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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第五章 【エルフの赤雷と怠惰の赤鬼】
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討伐軍の作戦会議





ざわざわざわざわ


王女の挨拶のあと、周りは慌ただしく準備のために動き始めた。

オレたち傭兵は、あの参謀の男の言う通り、

最初の受付があった場所に集まっていた。

受付のテーブルを大勢の傭兵が取り囲む。

そのテーブルには、受付をしていた若い騎士がいる。

やつが第八騎士団の副団長だったのか。

20代ぐらいの若者。オレから見ると頼りなく見えてしまうが、

あぁ見えて副団長になれるほどの実力があるのかもしれない。


待機している間も、ちらちらと周りの傭兵たちを観察していたが、

集まった傭兵たちを、改めて見渡す。

けっこう目立っているパーティーが何組かいる。


大柄の男たちのパーティーは、角があるようなかぶと

そして、大きな斧・バトルアックスを背負っている。

7人か8人か、同じ装備の男たち。

パーティー全員で装備をそろえると統一感が出ているな。

男たちの口の周りには真っ黒で長いヒゲがモサモサに生えていて、

ぱっと見たら傭兵というより山賊か海賊の集団に見える。


女性だけのパーティーもいる。

髪型も髪の色も、様々な形、様々な色をしている。

少し肌の露出が多い軽装備。その分、体の筋肉が見える。

なかなかの筋力を持っているようだ。

武器は、大きくて重そうな剣・・・あれはバスターソードか。

あんな細身の女性が扱えるモノなのか。すごいな。


他にも、真っ黒なパーティーがいる。

真っ黒というのは、装備品が全て黒色で揃えられている傭兵たちだ。

服も、軽装備の鎧も、肩当ても手甲もブーツも、すべて黒色。

顔も頭から真っ黒な布のようなモノでグルグル巻きになっていて、

布の隙間から覗いている目だけが黒くない。

初めは、ここの帝国軍たちの鎧も黒いから傭兵に見えなかった。

ペリコ君みたいな『スパイ』たちの格好に似ている。

暗殺者の集団・・・見た目だけで判断するなら、そんな印象だ。


男女2人だけのパーティーもいた。こちらも若いな。

装備品からして、オレと変わらないぐらいの軽装備。

やたらと2人の距離が近い。完全にデキてるだろ。

というか、人目もはばからず、ハグしたりしてイチャイチャしている。

恋人か? 夫婦なのか?

とにかく今から戦場へ向かう空気ではない。


男2人に女が1人のパーティーもいた。

ふと、『レステカ』で共に戦った『マティーズ』という

3人パーティーのことを思い出した。

リーダーの男が大怪我をして・・・あれから退院できたのだろうか?

一度だけ見舞いに行ったが、『レスカテ』を離れる際に、

もう一度、見舞いに行けたら良かったな。

こっちの3人パーティーは、男2人が双子のようだ。

顔がそっくりすぎる。女性の方は、男たちより少し年齢が上か。


他にも様々なパーティーがいる。

この国の各地の『ヒトカリ』で認められ、依頼を受けた傭兵たち。

強そうな者たちもいれば、弱そうに見える者たちもいる。

オレと同じくらいのおっさんも何人か見かける。

若者たちばかりじゃなくて、少しほっとしている自分がいる。


「傭兵のみなさーん! 注目してくださーい!」


大勢の傭兵たちに囲まれた若い騎士が、大きな声を出すが、

周りの傭兵たちの騒音のほうが大きくて聞き取りにくい。


「おら! 騎士様の説明が始まるぞ! みんな、静かにしろぉ!」


大柄の男が、まるで怒鳴っているかのような大声を上げた。

その声がしっかりと周りに伝わり、一瞬にして傭兵たちが静かになった。

あの大柄の男たちのリーダーだろうか?

ヒゲが多すぎて年齢が分からないが、声だけならオレと変わらない年齢か。


「あ、ありがとうございます・・・。」


大柄の男の声に、逆に若い騎士が萎縮いしゅくしてしまっている。


「で、では、説明させていただきます!

