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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第五章 【エルフの赤雷と怠惰の赤鬼】
477/501

対赤鬼のイズナミ戦




キュイ キュキュイ!


「ふん!」


オレたちの背後からニュシェや他の騎士たちの弓矢が

赤鬼を目掛けて放たれたが、赤鬼は難なく避けてしまう。


「でぇやぁぁぁ!」


ヒュン!


オレの隣りにいたファロスがオレよりも先に攻撃を仕掛けた!

しかし、これも赤鬼はさらっと避ける。

いつものファロスの攻撃なら、もっと速いはずだが、

足を痛めていて、いつもより遅い。

回復薬では治りきらなかったか。


いや、それよりも赤鬼の身体能力の高さには驚かされる。

あの巨体で、のらりくらりと攻撃を避けて・・・


「があああああああ!」


「ぬっ!」


ガキィン!!!


突然、赤鬼がオレに攻撃を仕掛けてきた!

てっきりファロスに反撃するかと思っていた。

重い一撃に、オレは剣を当てながら、

その金棒の軌道をらして、攻撃をかわした!


「はっ!」


フュン!


ファロスの横からの攻撃に、

赤鬼は上体だけを逸らして、また紙一重で避けている!


ドッ


「ぐっ!」


攻撃を避けながら、赤鬼の蹴りがファロスを!

いや、ファロスも紙一重で刀で防御して、

後方へ飛び退き、衝撃を逃がしている!


「はぁ!」


その赤鬼の足を目掛けて、オレは剣を振り下ろしたが、


「ちぃ!」


ガキィィィン!!


大きな金棒でふせがれた!

人間の胴体ほどある太さの金棒は、まるで大きな盾だ。

それを片手でブンブン振り回すとは。まさに『鬼に金棒』。


「だぁぁぁ!」


「!」


オレたちの横から、他の騎士が攻撃を!


ドゴン! ぐしゃあ!


「ぎゃあああああ!」


しかし、騎士の剣先が届く前に、赤鬼の金棒の一振りで

騎士の剣は、それを持つ両腕ごと吹き飛ばされた!


オレは一歩、後ろへ下がった。

腕を失った騎士には申し訳ないが、

赤鬼のすぐそばで転がっているから、邪魔になっている。


キュイ キュイン!


その隙を見逃すことなく、オレたちの背後から

弓矢が発射されているが、やはり赤鬼は軽く身を揺らして、

弓矢をかわしている!

この距離からの弓矢をかわすのは、オレでも難しい。

それを涼しい顔して、やってのけている。


「はぁ!」


「はああああ!」


オレとファロスが一歩下がったタイミングで、

ほかの騎士たち数人が、同時に攻撃を仕掛けた!


「はぁ・・・。」


ボッ! ゴゴンッ! ぐしゃあああ!


「うわあああああ!」


「がっふ!」


「ぎゃ!」


しかし、赤鬼は気だるそうに金棒を一振りして!

騎士たちの剣が、腕が、胴体が、無惨に飛び散った!

一気に辺りが赤い血で染まる。


「はぁ・・・だるいな・・・。もう、だるい。

おい、本当に、ここに菊池はいないのか!?

きーーーくーーーちぃーーー!!!」


赤鬼の怒号のような雄叫びが、拡声器無しでも辺りに響く!

赤鬼の態度からして、本当に菊池との戦い以外に

興味がないようだ。本当に、だるそうに戦っているが、


「ここには、活きのいいジジィしかいねぇのかよぉ!」


「くっ!」


ガキィイイイ!


ビリ・・・ビリ・・・


やたらとオレにばかり攻撃を仕掛けてくる!

そして、やたらとチカラをこめてくる!

大きな攻撃はすきが生まれやすい。

だからこそ、オレもすぐ反応できているのだが。

小さく連続で攻撃を仕掛けられたら、かわしきる自信がない。


「くっ!」


「・・・うぅ!」


仲間の騎士たちが、あっけなく倒されたのを見てしまって、

他の騎士たちは剣を構えるばかりで、

もう赤鬼に攻撃を仕掛けようとしない。

せっかくアルファの掛け声で士気が上がっていたが、

士気だけで、どうにかできる相手ではないと、

みんなが本能的に感じ取っている。


キュイン! キュイ!


「ちっ!」


それでも、オレたちの後方からは弓矢が飛んでくる。

矢は、あっさりとかわされているが、

弓矢を使うニュシェと騎士たちだけは、

まだ攻撃の手を止めていない。諦めていない。


「はっ!」


ギィン!


