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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第五章 【エルフの赤雷と怠惰の赤鬼】
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真夜中の尋問




オレたちは、宿屋『サリール』の青空食堂で

夕食をするために屋上へと向かった。

まだクラリヌスが眠っているため、木下だけ部屋でお留守番。

オレたちが食べた後で、2人の食事を部屋まで運ぶ約束をした。


夕方の屋上は、涼しい風こそ吹いてはいるが、

床のレンガに昼間の熱がこもっているようで

少し熱さを感じていた。

料理は、そこそこ美味しいが、

なんとなく一品ごとの量が少ない。

それでいて高値なのだから、多く頼めない。

メニューには酒もあって、見張り役の木下もいないし、

頼もうかと考えたが、やはりお金のことが気になって頼めなかった。

オレたちは、そこそこ腹が満たされてから、

木下たちの部屋へ料理を運んでやった。

クラリヌスは、まだ眠っていたが、

心なしか、顔色が良くなっているように見えた。


木下が食べ始めてから、解散して、

おのおのの部屋へと戻っていった。

シャワーしかない部屋だが、それだけでもじゅうぶん。

昼間の汗を洗い流せてさっぱりした。

寝る前に歯を磨こうと思ったら、

オレの荷物の中に、いつの間にか手紙が入っていた。

差出人は、木下。「真夜中に屋上へ」と一言だけ書かれてあった。

この手紙は、いつ・・・オレがシャワーを浴びている時か?

いや、ファロスがずっと部屋にいたから、それはないだろう。

ということは・・・オレたちが食事に屋上へ行っていた間か?

