開戦!『ゴブリン』の住処掃討戦!
その時、緑色の群れの真ん中、ポツンと建っていた家の
ドアが勢いよく開いた!
「お、おい!」
「あぁ・・・赤鬼だ・・・。」
「あれが、赤鬼・・・イズナミ・・・!」
この距離からでは分かりにくいが、あの家のドアは
通常の家よりも大きなドアだ。
しかし、中から出て来た大きな男には、
ちょうど良い大きさのドアに見えてしまう。
「ちっ、出て来ちまったか。」
先頭の誰かがそう言った声が、拡声器から
後方のオレたちにまで聞こえてきた。
しかし、この程度の声では、
数百メートルも離れている、あの赤鬼には聞こえないだろう。
初めて見る、生の鬼・・・。
予想通りの大きな体。赤鬼らしく、顔や皮膚が赤い。
髪の色は黒く、ボサボサに伸びきった長髪。
右側の頭部に、黄色い長めの角が一本。
左側の頭部には、折れた跡の角がある。
装備らしいものを着用していない。
灰色と藍色の継ぎはぎだらけの軽装。
ここからの距離では顔までは分からない。
ただ、右手に、何か大きな武器らしきものを持っている?
・・・と、思っていたら、
「あ、あーーー! あああああああ!!!」
ビリ・・・ ビリ・・・
空気が震えるほどの大声が、この辺り一帯に響いた!?
「な、なんだ、このバカデカイ声は!」
「赤鬼の声か!?」
「バカな、どうしてここまで・・・!」
騎士団たちがざわついている。
オレも驚いた。
まさか、鬼族はここまで声を轟かせるほどの大声なのか!?
「くそっ! 最新式の高性能拡声器か!
なんで、あいつが!」
先頭からの拡声器から、そんな声が聞こえてきた。
遠くの赤鬼を、よく見れば、
右手に持っていた武器のような物を、口に当てている。
あれは武器じゃなくて、拡声器だったのか!?
あんなに大きな拡声器は見たことがない。
「おうおうおう!!!
『ソウガ帝国』軍の小隊かーーー!?
それとも、マヌケな罠にかかって、
それだけ減ったのかーーー!? がっはっはっはーーー!」
ビリ・・・ ビリ・・・
赤鬼の笑い声が、この場の空気を震えさせる。
やはり、さっきの大岩の魔法陣は、やつの罠だったのか。
「はぁ、製造が禁止されている魔道具に、
そういう罠の種類があると聞いたことがありますが・・・
はぁ、まさか赤鬼がそれを持っていたなんて・・・。」
まだ肩で息をしている木下が、そう言った。
なるほど、そんな危険な魔道具が・・・。
そんなものを容赦なく使ってくるとは・・・。
「ところでーーー!
お前らの仲間に、菊池というジジィはいるかーーー!?」
ビリ・・・ ビリ・・・
赤鬼が、そんなことを言い出した途端に、
「っ! 総員に告ぐ! 今すぐ、総攻撃だ!!!
弓兵、魔法騎士、やつを狙え!
その他の騎士は、突撃しろーーー!!!」
先頭の拡声器から、号令が!
さては中曽根のやつ、赤鬼が
余計なことを口走る前に討伐するつもりか!
ざわ ざわ ざわ ざわ
しかし、すぐに動かない騎士団たち。
「き、菊池って・・・。」
「なんだ、あいつ?
第二騎士団長のこと、何か知っているのか?」
赤鬼の口から出て来た、意外な人物の名前に
みんなが驚いている。
「きーーーくーーーちぃぃぃぃぃぃ!!!
これは、重大な契約違反だぞぉぉぉぉぉ!!!」
ビリリ・・・ ビリ・・・
「け、契約? 違反? なんのことだ!?」
先頭の拡声器から女性の声が・・・王女の声か。
「テオフィラ様! やつの言葉に惑わされてはいけません!
やつは作り話や嘘をついて、こちらを混乱させるつもりです! 罠です!」
続いて先頭の拡声器から必死に説得する中曽根の声が。
「貴様らぁ! ボケっとするなぁ!
全軍、総攻撃ぃぃぃーーー!!!」
「「「「「ぅ、・・・おおおおおおお!!!」」」」」
中曽根の怒り声の号令が、先頭の拡声器から響き、
この場にいた数百人の騎士団たちが、ざわつきながらも
全員が咆哮を上げて応える!
ザッ ザッ ザッ ザッ ザッ
「!」
ついに、始まってしまった・・・!
ここから見下ろしているだけでは大地が見えないほどの、
夥しい数の、緑色の『ゴブリン』たちに対して、
たった数百人の騎士たちが、意を決して総攻撃を始める!
