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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第五章 【エルフの赤雷と怠惰の赤鬼】
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軍事用大型馬車内の一悶着





「討伐軍! 進軍せよーーー!」


「「「「「ぅおおおおーーーーーっ!!!!!」」」」」


ゴゴゴゴッ ゴトゴトゴトッ


拡声器を持った王女の掛け声とともに、

総勢3000人の掛け声が響き渡り、いよいよ

オレたちは北を目指して進み始めた。


王女たち、騎士団長や副団長らしき騎士たち、

そして騎馬で編成された騎士団は騎馬で移動。

そのほかの騎士たちやオレたち傭兵は、大型馬車に乗って移動していく。

大型馬車は、一般用ではない。軍事用だ。

軍隊を運ぶための超大型馬車で、20~30人ぐらい余裕で荷台に乗れる。

荷台を引く馬も4頭という、強力な馬車だ。

100台ぐらいある大型馬車が一斉に走り出すのだから、

地響きが起こって当然だ。


「へへへ。まさかまた会えるなんてな。」


「中曽根の言うとおりだったな。」


「えへへ・・・。」


オレたちは、第二騎士団と同じ馬車に乗せられた。

中曽根と呼ばれていた参謀の男は、騎馬に乗っているため、

この場にいない。


「うぅ・・・。」


ニュシェが不安そうな声をもらす。

三十数人の黒い鎧の騎士たちに囲まれるように、

オレたちは、荷台の奥の方へと押し込められた形で座らされている。

奥に座らされたのは・・・いざとなったら、

外へ飛び降りるという選択をさせないためか。

オレとファロスが女性陣たちを背にして、

騎士たちに接触しないようにかばって座っている。

しかし、この異常な光景・・・。

敵の罠にまんまとハマって、行き止まりへ追い込まれた感覚だ。

逃げ場がない。


「昨夜は逃げられたが、今日は逃げられねぇーぞ。」


「なぁ、もういいだろ? 先にこいつらだけでも

やっちまおうぜ? 戦場だと落ち着いて楽しめねぇからよ。」


「そうだな、傭兵数人が作戦前にいなくなっても

誰も気に止めねーだろ。へへへっ。」


ジリジリと迫ってくる騎士たち。

やっぱり、こいつら、昨夜のことを根に持っていて、

オレたちを亡き者に・・・そして、女性たちをはずかしめようと・・・。

・・・負ける気はしないのだが、ここでやりあってしまうと・・・

帝国軍に目を付けられることになる。

『ヒトカリ』の依頼も失敗してしまう。


「そうだ、そうだ! 姫の前に、チャチャッと・・・!」


「黙れ! お前ら!」


「っ!」


ギラついた顔で近づいてきていた騎士たちを、

あの副団長が一喝して止めた。


「作戦が始まるまで待てって言われてるだろ!

ライガ、妙なことを口走るのも止めろ!

こいつらに知られて、変な行動を起こされたら、

大事な作戦が失敗するかもしれねーだろうが!」


「へ、平気だって・・・なぁ?」


「お、おうよ。こいつらに作戦がバレたら、バラしちまえば・・・。」


「死体はどうするんだ? どこにも捨てられねーぞ。

この馬車で死体が見つかれば、作戦前に俺たちが消される!

菊池がいなくなったのは意味が分からねぇが、

中曽根がいる限り、何も変わらねぇ・・・。

俺たちが騎士団にいられるのは、誰のお陰か? 分かってんだろ?」


「ちっ、分かったよぉ・・・。」


「・・・ったく、ムカつくぜ。」


「副団長の言う通りだろ。あとで楽しめばいいんだからよ。」


「はぁ・・・副団長なんて雑用が増えただけで、何も美味しくねぇ。

お楽しみの一番乗りは、俺でいいよな?」


「あ、ズルいぞ! こういう時だけ特権乱用かよ!」


「だったら、お前が副団やれよ!