部屋にはカギがかかっていたはずだが・・・

『スパイ』にはカギなど無意味なのか。




夜になり、ファロスは早々に眠ってしまった。

意識がないことが分かるほどに深く寝ている。

野宿だと、警戒しながら寝ていて、ゆっくり寝た気がしないからな。

かくいうオレも、かなり眠い。早朝から動いているから、

酒を飲まなくても、夜になれば眠くなる。

我ながら、健康的な生活に慣れたものだな。

ゆっくり寝てくれと心の中でファロスを労いつつ、

そっと起きて、部屋を抜け出し、宿屋の屋上へと向かった。


青空食堂は閉店している時間だ。

真っ暗な中、壁に手を当てつつ、

ゆっくりと屋上へ続く階段をのぼっていく。

しばらくすると、少しずつ暗闇に目が慣れてきた。

人の気配が一人だけしか感じられない。

屋上は、薄い月に照らされて、

ぼんやりとテーブルや人影が目視できる程度の明るさだ。

夕食時の賑やかさを知っているからこそ、

殊更ことさら、夜の静けさを感じる。

オレは、ゆっくり無言で人影へ近づいた。


「おじ様?」


まだ闇夜に目が慣れていないのか、

木下が小声で確認してきた。


「あぁ、オレだ。」


オレも暗闇に目が慣れたとはいえ、完全に見えるわけではなく、

木下のシルエットがぼんやりとしか分からない。

その席に座っている木下が


「どうぞ、座ってください。」


と、オレにうながして来た。

言われるままに、木下の目の前の席に座る。


「っ!!」


ガタンッ


座った途端、オレは驚いて反射的に立ち上がってしまい、

椅子が音を立てた。その音は、大きかったように思うが、

ほとんど響かず、音が闇の中に吸い込まれていったように感じた。


「こんばんは、佐藤様。」


オレが驚いたのは、木下しかいないと思い込んで

椅子に座った瞬間、いつの間にか、

オレの左隣りの椅子に人影が座っていたのを見つけたからだ。

その気配が無かった人影が呑気のんきに挨拶してきた。

声を聞けば、誰だか分かる。

いや、こんな悪意ある登場の仕方をするやつは、

ペリコ君しかいない。


「驚かせてしまい、申し訳ありません。」


謝っているが、気配は消したままだ。

いつも通り、ペリコ君は黒っぽい服装なのだろう。

ちょっとでも距離が離れると、

完全にその姿が闇夜と同化してしまって、声を発していないと、

そこに存在しているのかどうかも分からなくなる。


「おじ様、音を立てないでください。」


木下に小声で注意される。


「あのな・・・ふぅ、分かった。」


一言、言ってやりたかった気持ちを抑えた。

こいつら『スパイ』に「気配を消すな」なんて言っても無駄だな。

オレは用心しながら、今度こそ、そっと椅子に座った。


「相変わらずだな、ペリコ君。」


「? お褒めの言葉として受け取っておきます。

ありがとうございます。」


褒めてない!と思ったが、

こんなことで腹を立てていても話が進まない。


「それで、今夜の話はなんだ?」


「佐藤様に、今一度、確認したいことがございまして。」


話し始めたのは、木下ではなくペリコ君だった。

そうか、今回、話があるのはペリコ君だったのか。


「確認?」


「はい。佐藤様が

本当に『ソウルイーターズ』と関係がないのかどうか・・・。」


「え?」


なんの話をするのかと思えば、

ペリコ君から、意外な話が出てきた。

オレが『例の組織』と関係があるかどうか、だと?


「オレが『例の組織』と関係が無いことは、

すでに分かっていると思っていたが?

オレは、お前たちに『例の組織』の存在を聞かされるまで、

全く知らなかったんだからな。」


「それは、今も?」


「? どういう意味なんだ?

なぜ、今さらオレを疑う?」


話が見えてこない。

ペリコ君は、何を思って、

オレと『例の組織』の繋がりを疑っているんだ?

オレが、そんな素振そぶりをしたことがあったか?


「私は、おじ様が嘘をついているとは思えないし、

嘘を突き通せるとは思えないので、その可能性はないと

ペリコさんにもお話ししたのですが・・・。」


木下が、少し困ったような声で言う。

嘘をつけないというのは本当だが、

その言い方は、少し見下されている気がする。


「つまり、ペリコ君は、オレが嘘をついていると?」


「さて、どうでしょう?

可能性としては、無いこともないのでは?」


左隣りに座っているペリコ君は、

完全にオレへ体を向けて、

少しずつ圧をかけてきている気がする。

それどころか、いつの間にか椅子ごと接近してくる。


「可能性は、ゼロだろ。

それは、ずっと尾行しているペリコ君が

一番分かっているのではないか?

何か根拠こんきょでもあるのか?」


これだけ面と向かって、疑ってかかってくるのだから、

何か証拠があるのだろうか? 身に覚えはないが。


「根拠・・・というほどのモノではありませんが、

『とある疑問』と言いますか、『疑惑』がありまして。」


やけに遠回しな言い方をしてくる、ペリコ君。

しかし、疑いというだけで確たる証拠はないということなのか?


「疑惑・・・?」


「そうです。なぜ佐藤様は・・・

『ソウルイーターズ』の、あの『はぐれの黒鉄』に

勧誘されたのでしょうか?」


「は? はぐれ・・・なに?」


一瞬、ペリコ君が何を質問しているのか分からなかった。

『はぐれナントカ』に聞き覚えが無かったからだ。


「おじ様、この間、おじ様が斬った老騎士の男のことですよ。

『ソウルイーターズ』の『はぐれの黒鉄』。

菊池亮太という、『ソール王国』出身者です。」


オレが忘れていることを指摘して、教えてくれる木下。

木下から聞かされて、ようやく思い出す。


「菊池・・・あぁ、あいつか・・・。

まさか、あいつに勧誘されたからって、

オレがやつらと繋がっていると!?」


なんともヒドイ言いがかりだ。


「!」


「あの菊池という騎士が、佐藤様だけを勧誘したのは、

佐藤様が『ソール王国』出身者だったからと推測していますが・・・

さて、本当に、それだけでしょうか?

『ソウルイーターズ』の組織内部も分かっていない中、

あの騎士が言っていた『あの方』というのは誰のことでしょうか?」


左隣りの席に座っているペリコ君が、さっきよりも俺の方へ

体を近づけて、立て続けに質問してくる。

隣りの席というより、もうすでに横に並んで座っている状態。

この威圧的な態度、質問責め・・・まるで尋問じんもんのようだ。


「そ、それはオレにも分からん・・・ぬおっ!」


「本当に分からないのでしょうか?

もしかして、あの菊池という騎士と面識があったのでは?

『あの方』にも心当たりがあるのでは?」


さらにペリコ君が体を近づけてきて、

ついには、その胸がオレの腕に接触した! 顔も近い!