討伐軍の作戦は、至って単純です。

ここより北に『ゴブリン』の住処があり、そこの地形は、

小高い丘に囲まれた低い土地になっています。

我々、討伐軍は、その低い土地を囲むように進軍し、

小高い丘から一気に、中心の低い土地へとなだれ込む。

包囲戦になります。」


少しおどおどしながらも、若い騎士は

テーブルに、この周辺の地図を広げて説明を始めた。

傭兵たちはみんなで取り囲んで、それを覗き込む。

『ゴブリン』の住処が低い土地の中心で・・・

周りが小高い丘・・・リング状になっている丘を乗り越えていく時点で、

相手からは、絶対、こちらの姿が見えてしまうわけだな。


「その作戦だと、小高い丘を越えた時点で『小鬼』たちからは

討伐軍の姿が丸見えで、逃げられちまうんじゃないか?」


さっき大声で、この場を制した大柄の男が、

若い騎士にそう言った。


「え、あ、いや、あの、その・・・こ、今回の作戦は包囲戦なので!

丘を越えた時点で、こちらの姿が敵から見えたところで、

敵はどこにも逃げ場がありません!

だから、その、丘を登り始めたら、一気に登り切り、

そこから立ち止まることなく、中央へと攻め込む作戦となってます。

おそらく中心に、主犯の赤鬼がいるはずなので、

『ゴブリン』ともども赤鬼を逃がさない、と。

そ、そういう作戦になってます!」


若い騎士が、少し大きな声で答えた。

大柄の男の声に負けないように、必死のようだ。

しかし、聞けば納得。

オレと同じ考えだった大柄の男も、答えを聞いて納得したようだ。


「つまりは、ギャッと走って、ビャッと殲滅するわけね。

さすがだわー。」


女性だらけのパーティーの、緑色の長い髪をした女性が

よく分からない擬音を使って、つぶやく。

何を言っているのか分からないが、自分なりに解釈して

納得しているようだ。


「失礼ながら、口を挟ませていただくが、

事前に敵の居場所が分かっていて、包囲戦法でいくならば、

丘を越えていくよりも、丘の外から内側へ向かって、

遠距離魔法や弓の遠距離攻撃で先手を打つというのは、

いかがだろうか?」


今度は、全身真っ黒な装備の男がそう言いだした。

声からして、まぁまぁ歳をとっていそうな気がする。

黒ずくめの装備の男が言った作戦は、有効そうな気もするが、

それだと・・・


「え、ぃや、その、こ、この地図で見ても分かるように、

『ゴブリン』の住処は、小高い丘に囲まれています。

丘の高さは、約100mほどですが、その奥行きは約250~300mに及びます。

丘の外から敵の住処までの距離が、約700m。

まず、丘を越えないことには敵の姿が見えないし、距離が離れ過ぎているので、

遠距離魔法を当てることは不可能です。

弓の集団攻撃にしても、その有効距離は約300mです。

中心部まで距離が遠すぎて届きません。

丘の外から魔法や弓攻撃を闇雲に放ったとしても、命中率が低すぎますし、

魔法や弓を丘の外で使った瞬間、まるで蜂の巣をつついたように、

住処から『ゴブリン』たちが丘を越えて来ると予想されます。

そうなったが最後、帝国軍が戦線を形成する前に、

『ゴブリン』たちと乱戦になり、傭兵のみなさんも戦闘に巻き込まれます。

そうして、我々の包囲を突破されて、

『ゴブリン』たちを一網打尽にする作戦が失敗します。

少数の『ゴブリン』たちが包囲から逃げてしまうのは、

それほど問題ではありませんが、赤鬼が包囲から逃げてしまった場合・・・

討伐するチャンスを失ってしまいます・・・。」


「むぅ・・・たしかに。」


そうなるだろうなとオレも予想していたが、若い騎士も分かっていたようだ。

いや、元々、この作戦を考えたのは、この若い騎士ではないだろう。

あの参謀の男か。参謀大臣だけあって頭がいいのだな。

若い騎士の説明に、黒ずくめの装備の男も納得している。


「あの、えーっと、その・・・魔法や弓の先制攻撃は、

確実に当てられる距離、丘の上を通過した瞬間に

各団の精鋭たちが放つ予定ですので、

その、あの、助言、ありがとうございます。