こういう時に特権も何もねぇなら、俺はヒラ騎士でじゅうぶんだぜ!?」


「わ、分かった! 悪かったよ!」


「俺は何番でも構わねぇ。」


「やっぱ、副団はサムディじゃなきゃ、なぁ?」


「けっ! そんな褒め方、嬉しくもなんともねぇ。」


「・・・。」


オレたちは黙って、身構えながら騎士たちの会話を聞いていた。

はっきりとは言っていないが、間違いなく、

こいつらは『例の組織』の計画を知っていそうだ。

あの菊池という騎士が、団長だった第二騎士団・・・

やはり、こいつらは『例の組織』の仲間たちなのか・・・

もしくは、勧誘されて、好条件に釣られて、

良いように踊らされているだけなのか・・・。


木下も同じことを考えているようで、

疑うような目で騎士たちを見つめている。


副団長に説得された騎士たちは、大人しく席に座り始めた。

とりあえず、今は、襲ってこないようだ。

あの副団長が冷静だったおかげで今は助かったが、

討伐軍の作戦実行とともに、オレたちを襲う可能性が高い。

油断はできない。




ゴゴゴゴッ ゴトゴトゴトゴトゴトッ




それから、しばらくは沈黙が続いたが、

その内、また騎士たちがお喋りを始めた。


「なぁ、お前、どの子がタイプなんだ?」


「やめとけよ。やつらに聞こえてるぞ。

またサムディに叱られたいのか?」


「これぐらい、いいじゃねぇか。」


「待てができねーのか、お前は。犬以下か?」


「発情してる犬は待てねーんだよ。」


「こいつ、開き直って、犬宣言しちまってるぞ。はははっ!」


「このっ!」


「おいおい、ケンカはやめとけ。罰として『待て』どころか、

『お預け』にされるかもしれねーぞ。」


「くっ! そぉ!」


やたらと、いきり立っている2人の騎士が、

お互いに立ち上がってケンカになりそうだったところを、

ほかの騎士がなだめている。

本当に・・・これが、この国の騎士なのか・・・。

オレより頭が悪そうに見える。いや、精神の問題か。

町の外にいた貧しい人たちの方が、まだ理性がある。


「それよりも、なんで中曽根は、

出発前に、今回の敵の規模の話をしなかったんだ?」


「そりゃ、俺たちがすでに分かってる話だからだろ。」


「バカ、違うだろ。」


「なにがだ?」


「傭兵たちがいたから、作戦前に余計な情報を与えないためだろ。」


「あー・・・そういうことか。」


「さすが参謀様だな。

俺が実力不足の傭兵だったら、聞いた瞬間に逃げ出すかもな。」


「そうだろうな。傭兵には討伐できない数だ。」


「でも、実際、どうなんだ? 俺たちの数も足りてねぇけどな?

いくら俺たちより弱い小鬼でも、8000は多すぎるだろ?」


「!」


今、聞こえたのは、敵の数なのか?

いや、そんな・・・そんなに多いわけ・・・。


「単純に数で負けてんだよな。なんで全帝国軍で挑まないんだろうな?」


「だから、中曽根が言ってただろ。帝都や貴族たちの住む街の警備まで、

討伐に行かせちまったら、討伐どころじゃなくなるって。」


「でも、それって皇帝や貴族たちにゴネられたんじゃないのか?

誰が俺たちを守るんだぁ!?この、へっぽこ!っつって。」


「あー、ハザード伯爵はくしゃくの口真似か。似てる! はははっ。」


「有り得る話だな。」


「3000対8000か。単純に、一人2匹以上倒せば勝てるだろ。」


「バカ、お前、それは傭兵の数も入れてるだろ。

傭兵たちなんて支援以外に役に立たねぇんだから。」


「そっか。傭兵たちは、200人か300人だったか?

それでも、俺たち一人3匹以上倒せばいいだけのことだろ。」


「俺なら5匹以上倒せるぜ。」


「俺は、10匹以上倒せるけどな。」


「言ってくれるじゃねぇか、賭けるか?」


「いいぜ。」


「俺も混ぜろよ。」


ガラの悪い騎士たちの会話は、バカ丸出しだな。

こいつら、まともに『ゴブリン』を討伐したことがあるのか?

1対1を5回とか10回やるのとはワケが違うんだぞ?

『ゴブリン』は数に物を言わせて、一人に対して数匹で攻撃してくる。

連携も、なかなかうまいやつもいる。

こちらも数で応戦して行かないと、実力者が数人いたところで、

圧倒的な数の『ゴブリン』たちに袋叩きにされるだけだ。


「おい、待てよ。小鬼なんてどうでもいい。

問題は、赤鬼討伐なんだからな。

小鬼はある程度倒せればそれでいいんだから、

小鬼で体力を使い果たすなよ。」


「鬼の強さはヤバいって聞いてるけど、

これだけの騎士を相手に生き残れるやつ、いるか?」


「そりゃ無理だろ。俺たちの圧勝じゃないか?」


こいつら・・・!