矢を避けて赤鬼の体勢が崩れているところを

ファロスが攻撃を仕掛けたが、

今のファロスの攻撃にはキレがない。

ほかの騎士たちと同様に、あっさりと防がれている。


「あああ! めんどくせぇ!」


「!」


バギィィィン!!!


赤鬼の強烈な金棒の一撃!

ファロスはとっさに受け流そうとしたようだが、遅かった!

ファロスの刀が折れた!

中心で折れた刀の切っ先が『ゴブリン』の集団の方へ飛んで行った!

ファロスは衝撃を逃がすために後方へと跳んでいたが、


「ぐぁっ! くっ!」


刀を握っている右手を左手で抑えながら痛がっている!

刀を折るほどの衝撃で右手を痛めてしまったか!


「どらぁぁぁ!」


「ファロス!」


ガァァァァィン!!


痛がっているファロスへ振り下ろされた金棒に、

オレがすかさず攻撃して、金棒の軌道をそらし、ファロスを守った!


ビリリ・・・


両手が衝撃で震える!


「くっそ! なんなんだ、お前は!

菊池といい、お前といい、ジジィのくせに邪魔するなぁ!」


「はぁ!」


ガキィィィィン!!


今度はオレに攻撃を仕掛けてきた赤鬼!

その赤鬼の攻撃に、オレの攻撃を当てる!

もう、この方法でしか、やつの攻撃はかわせない!

一撃ごとに、両手に衝撃が走ってしびれる!

それほど重い一撃! まともにくらえばつぶれてしまう!


「ファロス!」


オレの背後からシホの声が!

シホがファロスの元へ駆け寄ろうとしている。

しかし、ファロスは赤鬼の目の前だ。

これでは、あの菊池と戦った時の再現になってしまう!


「シホ、来るな!」


「シホさん!」


「う・・・うぅ。」


オレと木下の声で我に返ったのか、シホが立ち止まった。


「はぁ・・・はぁ・・・!」


ファロスは痛がりながらも赤鬼が追撃してこないうちに、

転がるようにして、オレの後方へと退いた。

もはや、刀を折られ、利き腕と足を負傷していて、体力も限界だろう。

オレも・・・体力の限界が近い。


この状況は不味い。

呼吸を整えつつ、改めて赤鬼を見る。


ファロスの負傷に、騎士たちの実力不足・・・。

いや、オレも赤鬼に勝てる見込みがない。

やつは、まだ本気じゃないからだ。

圧倒的に不利な状況。それほど、赤鬼は強い。

赤鬼が菊池との勝負にこだわっているあたり、

もしかしたら、菊池はこの赤鬼を打ち負かしたのだろうか。

だから『例の組織』の契約ができたのか。

たしかに菊池の実力なら、赤鬼に勝てたのだろう。


このオレが、あの菊池に勝てたのは竜騎士の剣技があってこそだ。

やはり、オレには竜騎士の剣技しかない。


「あぁ、めんどくせぇ・・・!

本当に菊池のジジィはいねぇのかよ!

こんなことなら、もう少し小鬼に任せておけばよかったか。」


ブォン!


そう言いながら、赤鬼は金棒を振り回し、その金棒を肩にかつぐ。

赤鬼は、とにかくメンドくさそうだ。

その性格のお陰で、今、オレたちは生き残っている。

赤鬼がその気になれば、とっくにオレたちは全滅しているだろう。


竜騎士の剣技・・・問題は、どうやって打ち込むか。

これだけ周りに味方がいて、敵の能力も格上で・・・

菊池のように、気を練る隙ができればいいが。

使う剣技は、やはり『竜殺し・絶滅殺ぜつめっさつ』しかないか。

いや、むしろ、他の技の方が・・・。


「そこのジジィは菊池と同じくらい楽しめそうだが、

もうメンドくさくなってきたな。菊池がいねぇなら、もういいや。

俺はトンズラさせてもらうからよ、お前たちは小鬼にやられてろ。」


「!」


そう言って、赤鬼は、左手に持っていた拡声器を!

いかん!


「はぁ!」


「ぬぉっと!?」


ビュン!


オレが、赤鬼の拡声器へ目掛けて攻撃したら、

赤鬼は驚いた顔で、オレの攻撃を避けた。


「おいおいおい! ジジィ、何しやがる!

この拡声器を傷つけたら、お前は

すべての鬼族を敵に回すことになるぜ!?」


「!?」


「おじ様! おそらく、その拡声器に、

鬼族の国宝が組み込まれているんだと思います!」


オレと赤鬼の会話に、木下が後方から割り込んできた。

そうか、拡声器に、例の鬼族の国宝が!

