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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第五章 【エルフの赤雷と怠惰の赤鬼】
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討伐軍、集結!





オレは、明け方前になってからファロスに起こされ、

交替して夜の見張り役をしていた。

もっと早くオレを起こしてくれたらよかったのだが、

どうやら、シホのやつがファロスの肩に寄りかかって先に眠ってしまい、

ファロスは身動きがとれず困っていたらしい。

困っていた・・・か。まだ脈無しだな、シホ。

寝不足のファロスには申し訳ないが、とりあえず朝まで異常なし。

それでも陽が昇る直前には、オレが起こさずとも

ファロスは自分で起きて来た。若いな。

そして、ニュシェとアルファも起きてきたところで、

早朝鍛錬をおのおのおこなった。


陽が昇り、じわじわと暑さが増す。

今日も暑くなりそうだ。


今朝のアルファは・・・アルファのままだった。

昨夜はアルファの人格のまま眠ったから、今日は目覚めたら

ブルームの人格になっていると思っていたが。

本人にも、そういう調整はできないだろう。

先日、ブルームが言っていたように、本当に

ブルームが表に出てくる時間が短くなっているようだ。

それは、本人にとって、悪い事でもないだろうが・・・

実際のところ、オレには何が正解なのかが分からない。


シホのやつは途中で起きてきて鍛錬に参加していたが、

動きが鈍く、ただアルファといっしょに歩いているだけだったようだ。

あれでは何の鍛錬にもなっていない。朝の散歩だ。

朝に弱いようだな、シホは。


準備を整え、町『アンザー』へ歩いて入る。

出入り口の数人の騎士たちは、

オレたちをチラリと見ただけで何も調べず通してくれた。

昨夜の宿屋での一件は、特に大きな騒ぎになっていないようだ。

それが分かっただけでも、木下とアルファは安心した様子だった。


昨夜のように宿屋の中の食堂ではなく、

普通の飲食店を探して、簡単に朝食を食べた。

そこの店内も騎士たちが大勢いたが、昨夜のように

粗暴な騎士たちはおらず、騒がしくもない。

オレたちのような一般客も安心して食べていられる雰囲気だ。

やはり、あの宿屋に泊まっていた騎士たちだけが、

少し異様だったのかもしれない。




オレたちは朝食後、町で戦闘に必要そうな道具の買い物を

軽く済ませてから、銀行へと立ち寄った。

木下が言うには、大きな荷物を預かってくれるという。

ただし、お金が必要との事。

昨夜のうちに宿屋へ泊まれれば荷物を置いて来れたのだが、

今から空いている宿屋を探す時間もないので、仕方なく、

銀行でお金を払い、荷物を預けておくことになった。

銀行という店は、何かと便利な店なんだな。

今まで金持ちがお金を管理してもらうための

高級なお店としか思っていなかったが。

いや、何を頼むにしてもお金がかかるわけだから、

金持ちのご用達の店であるのは間違いないか。


それから、通りを歩いていた騎士たちに道を尋ねて、

討伐軍が集まっている駐屯所ちゅうとんじょへと向かう。

意外にも駐屯所は、町の中ではなく、町の外の北側だということで

オレたちは町から出て、そこへ向かった。


ざわざわ ざわざわ ざわざわ


ただ広い大草原が広がっている場所に、

まだ集合時間前だが、多くの人が集まっていた。

まるで大人気の演劇団が催し物をする会場みたいな、

もしくは、大きなお祭りで賑わっているかのような人だかり。

しかし、その場の空気は、陽気なものではない。

殺気立っているやつ、興奮しているやつ、気合いが入っているやつ・・・

人々の異常な熱気が、ここに渦巻いている感覚。

集まっているのは、騎士たちだけでなく、

オレたちのような傭兵の軽装備をした者たちも大勢見かけた。

それでも、圧倒的に数が多いのは騎士たちだ。

黒い鎧の大集団だから余計に不気味に感じる。

いったい何人集まっているんだ?

100や200の規模ではない。

1000人? いや、それ以上か?


