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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第五章 【エルフの赤雷と怠惰の赤鬼】
473/501

魔害の罠






「・・・なん、だと!?」


ガッ!


アルファの言葉に、一瞬、オレの動きが止まってしまい、

目の前の『ゴブリン』の攻撃を、左肩に受けてしまったが、


ザシュ!


すぐに反撃して『ゴブリン』をぎ払いながら、

もう一度、アルファの言葉を頭の中で理解しようとする。


ザンッ!


回復薬ではない、だと?

魔害薬って言ったのか? 有り得ない!


ドシュ! ガン!


か、回復薬だと思って、魔害薬を飲んだら、

どうなってしまうんだ!?


「ウガアアアアアアアア! ま、マものォォォォォォ!」


「ゲヒャヒャアアアアアアア! ア・・・お、オンなァァァァ!」


その結果が、あれか!?

オレは困惑と怒りの感情がわきあがるのを感じながら、

目の前に迫り来る大量の『ゴブリン』を斬り続ける!


「こ、こんなことって・・・!」


「危ない!」


ドカッ!


「!」


木下たちの方から声がしたから、ちらっと見たが、

シホがケガをしている騎士を横から蹴っているところだった!

ケガ人に何を!? ・・・と一瞬、思ったが、

蹴られて倒れた騎士は、痛がる様子もなく、

ただただ狂ったように「女」を連呼していてジタバタしている。

やつは木下を襲おうとしたのか!?

もはや、まともな会話ができない様子だ。


「な、なんなんだ!? ど、どうしたんだ、第二のやつは!?」


ケガをしてアルファの元へ駆け寄ってきた騎士が、

驚いた声をあげているが、


「マ、マものオオオオオオ!」


「うわぁ!」


ドカッ!


突然、起き上がって来た第二の騎士に殴られている!


「こ、こいつらを止めろ!」


「ケンカか!? こんな時に!?」


「なんだ!? 第二のやつらか!?」


「ケンカじゃない! 狂ってる!」


たちまち、正常な他の騎士たちが異変に気付き始め、

狂い始めた第二の騎士たちを止め始めた!

オレも木下たちを守るために、止めに入りたかったが、


「「「「「「「ギャッギャギャギャギャギャ!!!」」」」」」」


「くっ!」


ザシュ ザシュ ザシュシュ!


先頭に押し寄せている『ゴブリン』が圧倒的に多いが、

最後尾のこちらの『ゴブリン』も決して少ないわけではない。

オレが斬り続けていないと圧倒的な数で、

みんなが押し潰されてしまう勢いだ。


「どうして、こんなことに・・・!」


「ど、どういうことだ!? 傭兵!」


第一騎士団の騎士たちだろう。アルファたちに説明を求めている。


「これを見てください。」


「これは!?」


「布に染み込ませた回復薬です。

こちらが、第一。そして、こちらが第二の回復薬です。

明らかに回復薬ではない色に染まって・・・!

うっ・・・! うげぇぇぇぇ!」


「うわっ!」


「だ、大丈夫か!?」


「アルファさん!」


木下の大きな声にオレは驚き、戦いながらもアルファの方を見た。

アルファが騎士たちに説明している途中で、

突然、吐いてしまったようだ!

慌てて、木下がアルファの

口元のバンダナを脱がし、助けている。


「す、すみません・・・ゴホゴホッ! はぁ、はぁ・・・!

ちょっと馬車に酔ってしまって・・・はぁ・・・。

今まで耐えていたのですが・・・はぁ。」


木下に背中をさすってもらっているアルファが、そう言った。

そういえば、フードを深く被っていたし、バンダナで口元を隠していたから、

アルファの顔色に気づけなかったが、今まで普通の街道を

走っている馬車ですら、乗車のたびに吐いてしまっていたアルファだ。

ここまで悪路を走って来た馬車に揺られて、

よくぞ、今の今まで耐えていたものだ。


木下がすぐに新しいバンダナをアルファに渡し、

アルファはすぐに口元を隠した。

木下の素早い対応によって、騎士たちには

アルファの素顔を見られることが無かったようだ。


「そ、それより、これは・・・!」


「おい、その布の色・・・限りなく黒に近い紫!

それは魔害薬じゃないか!」


「おいおい、嘘だろ! その瓶の中身は、

回復薬じゃなくて『ゴッドイーター』なのか!?」


ここへ駆け寄ってきて、狂った第二の騎士たちを取り押さえているのは

戦いでケガをして回復しに来た第一の騎士たちだ。

その第一の騎士たちが、自分たちのケガを気にすることなく、

アルファが突き出した、有り得ない証拠に戸惑っている。


「なんてことをしてくれたんだ!」


「あ、有り得ない! この国へ魔害薬を持ち込むことは不可能だ!