だから『ゴブリン』たちへの命令を、

わざわざ拡声器で伝えているのか!


「あの女の憶測どおりだぜ。

この拡声器に鬼族の国宝を組み込んである!

国宝を傷つければ、俺を追ってきてる鬼族の刺客は、

ジジィ、お前たちを生かしちゃおかないだろうぜ。」


そう言って、赤鬼がまた拡声器を口元へ!


「だぁ!」


フヒュン!


「ぅおおおぃ!?」


赤鬼の左手に持っている拡声器へ

オレが攻撃を仕掛けたが、赤鬼は、すかさずかわした!

油断しているように見えて警戒心がある。


「は、話を聞いてなかったのか!? ジジィ!

それとも、菊池と同じで耳が遠いのか!

この拡声器は・・・!」


「それを破壊されると困るのは、お前も同じだろ。」


「!」


国宝を壊してしまえば、鬼族に命を狙われるのは本当のことだろう。

だからと言って、『ゴブリン』たちに命令しようとしている

赤鬼を止めずにはいられない。

一番てっとり早いのが、やつの拡声器を破壊してしまうことだ。

やつの慌てぶりを見るに、国宝を壊されてしまうと、

こいつ自身も困るのだろう。だから必死になっている。


「ジジィ・・・お前、ヤバイやつだな!」


ガキィィィィン!!


「ぐっ!」


赤鬼からの攻撃!

それに対して、こちらも攻撃して

やつの金棒をはじく!

防御できない分、身をかわして避けるべきだが、

やつの武器が太く長く、攻撃速度も速く、避けにくい。


「アルファ! 撤退しろ!

こいつは、オレが足止めする!」


「し、しかし、佐藤さんが・・・!」


「撤退は、『ゴブリン』たちが止まっている今しかない!

急げ!」


みんなで立ち向かえば、何とかなると

アルファの掛け声で思わされたが、戦い始めて、

それがいかに無謀だったか、実感させられた。

特に、帝国軍の騎士たちの実力が不足している。

数で押せるような敵ではない。


「ぜ、全軍、赤鬼との戦闘を避けて撤退だ!!

赤鬼と『ゴブリン』を避けて、撤退しろ!!

負傷者に手を貸して連れて行け!!

全員、生き残るんだーーー!!!」


アルファが号令した!

さすがアルファだ。判断が早い。


「「「ぅ、うおおおおおお!!!」」」


騎士たちが一斉に逃げ始めた!


「させるかっ!」


ガァイィィィン!!


赤鬼を避けて逃げていく騎士たちへ、赤鬼が攻撃を

仕掛けそうになったから、よそ見している赤鬼の顔面へ目掛けて

思い切り攻撃してみたが、やはり赤鬼に素早く反応されて

金棒で防がれてしまった。


ビリビリ・・・


攻撃したのは自分なのに、両腕がしびれる!

硬い鋼鉄に向けて、剣を振ったような感覚。

これまでも剣と剣のり合いはあったが、

金棒を持った相手に競り合うのは初めてだ。

赤鬼の身長より少しだけ短い金棒。

しかし、オレの剣よりは長い。2mはあるのだろうか。

あれだけ長く太い金棒なんて、

人間一人分の体重以上の重さがあるはず。

それを軽々と・・・


ブォン!


「くっ!」


赤鬼の金棒が、オレの顔面スレスレを横切る!

剣で弾き返す間もなく、赤鬼もオレの顔面を狙って来た!

とっさに避けたが、オレが体勢を崩している隙に、

赤鬼が左手の拡声器を口元へ!


「はぁ!」


「ぬぁ!?」


ビュォ!


崩した体勢から剣を斬り上げて、赤鬼の拡声器を狙ったが、

赤鬼は素早くかわした!


ダメだ。やつの攻撃をかわすと、

やつに拡声器を使う隙を与えてしまう。

みんなが逃げ切るまで、攻撃を続け、

なるべく、やつの攻撃は避けずに、金棒を剣で弾き続けねば!


「くっあああ!」


「おお!」


ガキィィィィン!!


オレの攻撃をかわすことなく、赤鬼も

攻撃に対して攻撃で弾く戦法だ。

やつはやつで、オレに隙を与えると

拡声器へ攻撃されると思っているようだ。

若干じゃっかん、腰が痛みだした。

無理な体勢から剣を斬り上げたのが良くなかった。


「くっそぉ! 騎士どもが逃げやがる!