「ニュシェちゃん、しっかり手を繋ごうね。」


「うん。」


アルファを背負っているニュシェが人混みで、

はぐれてしまわないように、木下がニュシェと手を繋いで歩く。

ニュシェは、少し緊張しているようだ。アルファの表情も硬い。

これだけの人間の人混みは、滅多に無いことだからな。

大勢の人だかりの中に、『傭兵参加受付』と書かれた旗が見えた。

『ヒトカリ』で受けた依頼書を、あそこで受付しているようだ。

みんなで旗を目指して、人混みの中を進んでいく。

それにしても人が多すぎる。すれ違うのも一苦労だ。

騎士たちからだけでなく、傭兵たちからも、

まるでオレたちを品定めするかのようにジロジロと見られている。

多くの視線を感じる。


旗のそばには受付のテーブルが置かれてあって、

すでに大勢の傭兵たちが並んでいた。

受付には、新人らしき若い騎士たちが3人立っていた。

たどたどしさもあるが、ハキハキと説明してくれているらしく、

しっかり受付の役割を果たしているように感じた。

オレたちの番になって、木下が依頼書を渡すと、


「え、Aランク!?」


ざわわっ


一人の騎士があげた驚きの声に、周辺の者たちが反応して

一気にオレたちへの注目が集中した。

はぁ・・・ここでも、か。目立ちたくないのに。


「Bランク以上の傭兵は、

みんな国外へ追放されてしまったんじゃないのか?」


「あいつらは流れの傭兵だろ。

最近、この国へ流れて来たんじゃないのか?」


「あー、たしか、半年以上滞在しているAランク以上の傭兵は

この国から追放するっていう、おかしな条件は

最近になって、やっと撤回されたらしいな。

ようやくBランク以上の傭兵が戻ってきたのかな。」


「傭兵なんて、と思っていたが、ウジャウジャいる『小鬼』討伐のために、

あぁいうやつらが戻ってきてくれると助かるよな。」


「それにしても、あいつら、Aランクには見えないな。」


「傭兵なんて、どいつもこいつもいっしょだろ。」


「おい、まさか、あいつらじゃないのか?

最近『ヒトカリ』でウワサになってる、ランク急上昇パーティーの・・・。」


「え!? あいつらが『森のくまちゃん』なのか!?

この国に来てたのか!?」


「同じ傭兵として、心強いな。」


「聞いた情報と、だいぶ違うなぁ。

男女2人だけのパーティーじゃなかったか?」


「そりゃ古い情報だろ。たしか、男一人で

3人の女をはべらせてるハーレムパーティーだってウワサだったぞ。」


「だったら、その情報も違うだろ?

あいつら男が2人もいるパーティーだぜ。」


「あのおじさんはどうでもいいけど、あっちの男はけっこうイケメンかも。

あの人がリーダーなんじゃない?」


「私もパーティーに入れてもらおっかな。」


「あんたじゃダメでしょ。見なさいよ、あの美人ぞろい。

あのイケメン、相当な面食いだわ。」


ざわざわ ざわざわ


「はぁーぁ、好き放題言われてるなぁ。」


「め、面食い・・・。」


たちまち周りの騎士たちと傭兵たちのウワサ話が聞こえてきた。

シホが溜め息して、うんざりする気持ちが分かる。

若い騎士が受付作業を終える間、オレたちは居たたまれない気持ちになる。


「傭兵は、このあたりで時間まで待機してほしいそうです。」


受付が終わり、若い騎士からの説明を聞いていた木下が、そう言った。

言われてみれば、この辺りは、騎士よりも傭兵たちの方が多い。

みんな受付を終わらせて待機しているやつらか。

大勢が集まっている中で、何もせず待機しなければならないわけだから、

自然と、受付にくる傭兵たちを何気なく観察してしまう。

オレたちが目立っていたわけじゃなくて、みんな、ヒマだったから

注目していただけだったのか。


しかし、受付が終わってからも、オレたちはずっと注目の的になっていた。

ヒソヒソと、こちらが聞こえていないと思っているのか、

ずっとウワサ話が聞こえてくる。

ただの名ばかりの『Aランク』というだけで・・・。

本当に・・・『レッサー王国』のバカ王子から始まり、

『レスカテ』のヒゲ支店長のせいで、どこへ行っても

注目を浴びることになってしまった。

あいつらのせいで・・・!