いくらなんでも相手をナメ過ぎている。

大勢の『ゴブリン』たち相手に、兵力が3000人のままで

赤鬼と対峙できるわけがない。半分でも生き残ればいい方じゃないだろうか。

騎士が1000人か2000人集まっただけで赤鬼を討伐できるなら、

とっくの昔に討伐されているはずだ。

つまり、赤鬼を討伐できるかどうかは、数ではない。

赤鬼にかなうほどの実力者が、帝国軍の中に

どれだけいるかどうか、だろう。


「誰が一番に討伐するか、これも賭けるか!?」


「それも俺だろうな!」


「お前なんて小鬼で体力使い果たすクチだろ。」


「一番美味しいとこは、サムディが持って行くんじゃないか?」


「またかよ。勘弁しろよ。」


「ぎゃははははー!」


騎士たちの会話を聞いているだけで、

この討伐が成功しないように感じてしまう。

ほかの団の騎士たちが、こいつらと違う思考、違う意思で

戦いに臨んでいることを願うしかない。


ガッタン! ゴトゴトゴトッ! ガガガッ!


馬車が激しく揺れる。

これだけ大きな馬車でも揺れるぐらい、道が悪いってことだろう。


「おい、揺らすなよ! ヘタクソか!」


「だったら、お前がやってみろ!

街道じゃない道を走ってるんだぞ!」


「はっはっは! 誰が操作してもいっしょだろ。」


御者を務めている騎士に、他の騎士たちが文句を言ったが、

どうやら馬車は今、街道ではない場所を走っているらしい。

それもそうか。『ゴブリン』の住処への道が、

舗装されている街道の先にあるわけがない。

きっと野原や人里離れた山の奥だろう。


「それにしても・・・菊池のやつ、どこ行ったんだろうな?

サボとキリトのやつもいっしょに・・・。」


「・・・。」


一人の騎士がボソっとつぶやいて、

オレは、少しドキっとしてしまった。

だ、大丈夫なはずだ・・・こいつらに、菊池の行方はバレていない。

オレたちが討伐してしまったことは知らないはずだ。


「お前、まだ言ってるのかよ。

俺なんて、あいつがいなくなって清々してるのに。」


「あのジジィ、本当に邪魔だったよなぁ。

偉そうで、うるせぇし。訓練もキツかったし。」


「そうそう。言ってることが無茶苦茶でよ。

酒を飲ませたら、もっとムチャクチャで。

話が意味わからなくて、無駄に長くてウンザリだったぜ。」


「はっはっはー、あれはウケたな! 笑い声が独特でよ!

誰もあいつとは飲みに行かなくなったもんな!」


「サムディだけが都合よく飲みに付き合わされてたから、

副団長に指名されちまったようなもんだよな?」


「うるせぇ、黙ってろ。」


「でも、あいつには世話になったよな、俺たち・・・。」


「ん? あぁ、この第二で、帝国の規律違反してないやつはいないだろ。」


「あいつが俺たちを生かしてくれたから、今の俺たちがいる・・・そうだろ?」


「何が言いてぇんだ、お前は。菊池に感謝しろっていうのか?

冗談じゃない。あいつは俺たちを引き取ってくれたんじゃなく、

違反をもみ消す代わりに、都合よく俺たちを利用してただけじゃねぇか。」


「そうそう、第二は犯罪者の集団だって、他の団のやつらに

見下されてばかりだっつーの。何も良い事なんてねぇよ。」


「でも、第二の陰口たたいてたやつらを

菊池が制裁してくれたから、今では陰口たたかれてねーだろ。」


「今回の『おもしろい作戦』も、あいつからの提案だったしな。」


「おい、黙ってろ!」


チャキッ! ざわわ!


いきなり副団長の男が、腰の剣に手をかけた!

周りの騎士たちが慌てて副団長の男を止めに入った!


「ひっ! 分かったよ! 悪かったって!」


「おいおい、サムディ! こいつらを黙らせるから、

剣を抜こうとするのはやめてくれ! なっ? なっ?」


「し、死体が出るのはマズいんだろ? な?」


「だったら、死体のように黙っとけ!

作戦を口にするな! バレたら、俺たちが死体になるんだからな!