「「「わが魔力をもって・・・!」」」
第一騎士団の数十人が、一斉に魔力を高め始めた!
先頭の誰かの魔力も高まり始めている!
きっと中曽根も魔法で攻撃するのだろう。
キュイ キュキュキュィ ピュッ ピュン
弓使いの騎士たちの攻撃も始まった!
中曽根は赤鬼を狙えとか命令していたが、
ここからの距離では、矢は、まだ赤鬼まで届かない!
しかし、弓でどこを狙っても、射ち仕損じたとしても、
目の前に広がる緑色の『ゴブリン』たちには当たるだろう。
「がっはっはっはーーー!!! 始めやがったかーーー!
聞いてるかーーー? きーーーくーーーちぃぃぃぃ!!!」
ビリ・・・ ビリ・・・
こちらの攻撃を笑いながら見て、
もうこの世にいない菊池へ向けて、赤鬼が話しかけてくる。
「なぁぁぁんてなぁ!
お前との契約なんて、端から信用してなかったんだよぅぅぅ!!!
お前からの提案を飲んだふりして、この数年間、
この場を用意してたんだぁぁぁぁぁ!!!
小鬼どもぉぉぉ!!! 帝国軍を皆殺しにしろぉぉぉ!!!」
ビリリリ・・・
「え・・・。」
赤鬼は、菊池が裏切ることを見透かしていた!?
「「「「「「「ウギャギャギャギャギャアアアアア!!!!!」」」」」」」
「っっっ!!!」
ビリリリリ・・・
赤鬼が『ゴブリン』たちへ命令した瞬間、
今まで声を発することなく、静かに立っていただけの、
大地を埋め尽くしている緑色の生き物、全員が、
一斉に雄叫びをあげながら、
ドドド ドドド ズドドドドドドドドドド!!!
全員、こちらを目指して動き始めた!
まるで地震が起きているかのような地響き!
緑色の集合体が、濁流の大河の流れのように動き、
こちらに向かって押し寄せて来る!
「ひぃ!」
情けない声も、騎士団たちの中から聞こえてくるが、
もう『戦争』は始まってしまった・・・!
逃げる選択もあったはずなのに、
この大群を相手に、少数の隊で挑むことになってしまった!
「ひるむな! 敵は無力な小鬼!!! 恐れるに足らず!!!」
「!」
先頭の拡声器から、王女の声が!
大群を目の前にうろたえだしている騎士たちへ
激励の言葉を投げかける!
その王女は、まだ進軍していない。
おそらく、突撃するタイミングを見ているのだろう。
迂闊に飛び込めば、味方の魔法や弓矢に巻き込まれる。
いい判断だ。
目標の赤鬼との距離は縮められないが、
この丘の上で応戦すれば、
万が一、形勢不利になった時に退却することも可能だ。
この大群を目の前にしても肝が据わっているようだし、
王女なのに、戦い慣れているのかもしれない。
「「「ファイアウォォォーーール!!!」」」
「「「サウザントアイス!!!」」」
「「「ウィンドミル!!!」」」
「「「トエルノマルティィィーーー!!!」」」
魔法の詠唱が終わった騎士たちが、魔法を発動させていく!
第一騎士団の方で、いくつもの魔法陣が展開されて光っている!
ドドドン!!! ドッゴォォォンン!!! ドォォォォォンッ!!!
オレたちがいる丘へ登ってこようとしていた『ゴブリン』たちが、
騎士たちの魔法攻撃で、次々に倒されていく!
ゴォォォン!!! ドドドドォォォォォン!!!
火、水、風、雷、あらゆる属性の、中級以上の魔法が、立て続けに!
タイミングが合って魔法の重ね掛けになっている魔法もあり、その威力は絶大だ!
大群ではあるが、小さな体の『ゴブリン』たちにとっては
ひとたまりもない。燃え盛り、切り裂かれ、体が吹っ飛んでいく!
やつらの真っ黒な血が飛び散り、もうすでに凄惨な状態に!
「「「「「「「ギャギャギャギャギャアアア!!!」」」」」」」
それでも『ゴブリン』たちの雄叫びが延々と続く!
弓矢と魔法攻撃で、大量の『ゴブリン』が倒せたと思うが、
それでも、100匹倒せたかどうかだ。
依然として、『ゴブリン』たちの大群は止まらない!
もうすでに、徐々に、この丘を登り始めている!
「はぁ、始まってしまった・・・。」
ニュシェに背負われているアルファが、
落ち込んでいるような声でそう言った。
いや、実際、残念なのだろう。
戦わずに退却していれば、『例の組織』の計画も
とりあえず回避できていたはずなのだから。
ズズズズン!!! ドドドドォォォォォン!!!