ざわわ


「ま、間違いない。あいつが『殺戮さつりくぐま』だ・・・。」


「怖ぇ・・・。」


「しっ。聞こえたら殺されるぞ。」


「目を合わせたらヤバイ。」


オレが考え事をしているうちに、

いつの間にか、周りのウワサ話は聞こえなくなっていった。

相変わらず騒がしいが、オレたちの方を見なくなった気がする。

たしか、『人のうわさも、ナントカ』だったか。

格言好きな先輩が言っていた。

ウワサなんてものは、そんなに長く続かないものだと。

気にしないことが一番か。


「おじさん、顔が怖いよ。」


「え?」


ニュシェに言われて、つい考え込んで

表情が硬くなっていたことに気づいた。


「そ、そうか。つい考え事をしていてな。」


もしかしたら、周りのやつらにも

良くない印象を与えてしまっていたのかもしれない。

そうして良からぬウワサが、また増えたりしてな。




「あっちーな。まだかな。」


シホが手で顔をパタパタとあおいでいるが、

それだけでは暑さをしのげないほど、気温が上がってきている。

日陰が無い、広い草原に大勢の人数が集まっていると、

気温のせいだけじゃなく、人の熱気に包まれて、さらに暑く感じる。

オレたちだけじゃなく、周りの傭兵たちも

この暑さで、グダグダとだらけている。

騎士たちの方が重装備で暑そうだが、さすがにだらけている者はいない。


予定の時間が迫って来ると、乱雑に集まっていた騎士たちが

徐々に、整列しはじめて、隊列で並び始めた。

傭兵たちも・・・と思ったが、傭兵たちは誰も列を作ろうとしない。

だらだらと集まっているだけだ。

傭兵たちに、キレイに並ぶという、そんな決まり事はないのだが、

騎士たちが隊列を作っている中、こちらが動かないというのは・・・

落ち着かないというか、ソワソワするというか。

やはり、こんなオレでも『なんちゃって騎士』なのだな。


ざわざわ・・・ ざわざわ・・・


そのうち、騎士たちのお喋りが少なくなってきた。

今、ざわざわしているのは、こちらの傭兵たちだけだ。

騎士としては当たり前なのだが、キレイな隊列に、私語を慎む姿勢・・・

見事、統制が取れている。

傭兵たちも、この空気に飲み込まれるようにして、

少しずつお喋りが少なくなってきた。

オレは、自然と、騎士たちが向いている方向に体を向けた。

人が多すぎて、オレたちからは見えないが、

おそらく、騎士たちが向いている方向に、高台があって、

時間になれば、上官がそこに姿を現すことだろう。


「な、何か始まるのかな?」


ニュシェが周りの空気に飲まれて、緊張している。


「おそらく偉い人が出てきて、説明してくれると思いますよ。」


木下がニュシェに分かりやすく説明している。

偉い人・・・上官・・・

いや、まさか、昨夜の少し派手な服装の男じゃないよな?