何度も言わせるな。菊池がいなくなっても、俺たちの立場は変わってねーんだ。

立場をわきまえないと・・・。」


「ったく・・・サムディは菊池がいなくなってから、うぜぇな。」


「聞こえてるぞ。」


「分かったって。黙ってりゃいいんだろ。」


周りの騎士たちの説得で、落ち着いた副団長の男・・・。

斬られそうになってからは、本当に静かになった周りの騎士たち・・・。


しかし、この第二騎士団・・・こいつらが勝手にお喋りしてくれたおかげで、

こいつらの素行の悪さと、菊池との関係性がだいたい分かった。

なるほど。どうやら、こいつらは『例の組織』ではないらしい。

こいつらは何かと悪さをして、

帝国軍をクビにされるところを、あの菊池が救ってやっていたわけか。

そうでもしないと、あの老兵に、こんなガラの悪いやつらを

束ねることは難しいだろう。意思疎通ができていたとは思えない。

罪をもみ消して、恩を着せる・・・おそらく、こいつらは、

何度も違反をしているはずだ。そのたびに菊池がもみ消してくれるし、

実力でも菊池が一番強かっただろうし、第二騎士団は、

誰も菊池に逆らえなくなるわけだ。

菊池だけの権力では消せない事件でも、

裏に、参謀大臣の男がいれば、それが可能になるわけか。


・・・こうして、誰にも気づかれることなく、

ひとつの騎士団が乗っ取られてしまったわけか。

そして、ゆくゆくは、この国自体も・・・。




オレたちの馬車は、騎士たちがお喋りで騒いでいる内に、

一時間ぐらいで目的地へと着いた。

ここに停まった馬車は、第一と第二の騎士団を乗せた大型馬車の数十台のみ。

他の大型馬車がオレたちの馬車を避けて、左右へと分かれて走っていく。

半径700mのリング状の小高い丘を包囲するために、

ほかの騎士団や傭兵たちは、各配置につくために遠くへ移動していくようだ。


ガラの悪い騎士たちが先に馬車を降りていき、

オレたちもそのあとに続いて降り立った。

見上げるぐらいの小高い丘の前だ。

草木が生い茂っていて、これを一気に駆け上るのは、なかなか苦労しそうだ。


ゾクゾクッ


まだ距離があるから気配こそ感じないが、

この丘を越えたら、ナニかがそこにいる・・・。

そんな空気をオレは感じ取って、鳥肌が立っていた。

いや、むしろ、これだけ敵の住処に近づいたのに、

何も感じないことが異常だろう・・・。

見ると、ニュシェも尻尾がピンと立っていて、

小刻みに震えているようだ。

俺と同じで不気味な何かを感じ取っているのか。


周りの大型馬車からも大勢の騎士たちが降りてきた。

ひとつの騎士団だけで、300人ぐらいいそうだな。

第一と第二の騎士団を合わせると、ここにいる騎士たちだけでも

けっこうな大人数に感じる。


降りて来た騎士たちが話している声が聞こえてくる。


「敵の住処が近いというのに、小鬼どもを見かけなかったな。」


「最悪、作戦の配置へ着く前に戦闘になるかと

予想していたのに、はずれたなぁ。」


「こんなに近づいてるのに、小鬼どころか

生き物を見かけないなんて・・・

本当に、この丘を越えた中心が住処なのか?」


真面目な話をしているのは、第一騎士団のやつらだ。

第二の騎士たちと違い、早くも違和感に気づき、

隊列を整えている。さすがだ。


ここへ辿り着く前、外に何度か小さな気配を感じた。

きっと『ゴブリン』たちが草むらに隠れていたのだと思う。

襲ってくることは無かったが、それがかえって不気味だ。

誰もが感じているだろう。この異常な空気を。


ザッ ザッ ザッ ザッ ザッ


馬車が停車した瞬間から、騎士たちは

さっさと行動し始めていた。


「ここはもう敵地だ! 迅速に行動しろ!」


各団長か副団長らしき騎士たちが

そう言って騎士たちを指示している。


「お前たちは、我々の後方に待機だ。」


オレたちは、イカつい顔の騎士に、そう指示された。

たしか、第一騎士団の副団長だったか。


「ふぅ・・・。」


ふと溜め息をついたのは、木下だ。


「生きた心地がしませんでした・・・。」


「あたしも・・・。」


木下だけじゃなく、アルファやニュシェも

ずっと馬車での移動中に身構えていて、今、ようやく緊張が途切れたらしい。

かくいうオレも、今は少しホッとしている。

いつ襲ってくるか分からない獣たちの牢屋から、

解放されたような、そんな気分だ。

第二騎士団のやつらも、ほかの騎士団がいる前では

危害を加えてこないだろう。だからこそ、今だけ安心できる。


「それにしても・・・移動前に、

テオフィラ様へご忠告ができませんでした。」


アルファが、少し落ち込んでいる。

たしかに、作戦前に面会できる機会はないと思っていたのに、