お、お前たちが魔害薬を持ち込んで・・・!」


「今、あなたがこの国へ持ち込むことは不可能と言ったように、

私たちは隣国から来たので、魔害薬を持ち込むことは不可能です。」


騎士の一人がオレたちを疑い始めていたが、木下が即答で反論した。

その通りだ。この国へ入国した時、関所で荷物検査を受けている。

誰にも、魔害薬を持ち込むことは不可能だ。


「ぐっ! いや、たしかに。では、どうやって!?」


「それより、こんなに色が違うのに、

どうして気づかなかったんだ!?」


「はぁ・・・おそらく、回復薬の小瓶が色濃い茶色だからでしょう。

濃い茶色の瓶だと、透明な液体じゃない限りは、

どんな色の液体も、外見からは茶色にしか見えなくなりますから、はぁ・・・。」


困惑している騎士たちに対して、冷静に説明しているアルファ。

体調が優れなくても、冷静に現状を分析していられるとは、さすが。


キュイ キュイ キュイ


「!」


いつの間にか、ニュシェがオレの後方から

弓矢で援護してくれている。


「ギャッ!」


「ギャギャ!」


次々に射貫かれる『ゴブリン』たち。

見れば、どの『ゴブリン』も頭や胸を射貫かれている。

対人戦では思い切って射貫けないニュシェも、

相手が魔物となれば容赦なく急所を射貫くようだ。心強い。


「わが魔力をもって、閃光の矢と成し、遠くの敵を射抜け!

ライトニング・アローーー!!」


ピュン!


シホは、オレの方ではなく、ファロスがいる方向へ向かって、

光の攻撃魔法を放っている! ファロスの援護をしているのだろう。

扱いが難しい光の魔法を、素早く発動させるのは至難の業だから、

じゅうぶん凄いことだが、一発一発に時間がかかりすぎている。

多数を相手にするには不利な魔法だな。


「すぅ! はああああああ!!!」


ズバァァァァァァアアアアア!!!


短く息を吸い、瞬間的に気を練り込み、

オレも負けじと、竜騎士の剣技『火竜殺し・胴薙ぎ』を放った!

大きな赤い刃が『ゴブリン』の群れを突き抜けていく!


「「「「「「「ギャアアアアアアアアア!!!」」」」」」」


一気に、大量の『ゴブリン』が切り刻まれ、倒れ、吹き飛び、

目の前に、『ゴブリン』の死骸の道ができたように見えた。

あまり乱発はできないが、目の前に敵しかいない場面なら、

仲間を巻き込むことなく放てる。

傾斜がある坂で、丘の上へ向かって放っているから、

確実に敵だけを斬ることが出来た。


「なっ! なんだ、あのジジィ!?」


「お、おいおい・・・おいおいおいおい!」


「なんだ、今のは!? 魔法か!?」


「と、鳥肌が立った・・・バケモンじゃねぇか、あの傭兵!」


他の騎士たちに剣技を見られてしまったが、今はそれどころではない。

死骸の道が開けたと思ったのも、束の間、


「「「「「「「ギャギャギャギャギャ!!!」」」」」」」


あっという間の他の『ゴブリン』たちが

仲間の死骸を踏み台にして、押し寄せてくる!


「ウガアアアアアアアア!」


「ガアアアアアアアアアア!!」

 

あちこちから狂った騎士たちの叫び声が聞こえてくる!

圧倒的な数の『ゴブリン』を相手にして苦戦している上に、

味方である第二の騎士たちが、次々に・・・!

しかも、仲間だから斬り捨ててしまうこともできない!

他の正常な騎士たちは、狂った騎士を抑え込むのにも苦労しているようだ!


「か、回復薬、全部がそうなのか!?」


「俺も飲んでしまったぞ!?」


「いや、第二の回復薬だけがすり替えられてる!」


「第二のやつらが準備した荷物だぞ?

やつら、知ってて準備したのか!?」


「バカな! 有り得ない!」


「準備したのは第二のやつでも、

魔害薬を準備したのは、第二の人間ではないだろう。

そうじゃないと、自分の首を絞めるのと同じだ。」


木下とアルファを囲んでいる正常な騎士たちが、

第一と第二の荷物を調べているようだ。

やつらの話から察するに・・・

さっき、オレが先頭へ運んだ回復薬も、第二の物だった・・・。

つまり、先頭の方でも、第二の騎士たちが

狂い始めている頃だろう・・・。


「くっ! なんで、こんなことを!」


ザシュッ!


オレは湧き上がってきた怒りを

目の前の『ゴブリン』に叩きつけた!

知らなかったとはいえ、罪悪感を感じる。

いったい、誰が、こんなことを・・・!


「狂ったやつらは、小鬼討伐の邪魔だ! 斬り捨てて構わん!」


「っ!」


突然、先頭の方から拡声器で、中曽根の声が響いて来た!


「そ、そんな・・・!」


「参謀大臣! なんてことを・・・!」


「第二のやつらも仲間だ・・・。俺には出来ない!」


それを聞いた正常な騎士たちが、混乱している。

いくら狂っていても、仲間を斬るなんてことは

騎士たちにはできないはずだ。


「「「「「「「ギャギャギャギャギャ!!!」」」」」」」


「ガアアアアアアアア!」


「アアアアアアアアア!」


それでも迫り来る大量の『ゴブリン』たちと、

戦闘の邪魔をしてくる、狂った騎士たち・・・!