「注もーーーく!」


「!」


ザッ ザザザッ ザザザッ


遠くの方から誰かの号令の声が響き渡り、

整列していた騎士たちが、足元から姿勢を正していく。

たったそれだけの動作だが、これだけの人数が同じ動作をすれば、

それだけで大きな足音が響き渡る。


ざわわっ


騎士たちとは逆に、周りの傭兵たちのざわついた声が大きくなる。

ニュシェが驚いて、獣の耳がビクビクっと動いている。

周りの傭兵たちも、周りの空気を察して、

ようやく声がした方向へ向きだした。


そして、オレの予想通り、騎士たちが向いている方向に、

偉そうな人物が高台に上がって来て、その姿を現した。


「!」


「あいつは!?」


「あ!」


シホやアルファが小さな声を上げて驚く。

遥か遠く、100m以上離れた高台に現れた一人の男は、

当たってほしくないオレの予想通り、

昨夜、宿屋の食堂に現れた、少し派手な貴族っぽい服装を着た男だった。

真っ黒な鎧の騎士たちの中から、グレーっぽい明るい色の服装で現れたため、

余計に派手に見える気がする。


「敬礼!」


ザザザッ ザザザッ


号令をしている者は高台に上がっていないため、

その者の姿は見えないが、その者の号令によって

騎士たちは一同に右拳を胸に当て始めた。

これが、この国の、帝国軍の敬礼なのだろう。

気づけばオレとファロスぐらいか。背筋を伸ばしたのは。

号令を聞くと自然と体が反応する。


「『ソウガ帝国』、参謀大臣! 及び、今回の討伐軍・副司令官の!

中曽根なかそね伴睦ともちか様より、ご挨拶と!

今回の『ゴブリン』の住処殲滅作戦の概要説明をいただく!」


みんなが黙って、紹介された男に注目している。

オレは・・・なんとなく、珍しい名前だなと感じつつ、

高台の上にいる男を見つめた。


「皆の者、ご苦労!

本日は、あの憎き『小鬼』どもを殲滅できる日である!

ここに集いし者たちは! 我が帝国軍の中でも、

より優れた騎士たち! そして!

帝国軍の後方を支えるために集まった『ヒトカリ』の傭兵たち!

お前たちは、いや、我々は!

総勢3000人のほまれ高き討伐軍である!!」


参謀大臣と呼ばれた男の演説が始まった。

あいつは、やっぱり騎士じゃなかったんだな。

手に筒状の拡声器を持っている。

あれがないと、これだけ集まった者たちへ声が届かないだろう。

3000人か・・・本当に戦争する勢いの規模だな。


「最初に重要なことを伝えておく!

本日、『小鬼』どもを殲滅する作戦は、我が帝国の極秘任務である!

本来、『ヒトカリ』の手を借りず、我が帝国軍だけで遂行するものであるが、

不測の事態が発生したため、傭兵の手を借りることになった!

・・・ちっ!

くれぐれも、今日の作戦、及び、討伐時の出来事は

外部へ漏洩ろうえいしてはならない!

情報をらした者は、極刑に処す!」


今、思い切り舌打ちしたな。

不測の事態とは・・・あの菊池という老騎士と

『カラクリ兵』がいなくなったことだろう。

たしかに、あの強さなら納得だが、


ざわざわ・・・


「極刑って死罪だろ? ヤバい条件だな。」


「そんな重い条件、『ヒトカリ』は承諾したのか?」


「お前、契約書を読まなかったのか? 書いてあったぞ。」


「あぶねぇ・・・俺、帰ったら自慢する気だったぜ。」


極刑という重い言葉が出てきて、傭兵たちがざわつく。

オレも契約書をよく読んでいなかったから驚いた。

一般人に知られてはならない、極秘の作戦・・・。


もしかして、あの参謀の男も

『例の組織』の計画を知っているのではないだろうか?

だから、今日の討伐での出来事を外部へ漏らさないために必死で・・・

いや、現時点では断定できないか。

あの参謀の男も、裏で操っているやつの言いなりかもしれないし。


「・・・なんだか違和感が・・・。」


「え?」


オレの後ろにいた木下が、小さく独り言のようにつぶやく。


「作戦の情報が事前に漏れてしまうのを防ぐために

緘口令かんこうれいを出すのは分かりますが、

今日の出来事すべてを漏らすな、というのは・・・

作戦が無事に終了した後には、結果を

全国民へ知らせるはずですし・・・何か不自然な感じがします。」


木下の言う通りかもしれない。

作戦の情報漏洩を防ぐだけじゃなく、

今日の結果すらも漏らさないというのは、どういうことだろうか?


「『小鬼』殲滅作戦の功績を、

俺たち傭兵に獲られたくないからじゃないか?