ですが、その、この作戦は、もう参謀大臣によって決定されたもので、

今さら作戦の変更はありませんので、ご、ご容赦ようしゃください。」


若い騎士は、黒ずくめの装備の男が気を悪くしないようにと

言葉を選んで話している気がした。

帝国軍は、昨夜会ったような騎士ばかりかと思ったが、

こんな優男やさおとこもいるのだな。


「では、このまま、せ、説明を続けます。

みなさんには進軍する帝国軍の各団の後ろについていただいて、

補給物資の運搬、そして戦闘で負傷した騎士たちを前線から後方へ運び、

傷ついた騎士たちへの回復魔法、または回復薬の使用など、

後方支援、補佐役として活動していただきます。」


「よかったぁ。後方支援って聞いてたのに、

戦わされるかと思って心配しちゃったぁ。」


「僕がそんなことさせないよ、ハニー。」


「うん、ダーリン。うふふふ。」


イチャイチャしているカップルパーティーが

勝手に喋り始めて、勝手に自分たちの世界でお楽しみのようだ。

・・・うんざりしているのはオレだけではない。

この場にいる傭兵たちが、カップルパーティーを

白い目で見たり、しらけた表情で無視している。

本当に、何をしに来たんだ、こいつらは・・・。

緊張感が足りない。


「おじ様。」


「ん?」


後ろにいる木下が小声でオレを呼ぶ。


「討伐軍の作戦だと、私たちは完全に騎士団の後方でしか活動できません。」


「う、うむ・・・。」


木下の言う通りだ。あの参謀の男の説明を聞いた時から、

そういう流れになってしまうと感じている。


「このままではテオフィラ様を守れないのではないでしょうか?」


木下の横にいる、ニュシェに背負われているアルファが小声で、

木下とオレの会話に加わった。

そうなのだ。

今回、オレたちが早く東へと向かう予定を変更して、

この討伐軍への参加依頼を受けたのは、半分は、

『ヒトカリ』のあの支店長に、強引に引き受けさせられたのもあるが、

もう半分は、王女の命を狙っている『例の組織』の計画を、

アルファがどうしても阻止したいと願っていたからだ。

このままの流れでは、最前線で戦うであろう王女の命を

守ることができない・・・。


「進軍前に、王女へ会いに行くというのはどうですか?」


そう、アルファが提案した。


「たしか、王女の鎧が魔道具の鎧から

普通の鎧にすり替えられてるっていう計画だったよな。

討伐前に、それを知らせれば、『例の組織』の計画を潰せるよな。」


アルファの後ろにいたシホがそう言った。

アルファの提案に賛成のようだが、


「私も、それしか方法がないと思いますが、

問題は、私たち傭兵が、どうやって王女と面会するか、ですね。」


木下が、アルファの提案の問題点を突いた。

そうだ。オレたちは傭兵。一般人だ。

王族や貴族じゃない限り、王女に接近する前に

騎士たちに捕まるだろう。


「私ならば・・・あ、私も傭兵でした・・・。」


どうやら、アルファは自分が

帝国軍の騎士であると錯覚していたようだ。

大昔はそうだったのだろうが、今は違う。

むしろ、のこのこと王女に近づいて捕まってしまうと、

過去の罪まで掘り起こされて、処刑されるかもしれない。


「ふぅ・・・。『例の組織』の計画を阻止するために

討伐軍に参加してみたものの・・・。」


オレは小さく溜め息をついた。

木下やアルファでも良案が思いつかないのであれば、

頭の悪いオレに思いつけるはずもない。

討伐軍参加の依頼を受ければ、なんとかなると、

簡単に思っていたが、浅はかだったか。


「かくなる上は・・・討伐が始まってから、

戦闘のどさくさに紛れて、王女の後方へ接近して、

王女を守るしかないかもしれません。」


アルファがそう言った。


「し、しかし、傭兵は騎士団の邪魔をしてはならないと、

あの参謀大臣が・・・。」


木下がアルファの無謀ともいえる提案を否定しようとしたが、

アルファの真剣な目を見て、それ以上、言えなくなった。


「ここまで来たら、それしかないかもな。