あまりにもひどい状況だ!


「参謀大臣! 度が過ぎるぞ!

聞け、帝国の騎士たちよ! 狂った者たちは取り押さえておけ!

必ず勝利したのちに、みなを救おう!

皆、一緒に生き残るんだ!!! はぁぁぁぁ!!!」


先頭の拡声器から、今度は王女の声が!


「・・・う、うおおおおおおおお!!!」


「テオフィラ様ーーー!!!」


「姫様の言う通りだ! 第二のやつらは取り押さえろ!」


「おおおおおおお!!!」


中曽根の命令に混乱していた騎士たちだったが、

王女の命令に、すぐさま冷静さと士気を取り戻したようだ。

これなら、少ない犠牲で抑えられるかもしれない。

危機への対応が早い。なかなか優秀な王女だ。

・・・ゆえに、ずっと前線で戦い続けている王女の身が心配だ。


「ふっ! ぬりゃああああ!」


ザシュ! ザシュ! ザシュ!


オレは『ゴブリン』を斬りながら、ファロスの元へと駆けていき、


「ファロス! ここはオレに任せろ!

王女へ第一の回復薬を届けてくれ!」


「はぁ、はぁ、はぁ!」


ザンッ ザザザン! ドシュ!


しかし、ファロスからは、すぐに返事がない。

すでにファロスの足元には、大量の『ゴブリン』の死骸が倒れているが、

ファロスも無傷ではないようだ。

よく見れば、少し右足を引きずっているように見える。

だから、足に頼らない戦い方をしていて、

オレより体力があるはずのファロスが肩で息をしながら戦っている!


「さ、佐藤殿! 不覚にも空から飛んできた兜が、

はぁ、拙者の足に・・・! はぁ!」


ザシュッ! ザジャァ!


「こ、ここは拙者に任せて、佐藤殿は姫様を!」


「分かった!」


大量の『ゴブリン』と戦いながらでは、

さすがのファロスも死角から飛んできた物を

避けることができなかったようだ。

大したケガではないと思いたいが、

足を止めて戦うのは、思いのほか体力が要る。

ファロスも自分の回復薬を持っているはずだが、それを飲むヒマもないか。

少し心配だが、ここはファロスに任せよう。


「オレは、また先頭へ行く!」


「分かった!」


「うん!」


ファロスから離れて、木下がいる場所へ向かう途中、

後方から援護攻撃しているシホとニュシェに、手短にそう告げて、


「ユンム、第一の回復薬をくれ!

王女へ持って行く!」


「はい!」


アルファが第一の荷物を管理しているが、

体調を崩しているし、もはや

木下が管理している第二の荷物は使えないから、木下に頼んだ。

木下は、すぐにアルファの目の前にある荷物から

8~10本の回復薬をオレに渡してくれた! よし!


ちらりとアルファを見たが、やはりフードを

深く被っているせいで、顔色が見えない。

少しうつむいているようだから、まだ体調は戻っていないのだろう。


「テオフィラ様を頼むぞ!」


木下たちを囲んでいる騎士たちが、オレにそう言って来た。


「あぁ!」


オレは短く、そう返事して先頭へと走り出そうとした。


「ぐぁぁ、はぁはぁ・・・か、回復薬を・・・くれ!」


ちょうどそこへ傷ついた騎士が、よろよろと近寄って来た。


「ほら、回復薬だ!」


オレがその騎士へ素早く回復薬を手渡す。


「ま、待て! それは第一騎士団の回復薬だ!」


オレの後ろから、一人の騎士が大声を出す。

オレが回復薬を渡した騎士は、第二の騎士だったのか。

しかし、オレは急いで先頭へ行きたい気持ちもあり、

第二の回復薬が、もはや使えないのであれば、

今は、そんなことをいちいち確認している場合ではない。

だから、俺は振り向かずに後ろの騎士へ言い放った。


「軍の規律と仲間の命、どっちが大事だ!?

騎士が守るべきモノとはなんだ!?」


「!」


オレはそのまま先頭へ向かって走り出した!

帝国軍に歯向かったとして、あとで罰が下るかもしれない。

しかし、そんなこと、今はどうでもいい!


「はぁ、はぁ!」


ゴツンッ!


「ぐっ!」


ファロスの心配をしている場合では無かった!

オレも、空から小石らしき物が降ってきて、頭に当たってしまった!

これまた、けっこう痛い!


「ぐぬぅぅ・・・はぁ! はぁ!」


痛みを我慢して、先頭へと走る!

坂を下っていきながら、

騒然としている騎士たちの中を駆け抜けていく!

倒れている騎士は、ほぼ見かけない。

倒れたが最後、『ゴブリン』たちの

群れの中へ引き込まれてしまうからだろう。

そして、確実に、騎士たちの数が減っている・・・。





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