傭兵たちが騎士たちの報告よりも先に勝ち名乗られたら、

帝国軍の面目めんもくが潰れちゃうもんな。」


「なるほど。」


木下の横で聞いていたシホがそう予想した。

あの大臣は、まさしくプライドが高そうだ。

オレはシホの推測で納得したのだが、


「・・・。」


木下は黙って考え込んでいる。

シホの推測だけでは納得できない違和感なのだろうか。


「帝国軍の斥候せっこうたちによって、

『小鬼』を操っている主犯がいることが分かった!

少しは名が通った悪鬼あっき、イズナミ!

やつが鬼の国の国宝を使って、この『ソウガ帝国』に

大きな被害を与えた極悪非道の罪人だ!

やつを決して許さない! 我々、討伐軍で必ず討伐してやろう!

そして、気を付けねばならないことは!

この戦いの中、やつはあらゆるウソをついて、

我々の結束力、判断力を鈍らせることを口走るだろうが、

決して、決して! 罪人なんかの言葉に惑わされないように!

やつの言葉は、すべて事実無根じじつむこんだと思え!」


ざわ ざわ ざわ ざわ


首謀者の名前を聞いて、傭兵たちがざわついている。


「せ、世界指名手配犯か・・・。」


「『ヒトカリ』でも他言するなって言われてた情報だよな。」


「『小鬼』どころか本物の鬼がいるとか、シャレになってねぇよな。」


鬼族の強さは、世界的に有名だからか、

鬼がいると聞いて、身震いしている傭兵もいる。

事前に『ヒトカリ』から依頼を受ける時にもらった資料に

極秘情報として書いてあったが、

やはり鬼を討伐するとなると、少し緊張してくる。

実際に、オレたち傭兵が戦うことは無いだろうが。


「・・・以上を踏まえて、作戦を万全にするために!

傭兵たちには、我々帝国軍の後方支援に徹してほしい!

決して、傭兵が騎士よりも前へしゃしゃり出ないように!

騎士たちの前には敵あるのみ! 

功績欲しさに前へ出た傭兵たちは、敵と見なす!

忘れないでほしい! 今回の作戦のかなめは、

この『ソウガ帝国』の第三王女、テオフィラ様が

率いる討伐軍の第一軍が、最前線にて敵を殲滅してくださる!

その他の我々は、テオフィラ様の邪魔にならぬように!」


「こ、後方支援だよな。そうだよな。

鬼退治させられるのかと思って、ヒヤヒヤしてたぜ。」


「バカ、最初から『ヒトカリ』でそう言われてただろうが。」


傭兵たちの声がうるさくて、あの参謀の男の声が聞き取りにくかったが、

やたらと例の王女のチカラを過信しているような言い方だったな。

それとも、わざと持ち上げて言っているだけだろうか?


「・・・テオフィラ様・・・。」


アルファが、小さくつぶやく。

まるで、自分のあるじの名前を確認するように。


「テオフィラ様の絶大なチカラさえあれば!

我々、討伐軍の勝利は間違いない!

・・・ただ、戦場では何が起こってもおかしくはない。

もしも、誰かが作戦中に、不慮の事故に遭ったとしても!

臨機応変で! この参謀大臣である俺様が!

直々に! 指揮をとることになろうとも!

我々は必ず勝たなければならない!」


「おじ様・・・あの男、もしかして・・・。」


「あぁ・・・。」


さっきから、あの参謀の男の話を聞いていると、

まるで『例の組織』の計画を知っているように聞こえる。

むしろ、計画を実行する犯人のような言葉使い・・・。


「まさか、あいつが・・・。」


あの菊池という騎士が言っていた、

「計画を考えたもう一人のやつ」とは、

あの参謀の男なのではないだろうか?

