で!?


「佐藤! ファロス! もう自由に動けるはずだ!」


ブルームが、そう叫ぶと、ファロスがすくっと立ち上がった!


「かたじけない!」


ファロスが、そう答えると同時に、ハンター2人の元へ駆け出した!

本当にファロスの毒が消えたようだ!


「よしっ! 反撃だ!」


驚きすぎて反応が遅れたが、オレもファロスに続いて

男女2人のハンターに向かって駆け出す!


「おい! ふざけるなよ!

なんだ、そりゃ! おい!」


骨型の兜の男が、腰にげていた剣を抜き始めた!


「ちきしょーだよぉ!」


ナイフの女が何か叫びながら、小瓶を胸元に素早く仕舞い、

代わりに両手でナイフを構え始めた!


「ユンム! シホ! 『シルフ・シールド』はくなよ!」


後ろからブルームの声が聞こえてきた。

そのブルームの魔力が、また一瞬にして高まる!

囲んでいる男たちが魔法の詠唱をしているうちに、

その場から逃げた方がいいはずだが・・・。


「サウザント・アイス!」


パキパキパキキキ・・・ ドドドドドドドドッ!!!


ブルームの声が後ろから聞こえてきたと思ったら、

オレたちの後ろから、青白いかたまりが、前方のハンターたちに襲い掛かった!


ドドドドドドドドッ!!!


「うぎゃ!」


「あぁ!!」


「ぐぁっ!」


あれは、氷の攻撃魔法か!

無数の氷の塊で、5人の男たちが吹っ飛ばされた!

魔法の詠唱中だったから、余計に、

咄嗟とっさに避けることが出来なかったのだろう。


「おいおいおいおいおい!」


ギギン! ッキン!


そんな中、襲い掛かって来た氷の塊を、あの骨型の兜の男は、

剣を振り回して、すべて叩き落としている!

ナイフの女も! 身をかわしながら、ナイフで弾いている!

やはり、あの2人だけ実力が別格だ。


それでも、


「はぁ!」


ギキン! ザシュッ!


「ぐぉ! おい! いてーな、おい!」


素早く駆けていったファロスが、骨型の兜の男に斬りかかった!

今までの刀ではなく、剣での初めての実戦だが、

いつものようにファロスの素早い連続攻撃!

攻撃をさばき切れなかった男の左肩から血飛沫ちしぶきが飛ぶ!


「!」


ヒュヒュッ


骨型の兜の男とファロスが戦っている横から、

ファロスに向けて、ナイフを投げ始めた女!

ファロスは、男だけに集中していたわけではなかった!

しっかりナイフをかわしている!


「うりゃ!」


ビュォ!


オレが駆け寄って、斬りつけた時には、

ナイフの女は、思い切り後方へ大きく跳躍して、


ヒュヒュヒュッ


「っ!」


カッカキンッ ギィン!


オレに3本のナイフを投げつけて来た!

オレは剣で弾きながら、それをかわす!


「ぬ!」


ナイフの女の投げナイフで、ファロスの攻撃が止まった瞬間に、

骨型の兜の男も、ナイフの女と同じく後方へ、大きく跳躍していた!

攻撃の間合いから距離をとるとか、そういう跳躍ではない。

やつら、まさか!?


「逃げるのか!」


オレの大声に、


「おいおい、人聞きの悪い!」


「そうだよ! 使える犬がいなくなったんだよ!

仕切り直しだよ!」


「おいおい、喋っちゃうのかよ!」


骨型の兜の男と、ナイフの女は、

オレたちをあざ笑うように、喋りながら、

あっという間に、森の中へ消えていった。

急速にやつらの気配が遠ざかっていく。


「・・・。」


追いかけるか?

竜騎士の剣技で追撃するか?

一瞬、迷ったが、森林の奥深くへ追いかけたら、

仲間とはぐれる上に、何かわなを仕掛けてあるかもしれない。

竜騎士の剣技は、これだけ離れてしまったら、

簡単に避けられそうだったから、止めておいた。

やつらを逃がしてはいけないと感じつつ・・・

これ以上の深追いは危険と判断して、オレは立ち尽くしていた。


「佐藤殿、追いますか? はぁ・・・はぁ・・・。」


ファロスも同じ考えに至ったのか、呼吸を整えながら、鋭い目つきで、

やつらが消えていった方角をにらみつけて、そう聞いて来た。

迷いが無ければ、オレに聞かずに追っていただろう。


「いや、みんなとバラバラになるのはマズイ。

深追いはやめておこう。」


「御意。はぁ・・・はぁ・・・。」


オレより体力があるファロスが、

こんなに息切れするとは・・・毒の影響だろうか?


「お、おじ様・・・。」


「はぁ・・・あぁ、周りに気配はない。大丈夫だ。」


後ろから木下に呼ばれて、オレはそう答えた。

オレが気配をさぐって、周りに敵がいないことを伝えると、


「ふぅーーー・・・。」


「はぁ・・・はぁ・・・。」


木下とシホは同時に、風の防御魔法を止めた。

2人とも、魔法に集中し続けたため、かなり疲れたようだ。

その場に、へなへなと座り込んだ。


そして、ブルームも。


「ふぅ・・・逃がしてしまった、か。」


「ブルームさん!」


ブルームは、毅然きぜんとして立っていたが、

木下たちが座り込んだ時に、ふっと倒れそうになって、

そばにいたニュシェが慌てて抱きかかえた。

魔法を連続で使っていたから、一気に疲れたのだろう。


「ふぅ・・・。」


フヒュオ!


オレもゆっくり息を吐き、気持ちを落ち着かせる。

まったく活躍しなかったが、

剣を地面に向けて振ってから、さやに納めた。

この前の『ゴブリン』の住処掃討戦よりは、大変ではなかったが、

やはり魔物相手ではない戦い、対人戦はかなり疲れる。

正直、オレもブルームと同じで、地面に倒れ込みたい気分だ。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