あんな形で面会する機会が与えられるとは思っていなかった。


「急展開過ぎて、忠告するひまがなかったな。」


オレはアルファにそう話しかけたが、


「私は、アルファさんの素性がバレるのではないかと、

そればかり気にしてしまって、ドキドキしてました・・・。」


木下が、そう言って肩を落とす。

たしかに、そういう危険もあったな。

アルファは、ずっとフードを深く被っているし、

口元をバンダナで覆い隠しているため、

オレは、どこか安心しきっていたが。


「油断するには、まだ早いぜ。

作戦が開始されると同時に、あいつら、きっと

俺たちに襲いかかってくるつもりだろうからな。

その時には、アルファさんの正体も気づかれちゃうかもしれないし。」


シホだけが、まだ緊張したままだ。

しかし、シホの言う通りだろう。

馬車内での会話からして、実際の帝国軍の作戦と、

『例の組織』の計画実行は、同時に開始されるような雰囲気だ。


「例の計画のことを、第一騎士団の方に伝えてみてはどうでしょう?

このままでは、きっと第一騎士団にも被害が及ぶ危険性が・・・。」


アルファは、そう言ったが、


「第二騎士団が『ソウルイーターズ』の計画に加担しているのは、

なんとなく分かりましたが、第一騎士団に、同じような者たちが

いないという保証がありません。」


木下が、そう答えた。

そうなのだ。誰が味方で、誰が敵なのかが、はっきりと分からない。

だから、密告すら容易ではない。


「例の計画を第一騎士団が知らないとしたら、

計画そのものが達成できない可能性が高くなるのではないでしょうか?

王女の背中を守っている第一騎士団の協力なしでは、

第二騎士団だけで例の計画を達成することが難しいと考えます。」


木下が、自分の推測を小声で話してくれた。


「つ、つまり、第一騎士団も第二騎士団も

例の計画に加担していると・・・?

そ・・・そんな、こと・・・。」


アルファが否定しようとしているが、言葉が続かないようだ。


「ありえないこともない、といったところか。」


「そう考えて行動したほうがいいよな。」


オレもシホも木下の推測に賛成した。


「まだ断定できないと思うでござるが、

最悪の事態も考えて行動しなければ、ということでござるな。」


ファロスがアルファの気持ちを汲んだような、

そんな言葉を選んで賛成したように聞こえた。

大昔とはいえ、元・帝国軍だったアルファなら、

騎士団の裏切りを疑うことすら、ツラいだろう。

もしも、オレが同じ立場なら・・・

やはり仲間を疑うことはしたくない。


「アルファさん、第一優先は、王女のお命を守ること。ですよね?」


「・・・はい、そうです。それが何よりも最優先です。」


木下が、アルファの気持ちを確認した。

帝国軍を疑いたくない気持ちを優先させず、

当初の目的を忘れてしまわないように。

木下の言葉で、アルファが冷静さを取り戻したように見える。


「あくまでも、私の予想ですが、

第一騎士団と第二騎士団が、例の計画を実行するとして、

討伐軍の作戦自体を大幅に変更することはしないと思われます。

例の計画では、赤鬼もろとも王女を・・・という内容なので、

あの参謀大臣が言っていた通りに、討伐軍は進軍するでしょう。

そうしなければ、赤鬼を討伐できなくなるからです。

ですから、王女や私たちが、いきなり襲われる可能性は

極めて低いかと・・・!」


「おい、お前ら!」


オレたちが円陣を組むようにして、ヒソヒソと話し合っている時に、

第二騎士団の、あの副団長が近づいて声をかけてきた。


「な、なんでしょうか?」


シホが、ヘラヘラした笑顔で対応する。

あからさますぎるが、第二の副団長は気に留めていない。


「馬車から回復薬が入った荷物を下ろせ。

大量に入っているから相当な重さだが、ここからは

お前らが運ぶんだぞ。俺たちの大事な回復薬だからな。

落として台無しにするんじゃねぇぞ!」


「はい。」


シホだけが返事をして、オレたちは静かに指示に従った。

大型馬車の荷台から、大きな荷物を下ろす。

人間一人が丸まれば、すっぽり入れそうなほど、大きな木箱が二つ。

木箱は、ベルトが付いていて背負えるようになっている。

表には『第一騎士団』と『第二騎士団』と書かれている。


「中身が同じ回復薬なら、わざわざ分けなくてもいいのにね。」


荷物を下ろしながら、ニュシェが鋭いことを言った。

たしかに、そうだ。どうせ同じ回復薬しか入っていないなら、

どっちを使っても同じだろうに。


「中身は同じでも、所有者は同じではない。」


「えっ!」


いつの間にか、荷物を下ろしているオレたちの後ろに、

あのイカつい顔の騎士が立っていた!