身をのけぞらせて離れようとしても、

ペリコ君がどんどん迫ってくる!


「ペ、ペリコさん!? やりすぎでは!?」


オレの対面に座っていた木下が、

ペリコ君とは反対側、右隣りの席へ移動してきて

ペリコ君を抑えて・・・くれるわけでもなく、

オレの右隣り、すぐ横に椅子ごと移動してきて、

右横からオレを抑え込む形に!

オレは、木下に退路を断たれた形となった。


「ユンム、は、離れて・・・!

ペ、ペリコ君、これは尋問というか拷問ごうもんだぞ!?」


「さて、それはどうでしょう。

片腕の私では、佐藤様にチカラでは勝てません。

佐藤様が本気を出せば、私がこうして迫っても、

簡単に押しのけることが出来るはずです。

尋問や拷問など成立しないと思いますが?」


「で、では、なぜ迫ってくる!?」


「私は、ただ質問しているだけですよ?

真夜中の、誰もいない屋上で、男女がヒソヒソ話し合う・・・。

距離を縮めないと、誰に聞かれるか分かりませんし、

静かに話し合わないと、内容が内容ですから、ね?」


「っ!!!」


「ペリコさん!?」


ペリコ君がとうとうオレのヒザの上に乗って来た!

そうなる前に跳ねのければよかったのに、気づいた時には遅かった!

椅子に座っていて、上体をのけぞらせた状態で、

ヒザの上に乗られると、立ち上がることが出来ない!

暗いからこそ、他の感覚が鋭くなっているのか、

ペリコ君から、ほのかに甘そうなニオイが・・・これは・・・!


「い、今さらオレに色仕掛けするとは!」


これは香水!?

今までペリコ君から、こんな女っぽいニオイはしなかった。

つまり、ワザと香水をつけてきた!

ペリコ君の右手が、いつの間にか

オレの後ろ首へ回されている!

手で払いのけようとしても、暗すぎて、

相手のどこを触ってしまうか分からない。

うっかり手で触れてしまったら、こいつがどんな情報を

女房に流すか分かったものじゃない。

しかし、このままでは・・・

こいつら、本気で『ソール王国』出身者の遺伝子を!?


「ふふっ、こんなのは色仕掛けのうちに入りませんよ。

それより、どうなんですか?

『ソールイーターズ』との連絡手段は?

『あの方』とは、何者ですか?」


「わ、私だって、それくらい・・・!」


「! ユンム! やめろ!」


オレの右隣りから木下が抱きついて来た!

大きくて柔らかいものが腕を挟み込んできて!

まるで二匹のヘビにじわじわと体が巻き付かれているようだ!

こ、こいつら・・・!


「や、やめろ!」


「声が大きくなってますよ、佐藤様。

みんなが寝静まっている真夜中に、大声を出してしまうと、

この状態を、誰かに見られてしまうかもしれませんよ?」


じわじわと攻めてくるような言い回し。

そして、目前に迫ってくるペリコ君の顔!


「や、やめろ・・・やめてくれ・・・。

本当に知らないんだ・・・『例の組織』の名前すら、

オレは、いまだに覚えられない・・・。

あ、あの菊池という男にも初めて会ったし、

『あの方』がどの方なのかも知らん。身に覚えはない・・・。」


小声ながらも必死に訴える!

顔が熱くなっていて、自分が何を喋っているのかも分からなくなってくる!

軟らかくて、生温かいモノが、右から左から!


「本当に知らないかどうか・・・

佐藤様の体に聞いてみましょうか?」


普通の拷問なら、そういう言い方で、

痛めつけられる想像をさせて、自白させるものだが、

今のこの状況では、なまめかしい意味に聞こえてしまう。


「た、たのむ、やめてくれ!

知らないモノは知らない!

分らんモノは分からん!」


ペリコ君の顔が近すぎて、もはや目を開けていられない!

オレは目を閉じながら必死に喋り続ける。


「そ、それから! それから! お前ら!

こんなことに自分の体を使うな! もっと自分を大事にしろ!

それと、えー・・・オ、オレたちは、もう仲間だろ!?

オレを信じろ!」


「「!」」


目を閉じていても、2人の体温が伝わってくる!

顔の肌で、ペリコ君の熱気が伝わって!

吐く息が顔に当たるほどだ! 近すぎる!