キュイン キュキュイ ピュピュピュンッ ピュピュン!!!
第一騎士団の猛攻が続く! しかし、
「「「「「「「ギャギャギャギャギャアアア!!!」」」」」」」
数が足りない!
『ゴブリン』たちを倒しきれず、じわじわと
丘を登り、迫って来ている!
「はぁ、はぁ、第一騎士団だ! 魔力回復薬をくれ!」
「こっちも第一だ! 魔力回復を!」
「は、はい!」
先頭の方から、第一騎士団の騎士たちが
オレたちのいる後方へと走って来た!
中級以上の魔法を立て続けに使い続けて、魔力を使い果たしたようだ!
すぐに、背負っていた荷物を下ろし、
ニュシェはアルファを下ろし、そのアルファが
第一騎士団の対応を始めた!
「は、早く、魔力回復薬を!」
「はい!」
次々に魔力を使い果たした騎士たちが
魔力回復薬を求めて、アルファのところへ駆け込んでくる!
アルファの対応もなかなか早い。
薬の数を把握して、素早く騎士たちへ渡している。
「拙者が薬を運ぶでござる!」
「そうしてください! はい、これ!」
ファロスが荷物を下ろし、アルファを手伝い始めた。
先頭の方で戦っている騎士たちが、
わざわざ後方へ下がってくるよりも、
誰かが薬を先頭のほうへ届けたほうが効率がいい。
さすがファロスだ。
「「「「「「「ギャギャギャギャギャ!!!」」」」」」」
ゾクゾクッ
どんどん『ゴブリン』たちの雄叫びが近づいてきているのを感じて、
背筋に寒いものを感じた。いよいよだ。
「ファナティコス・レピ・トルネード!!!」
ゴッッッ!!!
「!」
先頭の方で、誰かの魔法が発動した!
強烈な突風が、先頭から吹いて来たと思ったら、
「きゃあ!」
その強い衝撃で倒れそうになった!
木下は、もろに突風の衝撃を受けて倒れてしまった!
「だ、大丈夫!? ユンムさん!」
「え、えぇ・・・なんとか・・・。」
ゴオオオオオオオオオ!!!
「うぉ!」
先頭を見れば、突如、現れた竜巻が、
『ゴブリン』たちを吹き飛ばし、あるいは吸い込んで舞い上がらせながら、
ぐんぐんとこの丘を下っていく!
あれは、風の上級魔法か!?
「いくぞぉぉぉぉぉ!!!」
「!」
先頭の拡声器から、王女の気合いの入った声が響いた!
「続けぇぇぇぇぇ!!!」
「「「「「うおおおおおおおおおおおおお!!!」」」」」
続いて、第一の副団長らしき男の声が聞こえて来て、
この場にいる全騎士たちが、それに応える!
その雄叫びは、『ゴブリン』たちの雄叫びにも引けを取らないほどだ!
「おじ様!」
木下から回復薬を手渡された。
こっちは第二騎士団用の薬だな。
「あぁ、ユンム、アルファ、荷物は頼んだ!
ニュシェとシホは臨機応変に、ここを頼む!」
「任せとけ!」
「うん!」
あの竜巻の魔法に合わせて、王女たちがいよいよ突撃する!
4人にこの場を任せて、
先頭の動きに合わせて、オレも動こう!
ファロスは先に第一騎士団の先頭の方へ走って行った!
オレも先頭の方へ駆け出す!
「おうおう! どこまで持ちこたえられるかなあああ!?」
ビリリ・・・
討伐軍の戦いを見て、アオるように赤鬼の声が響いて来た!
「それにしても、菊池のジジィよぉぉぉ!
俺はもっと早くに契約を破って、攻めてくると思ってたぜぇ!?
ずいぶん遅かったじゃねぇかぁ?
おかげで、じゅうぶん迎撃する準備ができたけどなぁぁぁ!!!」
ビリ・・・ ビリ・・・
「「「「「「「ギャギャギャギャギャ!!!」」」」」」」
まだ赤鬼は、菊池という男がこの場に来ていると思い込んでいる。
そうか、菊池という男が強いと認めたうえで、
やつを迎撃するための準備を・・・
これだけ『ゴブリン』の数を揃えていたということか。
「「「「「わぁぁぁぁぁ!!!」」」」」
「「「「「おおおおおおおおおお!!!」」」」」
ザンッ ザシュ! ドシュ! ザガン!
赤鬼の声を聞いているうちに、オレは他の騎士たちの間を
すり抜け、追い越していった!
騎士団の先頭が近づいて来た! 戦闘の音がする!