こいつ、気配を消せるのか!?

たしか、第一の副団長・・・!


「お前たちにとっては同じだと思うだろうが、

俺たちは各団ごとに、使える経費が割り振られている。

その回復薬は、各団が経費で購入、保管している物だ。

間違っても、第一の回復薬を第二のやつらに使うな!

その逆も同じだ。第二の回復薬を我ら第一の者たちには、決して使わないように!

そして、当然のことだが、その中に入っている回復薬は

われわれ帝国軍の所有物だ。お前たちが怪我をしても勝手に使用しないように。

今回の討伐の後で、使用回数や使用した個数を提出してもらうからな!

数が合わなかったら・・・それなりの処罰を覚悟しておけ。」


そう言い残して、イカつい顔した騎士は

第一騎士団のほうへと戻っていった。


「び、びっくりしたぁ・・・。」


ニュシェがドキドキしながら、そう言った。


「あ、あぁ、今のはあせったな。」


オレも同様にドキドキしていた。

まさか気配を消して近づいてくるとは!

わざと、だよな。オレたちが変なことを話し合っていないかを

わざわざ確認しに来たのだろうか?


「それにしても、なんで細かい作業を押し付けてくるかなぁ。

各団ごとに使える回復薬の個数が違うってことか。

討伐中、全部、カウントしなきゃいけないって、メンドくせぇー。」


シホがさっそく愚痴をこぼしている。


「しかも、第一と第二の騎士たちを判別して使用しないといけないとは・・・

戦闘中の混乱で、判断があやまる可能性が高いでござるなぁ。」


ファロスもシホの愚痴に付き合っている。

しかし、2人の愚痴には、うなづける。

第一と第二の騎士で、回復薬を使い分けて、

その回数と個数をあとで書類にまとめて提出しなければならないのか。


「『ソウルイーターズ』の計画が気になりますが、

討伐軍の討伐を成功させるためにも、こちらはこちらで

間違わないように取り組む必要がありますね。」


木下は、すぐに考えを切り替えているようだ。


「そうですね・・・討伐を成功させるために。

まず、回復薬の回数や個数のカウントですが、

第一の回復薬を私が、第二の回復薬をユンムさんが管理しませんか?

二手に分かれて管理したほうが、数が混合しなくなると思われます。」


アルファも、すでに考えを切り替えて、

討伐軍の作戦の成功のために、荷物の管理法を考えているようだ。


「そうですね、それがいいと思います。

第一の荷物をアルファさんが、第二の荷物を私が管理して、

ほかのみなさんは、戦線で怪我人が出た場合、すぐに

怪我人を私たちのところへ運んでください。

その際、本人の意識があるようなら、第一か第二かの確認をしてほしいのです。

第一の人はアルファさんへ、第二の人は私の方へ運んでください。」


木下が、そのように指示してきた。

なんとも頭の回転が早い。

あの副団長の無茶ぶりに、もう対応できている。


「分かった。」


「分かったぜ。」


「分かったでござる。」


ファロスたちは、すぐにうなづいた。

オレも返事をしようとしたが、


「おじ様は、3人の支援に回ってください。

そして、王女の行動やその周辺の動向を見張ってください。」


「!」


木下は、オレにみんなと違う指示を出して来た。

それは・・・王女に何かあれば、オレが真っ先に動け・・・ということか。

素早く動けるファロスのほうが適任だとは思ったが、

王女を守るという大役・・・パーティーのリーダーであるオレに

華を持たせたつもりか。


「分かった。」


オレはチカラ強くうなづいた。


オレたちの準備が整った頃、

オレたちの前に整列している騎士たちが

静かになっていることに気づく。

もう騎士たちも準備が整ったということだ。

騎士団の先頭の方は、人混みもあるし距離もあって、よく見えないが、

王女も参謀の男も、誰も騎馬に乗っていないようだ。

さすがに目の前の丘の勾配こうばい

厳しすぎて、馬では乗り越えられないと判断したか。

つまり、ここからは、全員が走って登ることになるんだな。




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