王女より前へ出なければいいだけで、それも立派な後方支援だろうし。」


「シホさんまで・・・。」


シホも、アルファの提案に乗った。

木下が困った表情になっているが、

半ば、諦めているようにも見える。

木下が考えても、アルファと同じ提案しか思いつかないようだ。


「危険ではあるが、元々、それを覚悟で

ここへ来ているわけだからな。腹をくくるしかないな。」


「・・・はい。」


オレがそう言うと、木下も観念したようだ。


「て、帝国軍は、第一騎士団から第八騎士団まであります。

あの、その、みなさんは今から帝国軍の各団の後方へ移動していただきます。」


オレたちがこそこそ話しているうちに、

若い騎士が、傭兵たちの配置先を紹介しようとしていた。


「あとは、拙者たちが、

どの騎士団の後方へ配置されるか、でござるな。

王女のいる騎士団から近ければいいのでござるが・・・。」


ファロスが小声でそう言いだした。

たしかに、アルファの提案どおりに実行するとしても、

守るべき王女から離れたところへ配置されてしまえば、

ますます王女に近づくことが難しくなる。


「後方支援の詳細につきましては、各団の方々からの指示に従ってください。

そ、それでは、今からパーティーごとに配置先の、ご、ご案内を・・・。」


「ちょっと待て!」


「え!?」


「!」


若い騎士が、今からオレたちの配置先を説明する時に、

その若い騎士の後ろから、ほかの騎士が割って入って来た。

見覚えのある、ガラの悪い騎士だ。こいつは、昨夜の・・・。


「あ、あいつ・・・!」


シホも気づいたようだ。

たしか昨夜、宿屋の食堂でオレたちに話しかけてきた騎士の一人だ。


「おっ! へへっ、本当にいやがったぜ。」


そのガラの悪い騎士とオレの目が合ってしまった。

相手が、あからさまに「見つけたぞ」というような表情になった。


「そこのジジィがいるパーティー!

なんだっけ? 『森のくまちゃん』だったか?

お前らは、俺たち第二騎士団の後ろに配置だ!」


ガラの悪い騎士が、オレたちを指名してきた!

これは・・・何か悪い流れのような気がする。


「ま、待ってください!

今から傭兵たちに、は、配置の指示を出すところですが、

そちらのパーティーは第六騎士団の後ろに配置が決まってまして!

勝手な作戦の変更は・・・!」


「あ? 第八のくせに、第二の俺に意見するのか!? てめぇ!」


「ひっ・・・い、いや、で、でも、しかし、ですね!

こ、この作戦は、参謀大臣の指示でして・・・。」


「いやいや、今回の討伐軍では、臨時で

その参謀大臣が、俺たち第二の代理団長になってんの、忘れたのか?

これも、その参謀大臣の命令だぞ!」


「えぇ!? そ、そうなのですか・・・?」


「時間がねぇんだから、邪魔すんな!

おい、そこのおっさんパーティー! ほら、さっさと俺についてこい!」


若い騎士が何か反論したそうだったが、

指示を出しているのが、あの参謀大臣だと聞かされて、

何も言えなくなってしまったようだ。

オレたちも、この場では、あのガラの悪い騎士の指示に、素直に従うほかない。

これだけ他の騎士たちもいる中だ。

ガラの悪い騎士も、ここで俺たちをどうこうするとは思えない。

・・・たぶん。


ぎゅっ


「!」


ニュシェがオレの手を強く握って来た。

獣の耳が垂れ下がっており、表情が強張っている。

不安がっている。


「大丈夫だ。行こう。」


「うん。」


オレは気休めにしかならない言葉をニュシェにかけて、

手を握りかえした。


「うん。」


ニュシェに背負われているアルファと目が合ったが、

アルファは力強くうなづいた。

何かあるかもしれないが、覚悟しているという表情だ。


オレたちは、ガラの悪い騎士の後をついていく。


「・・・もう逃がさねぇぞ。」


ガラの悪い騎士が、独り言をつぶやいたようだが、

ボソボソ声で、オレには聞こえなかった。




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