唇が・・・!


スッ


「っ!」


突然、感じていた感触や体温が、スッと離れた!

オレのヒザの上に座っていた体温も、

オレに抱きついていた体温も、消えた!

おそるおそる目を開ければ、


「ふぅ・・・申し訳ありません、佐藤様。」


「ごめんなさい、おじ様。」


オレから離れて、一定の距離を空けて、

椅子に座り直した2人が、謝ってきた。


「数日前の『ソウルイーターズ』襲撃の一件で、

事後の情報を整理していた際、

私たち『諜報部』の中で、佐藤様への疑惑が持ち上がり、

それを本人に直接確認するという指令を私が受けました。」


ペリコ君が頭を下げながら、そう言った。


「ふぅ・・・。」


オレは、それまで息が出来ていなかったのを思い出し、

小さく呼吸した。夜の外の空気が涼しく感じる。

顔が熱い・・・いつの間にか、たくさん汗をかいていたようだ。


「そ、それで、このようなマネを?」


「申し訳ありません。

佐藤様から真実を聞き出すためには、拷問しかないと・・・

しかし、佐藤様をチカラでねじ伏せるのは無理だと判断し、

このような方法を取りました。

妻帯者さいたいしゃでおられる佐藤様に、有効な拷問方法でしたので。

お許しを。」


相手から真実を聞き出す方法が、拷問しかないわけないだろ!

『スパイ』なのに短絡たんらく的すぎる。

いや、『スパイ』だからこそ、そういう方法しか思い浮かばないのか。


「私がやるって言ってたのに。」


「ユンム様には少々難しい役目と思われたので。」


「で、できます!」


木下がペリコ君と張り合おうとしているが、

こんなことはできなくていいと思う。


「はぁ・・・普通に聞いてくれればいいものを。

それで? もうオレへの疑惑は晴れたのか?」


「佐藤様へ普通に質問したとして、

それが100%真実を答えているかは分からないものです。

しかし、今の方法で・・・そうですね。

ほぼ100%、ウソはないと判断しました。」


ほぼ、か。100%に近い確信があったとしても、

完全には信じ切れていないという判断じゃないか。

・・・それは、オレも同じか。


「それと・・・。」


「?」


「仲間、と思っていただけていることに、

少し驚きましたが・・・その・・・少し、嬉しかったです・・・。」


ペリコ君が、何やら恥ずかしそうに言うので、

こちらも何か恥ずかしいことを口走った気がして

なんだか照れる。


思い返せば、どうしてそのようなことを口走ってしまったのか。


しかし、不思議と口から出まかせを言ったわけではないと

自分の中で感じている。

それは、今まで、旅を共にしてきた木下や、

正体を現してから、たびたび協力してくれているペリコ君に対して、

いつの間にか、信頼関係が出来上がってきている・・・

心の中で、そう感じている自分がいる。


「おじ様の本心、聞けて良かったです。」


木下までもが、照れながら、そんなことを言う。

2人も、いつの間にか

オレのことを信頼してくれるようになっているのかもしれない。

オレのことを疑っていたのは、こいつらの『スパイ』仲間であり、

あくまでもペリコ君は指示通りに拷問してきたわけだな。


「と、とにかく、お前ら。

オレは初めから『例の組織』など知らんからな。

例え、これから勧誘されても、断固として断る。」


改めて言っておいた。

これは、決意表明みたいなものだ。

これからも勧誘されるとは限らないが、

勧誘されるたび、襲われるたびに、疑いを持たれては困る。


「私は信じてましたけどね。ペリコさんが・・・。」


「私も信じていましたよ。でも上官の命令は絶対なので。」


「あ、ペリコさん、ウソはいけませんね。

少しでも疑いがあるうちは信用ならないとか、

言ってましたよね?」


「ユンム様こそ、疑いがあるなら仕方ないと。」


今度は、お互いになすり付け合いか。

どっちでもいいのだが、やはり

まだまだ完全に信頼しているわけではないようだ・・・お互いに。


「しかし、疑問は残ったままですね。」


「え?」


「あの騎士は、なぜ佐藤様を勧誘したのか・・・。」


ペリコ君が、考え込みながら言う。

たしかに、それは疑問だな。


「それは、おじ様が『ソール王国』出身者だからじゃないですか?