木下もそう感じ取っているようだ。


「傭兵たちの後方支援の内容については、

出発前に受付の場所で、第八騎士団副団長から

説明を受けるように! 以上!」


そう叫んで、あの参謀の男が高台から降りて行った。

話が長かったが、だいたいは傭兵たちに

「余計なことはするな」「秘密にしとけ」と

釘を刺しているような内容だったな。


それよりも、参謀の男が、もしも『例の組織』のメンバーだったなら・・・

昨夜、オレを見た時のあいつの表情にも納得がいく。

あいつは、オレのことを知っていたということか。


あいつに命を狙われている第三王女が、今回の作戦の要とかなんとか。

帝国軍の邪魔にならないように後方支援しているだけでは、

王女の命を守れない・・・。


「本当に、拙者たちは、

後方支援しかさせてもらえぬようですな。

そうなると、あの王女のお命が・・・。」


オレと同じくファロスも気づいたようだ。

しかし、戦闘時、不用意に王女へ近づくことも無理だろう。

これは、何か策を考えねば・・・。


オレたちの心配をよそに、


「敬礼ーーー!!」


ザザザッ ザザザッ


ざわわ


また号令が聞こえてきて、号令によって

騎士たちが一同に右拳を胸に当て始める。

傭兵たちは逆に騒がしくなる。


カッ カッ カッ


重い足音が響いてくる。

そして、高台に上って姿を現したのは・・・女性だ。

ものすごい重装備。他の騎士たちの鎧と違って、

全体的に黒色、赤色と金色の線が入っている鎧。

胸のあたりに金色に光る王冠の紋章。

一目で女性だと分かったのは、胸のあたりが異常に大きく出ていたからだ。

ここからでは魔力を感じられないが、あれが魔道具の鎧なのか。

あれを着こなすには相当な筋力が必要だろう。

そして、真っ白なマントが風でなびいている。

高台に上った女性が、重々しい兜を脱ぐと、

茶色の短い髪と、美形の整った顔が見えた。


「『ソウガ帝国』、第三王女! 第一騎士団、団長、

今回の討伐軍・最高司令官の!

ソウガ・バンビーノ・テオフィラ様より、

ご挨拶をうけたまわります!!」


姿が見えない騎士の声が響き、

高台の上の、その王女が拡声器を口に当て、挨拶を始めた。


「みんな、よくぞ集まってくれた!

我々は、『ソウガ帝国』に甚大な被害を及ぼした、

憎き『小鬼』どもと、それを操っている主犯の鬼を!

今日、必ずや殲滅すると、ここに宣言する!

悪を滅ぼせ! 正義を執行せよ!

我らこそが正義なりーーー!」


バサッ!


「「「おおおおおおおおおお!!!!!」」」


「!」


王女が高々と拳を天へと突きあげながら宣言し、

真っ白なマントが大きくなびいた。

それに続いて、整列していた騎士たちが拳を天へ突き上げ、

大きな声で応え始めたので、びっくりさせられた。

ニュシェの獣の耳もビクビクっと動いて

耳をフタにするように垂れ下がった。


カッ カッ カッ


王女は、それだけ宣言して、さっさと高台を降りて行った。

参謀の男が長話をして、だいたいのことを説明したから、

今さら王女から話すことが無かったのだろう。

しかし、短い言葉で、しっかりとこの大軍の士気しき

盛り上げていった。さすが王族の女性というべきか。


「くっくっく・・・正義を執行か。

性技せいぎのほうだったりしてな。」


「あはっ・・・笑わせるなよ。」


「おい、そこの第二騎士団! 私語を慎め!」


騎士たちは、しっかり整列していて、

無駄な私語も慎んでいるようだが、ここから

少し離れた騎士たちだけ、姿勢が正しくないやつらがいる。

そいつらは小さな声ではあるが、コソコソと会話しているようだ。

ほかの騎士に注意されている。

距離が離れているし、ここからでは姿が見えにくいが、

注意された騎士たちは、第二騎士団らしい・・・。


第二騎士団って・・・たしか・・・。


「あの者たちは・・・昨夜、宿屋の食堂にいたやつらでござるな。」


オレよりも背が高いファロスが、小さな声でつぶやいた。

ファロスからはやつらが見えているようだ。

昨夜、会った騎士たちか。


「第二騎士団・・・あの菊池という老騎士が団長だった・・・。」


「!」


木下のつぶやきで思い出せた。

そうか。あの菊池という騎士が率いていた第二騎士団のやつらか。

よく見えないが、ガラが悪そうに見える。

昨夜の騎士たちの態度は、酒のせいではなかったということか。




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