小鬼を止めるんじゃなかった! そして、ジジィ!

お前、本当に菊池と同じでメンドくせぇなぁ!」


ガィィィィン!!


「ぐっ!」


赤鬼の重い一撃を、チカラいっぱいの攻撃で弾く!

もう両腕の痺れが限界に近い!

剣を振るたびに、腰に小さな痛みが走る!


「あぁ!? おいおいおい・・・。

あ~ぁ、本当にメンドクサイのが来やがった!」


「!? はぁ・・・はぁ・・・。」


いきなり、赤鬼がオレの背後を見て、だるそうにしている。

オレの背後に何を見たのか?

とても気になるが、赤鬼から目を離せない。


「お、おい、後ろから、なんか来てねぇか?」


「あれは、いったい・・・!?」


シホとファロスが、何か話している。

いったい、何が・・・。


ドドドドドドドドドドッ


何か、音がする!?

その音がどんどん近づいてきている!?

いや、今が好機こうき

赤鬼がオレの背後に気を取られているうちに・・・。


「すぅぅぅぅぅ・・・ふぅぅぅぅ・・・・。」


いつの間にか呼吸が浅くなっていた。

息が上がる寸前だった。

新鮮な空気を肺の奥の奥まで、めいっぱい吸い込む。


「小鬼たちを巻き上げながら、何者かが、

ものすごい勢いで、こちらへ向かって来ている!」


アルファがオレに分かりやすく背後の状況を教えてくれた。

そのアルファをニュシェが背負って、

シホはファロスに肩を貸して、

木下が軽そうな荷物を持って、

オレと赤鬼から離れて、この丘を登っていく。

ほかの騎士たちも同様、動かずにジっとしている『ゴブリン』たちを

かき分けるようにして丘の上へと駆けていく。


「何者かがって・・・何を今さら。

あいつを呼んだのは、お前たちだろう?

あいつが来ないうちにトンズラしたかったんだがなぁ。」


ブォン ブォン ブォン


赤鬼が、だるそうに金棒を持ったまま、右の肩をぐるぐると回し始めた。

金棒の重さを物ともしない。

まるで木枝を振り回しているかのような動きだ。

なんだ? 赤鬼の空気が変わった気がする!


「はぁ・・・肩慣らしは終わりだ、ジジィ。

あいつが来たからには小鬼どもで、この場をゴチャゴチャにして、

さっさと逃げるに限る。どけぇ!」


「すぅ!」


ボォフォ!!


深呼吸している途中で、いきなりの赤鬼の攻撃!

今までの攻撃より、さらに速い!

金棒での薙ぎ払いに、オレは咄嗟とっさに後方へ跳んでしまった!

距離が空いてしまった! まずい!


すぐに赤鬼が左手の拡声器を口元に!


「おい、小鬼どもぉーーー!!!」


「ぐぁっ!」


ビリビリビリ!!!


大音量のバカデカい声が、オレの耳に直撃した!

ダメだ、今、攻撃しても間に合わない!

オレは、とっさに、大声で叫んだ!


「動くなアアアアアアアアアア!!!」


ビリビリビリビリ!!!


「ぐぉ!? な、なんだとぉ!」


耳がジンジンしていて、よく分からないが、

オレの大声が、赤鬼の持っている拡声器へ届いた!


すかさず距離を詰めて、


「はぁぁぁぁ!!」


ガキィィィーーーン!!


赤鬼を攻撃した!

赤鬼は驚いた表情のまま、拡声器をかばうように

オレの剣を弾き返す!


「「「「「・・・。」」」」」


周りの『ゴブリン』たちは、身動きしていない。

赤鬼が命令を伝える前に、オレが命令してやった!

あの拡声器は、いや、あの国宝は、

どうやらオレの声でも通じるらしい!


「お前・・・もうシャレにならねぇぞ。

あいつが、もう来ちまう・・・!

あーーー! 本当に、メンドくせぇ!」


「!」


ガギィィィィン!!


赤鬼が金棒を振り下ろしてきた!

それをチカラいっぱいの攻撃で弾く!


「このっ! 肩慣らしは終わりだって言ってるだろぉ!!」


ゾクッ


赤鬼の目が変わった!

物凄い殺気に満ちた目を、オレに向けて!

いかん! 本気の攻撃が来る!

オレがどうにか凌いできた今までの攻撃ではない、

本気の攻撃が、来る!


ゾクッ


いや、背後からも、ものすごい殺気が!?





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