『ソウルイーターズ』は、『ソール王国』出身者だけの

集団だと聞きますから。」


「さて、どうでしょう?

それならば、なぜ

「なるべく生かして捕縛して来い」という命令になるのか?」


「そ、それは・・・。」


ペリコ君の言う通りだ。

たしかに、あの菊池という騎士は、

そういう命令だと言っていた気がする。

「最悪、殺してしまっても問題ない」みたいなことを言っていた・・・。


「あの命令だと、佐藤様の命がなくとも、

体さえ手に入れれば、それでいいように聞こえます。

『あの方』という人物は、なぜそれほどまでに

佐藤様に、こだわっているのか・・・?」


「・・・。」


暗いから分かりにくいが、ペリコ君が

オレのことをジロジロと物を見定めるかのように観察してくる。

ペリコ君も木下も、それっきり黙ってしまった。


『例の組織』が、オレを勧誘する理由か・・・。

やはり『ソール王国』出身者だから、というのが一番だろう。

死んでも問題ない理由は・・・ペリコ君たちと同じ理由で、

『ソール王国』出身者の遺伝子が欲しいとか?

しかし、なんのために必要なのか・・・。

そこまでは分からないな。

考えたところで答えは出ない気がした。


「あー、今夜の話は、これでおしまいか?

ほかに『例の組織』についての新しい情報は?」


オレは、もうこれ以上の話し合いはないと判断して、そう言った。

正直、眠くなってきている。この歳で夜更かしはツラい。


「今のところ、掴んでいる情報は

『クリスタ』の病院で、お伝えした通りです。」


ペリコ君がさらっと答えたが、

オレは、その言葉で、あの病院のトイレの出来事を

思い出して、つい睨んでしまった。

しかし、暗闇でオレの表情が読めないのか、

わざとなのか、ペリコ君は作り笑顔のままのようだ。


「そう言えば、あの病院での報告も拷問みたいな時間だったな。」


「? 佐藤様のお体の回復を待ってから、

受けた指令を実行する予定でしたので、

今夜、実行させていただきました。」


思いっきり皮肉をこめて言ってみたが、

ペリコ君には、うまく伝わっていないようだ。

回復を待ってから拷問するというのも、

優しいようで、優しさのカケラもない答えだな。

やはり、こいつらは『スパイ』なんだな。一般常識が通じない。


「私からの報告も、これ以上、特には・・・あっ!

おじ様が勝手に旅のルートを変更したため、

東の隣国『ヴェルブリュート王国』を通らず、

北東の隣国『ウェルミス王国』を通ることになります。

ですが、私は『ヴェルブリュート王国』を通ったことはありますが、

ルート変更後のその先は、

全く知らない国を通っていくことになります。」


木下が思い出したように、そう言った。

少々、いや、かなり嫌味も含まれていた。

木下としては、今まで知っている土地を旅していたから

勝手が分かっていたが、ルート変更されると、この先、

自分も未知の土地を進むことになり、

勝手が分からず、不安なのかもしれない。


「ここより北東の国『ウェルミス王国』ですか・・・。

この『ソウガ帝国』と敵対関係にあり、

過去には通行も許可されていなかったようで、

国境の大橋も未完成のままと聞いております。」


「国境の大橋? 川が国境にあるのか?」


「いえ、『ハーウェア大谷おおたに』という

深い渓谷けいこくがあるようです。

橋が無い現在でも、通行は可能なようですが。」


「そうなんですね。では、問題なさそうですね。」


「問題は・・・そうですね。ありません。」


少し間があったのは気になるが、

ペリコ君は、周辺の国のことを

よく知っているようで、すぐに答えてくれる。

この先、ペリコ君が案内役としてパーティーに加わってくれれば、

どんなに心強いことか。

しかし、『スパイ』なのだから、勧誘しても無駄だろう。


「ところで、お二人は、虫はお好きですか?」


「? 別に好きでも嫌いでもないが?」


「私は大嫌いです。」


もう話し合うことはないと思っていたら、

突然、ペリコ君がおかしな質問をしてきた。


「佐藤様は問題なさそうですが、

ユンム様は・・・困りましたね。」


「な、何が困るのですか?」


「『ウェルミス王国』の主食が虫なのです。」





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